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第7話 専属スタイリスト爆誕
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フローレスは今日も穏やかな時間が流れていて、窓を開ければ、柔らかなお日様の光りと花の香りが部屋の中に入り込む。
「よーし、昨日の続きをするぞ~」
窓辺の椅子に座って趣味のぬいぐるみ作りに励んでいると、大通りから賑やかな声が聞こえてくる。
歓声やどよめき、そして大きな笑い声が次々と聞こえてくるから気になってしまい視線を向けるけど、目の前の通りはいつも通りの賑わいよう。
「となると、広場で何かあるのかな?」
窓枠に手をかけて前のめりになって見てみると、通りをひとつ挟んだ向こう側にある広場に、見慣れぬ風景が広がっている。
集合住宅の三階くらいはありそうな背の高い木の板が聳え立つ舞台ができており、その真上には、花で彩られた大きな幕が魔法で宙に浮いているのだ。
目を凝らすと、木の板には王宮の内部のような華やかな風景が描かれていて、まるでその景色を魔法で切り取って持ってきたかのようだ。
「わぁっ! 何やってるんだろ?」
もう少しよく見たいと思ってぐっと体を乗り出してみると、隣の部屋の窓から視線を感じた。
振り向くと、窓枠に肘をついているサディアスと視線がかち合う。
シャツに黒色のベストを合わせたサディアスはシャツの袖を肘の辺りまでめくりあげていて、袖から覗く腕にはしっかりとした筋肉がついている。
どうやらサディアスは着やせするタイプらしい。
騎士服を着ている時はわからなかったけど、それなりに筋肉がついているようだ。
「ティナは初めて見るわよね。あれは野外演劇よ。きっと舞台魔術師が夜のうちにあの会場を作ったのね」
「へぇ。劇団って地方にも来てくれるんだ」
「ええ、駆け出しの劇団はこうやって各地で演劇を披露して名を上げるのよ。それに、劇場を借りるのにはそれなりの出費が必要だから屋外でして費用を抑えているってわけ」
「ふぅん」
演劇という娯楽があるというのは知っているけど知識程度。
王都では貴族たちが家族や恋人と観に行くのが主流であるからとても値が張る娯楽といった印象だ。
私には一生縁がないものだと思っていたけれど、目と鼻の先に舞台があるのなら観てみたい。
よし、決めた。今から予定変更だ。ぬいぐるみ作りは明日にまわしてお出かけにしよう。
「私、演劇を観に行ってくる」
「……お待ちなさい。ティナったらその恰好のままで行くつもり?」
「へ?」
もちろん、今の服装のままで行くつもりだ。
今私が身につけているのは襟にさりげなくレースがあしらわれたブラウスに、チョコレート色のロングスカート。どちらも綻びも汚れもなく綺麗な新品である。
「そうだけど?」
「あらヤダ。そんな芋くさい恰好で出かける気なのぉ?」
サディアスは美しく整った眉を顰め、口元に手を当てる。まるで私から異臭がするとでも言わんばかりの仕草で、本当に失礼極まりない。
「サディアスには関係ないでしょ? 何を着ようが私の自由だし」
「いーえ、ティナが一番輝く服を着て欲しいの。だって、ティナの初めての演劇鑑賞よ? そんな記念すべき日は最高に可愛いティナを目に焼きつけたいのよ!! アタシが!」
「それはサディアスの勝手でしょ?!」
「さあ、ゴタゴタ言ってる暇はないわよ! ティナの魅力が最大限に引き出される服を全身全霊で選んであげるわ!」
そう言うや否や、サディアスは窓辺から姿を消して、数秒後には扉を叩いて「部屋に入れなさいよ」と催促してくるのだった。
「よーし、昨日の続きをするぞ~」
窓辺の椅子に座って趣味のぬいぐるみ作りに励んでいると、大通りから賑やかな声が聞こえてくる。
歓声やどよめき、そして大きな笑い声が次々と聞こえてくるから気になってしまい視線を向けるけど、目の前の通りはいつも通りの賑わいよう。
「となると、広場で何かあるのかな?」
窓枠に手をかけて前のめりになって見てみると、通りをひとつ挟んだ向こう側にある広場に、見慣れぬ風景が広がっている。
集合住宅の三階くらいはありそうな背の高い木の板が聳え立つ舞台ができており、その真上には、花で彩られた大きな幕が魔法で宙に浮いているのだ。
目を凝らすと、木の板には王宮の内部のような華やかな風景が描かれていて、まるでその景色を魔法で切り取って持ってきたかのようだ。
「わぁっ! 何やってるんだろ?」
もう少しよく見たいと思ってぐっと体を乗り出してみると、隣の部屋の窓から視線を感じた。
振り向くと、窓枠に肘をついているサディアスと視線がかち合う。
シャツに黒色のベストを合わせたサディアスはシャツの袖を肘の辺りまでめくりあげていて、袖から覗く腕にはしっかりとした筋肉がついている。
どうやらサディアスは着やせするタイプらしい。
騎士服を着ている時はわからなかったけど、それなりに筋肉がついているようだ。
「ティナは初めて見るわよね。あれは野外演劇よ。きっと舞台魔術師が夜のうちにあの会場を作ったのね」
「へぇ。劇団って地方にも来てくれるんだ」
「ええ、駆け出しの劇団はこうやって各地で演劇を披露して名を上げるのよ。それに、劇場を借りるのにはそれなりの出費が必要だから屋外でして費用を抑えているってわけ」
「ふぅん」
演劇という娯楽があるというのは知っているけど知識程度。
王都では貴族たちが家族や恋人と観に行くのが主流であるからとても値が張る娯楽といった印象だ。
私には一生縁がないものだと思っていたけれど、目と鼻の先に舞台があるのなら観てみたい。
よし、決めた。今から予定変更だ。ぬいぐるみ作りは明日にまわしてお出かけにしよう。
「私、演劇を観に行ってくる」
「……お待ちなさい。ティナったらその恰好のままで行くつもり?」
「へ?」
もちろん、今の服装のままで行くつもりだ。
今私が身につけているのは襟にさりげなくレースがあしらわれたブラウスに、チョコレート色のロングスカート。どちらも綻びも汚れもなく綺麗な新品である。
「そうだけど?」
「あらヤダ。そんな芋くさい恰好で出かける気なのぉ?」
サディアスは美しく整った眉を顰め、口元に手を当てる。まるで私から異臭がするとでも言わんばかりの仕草で、本当に失礼極まりない。
「サディアスには関係ないでしょ? 何を着ようが私の自由だし」
「いーえ、ティナが一番輝く服を着て欲しいの。だって、ティナの初めての演劇鑑賞よ? そんな記念すべき日は最高に可愛いティナを目に焼きつけたいのよ!! アタシが!」
「それはサディアスの勝手でしょ?!」
「さあ、ゴタゴタ言ってる暇はないわよ! ティナの魅力が最大限に引き出される服を全身全霊で選んであげるわ!」
そう言うや否や、サディアスは窓辺から姿を消して、数秒後には扉を叩いて「部屋に入れなさいよ」と催促してくるのだった。
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