上 下
1 / 4

第一話

しおりを挟む



 青い海に浮かぶ島々の一つにリゼットスティアという美しく豊かな国があった。リゼットスティアを治める国王も精霊を見まごうほどに美しいと評判で、朝の日の光のような金色の髪、新緑の瞳は切れ長で知的な雰囲気を湛えていたがいつも浮かべている微笑みがともすれば冷たく見える目元の雰囲気をやわらげていた。背は高く、手足はすらりと伸びていて、姿勢の良さがそれらをいっそう際立てている。

 リゼットスティアの女性は皆、一度はこの若く美しい王に恋をするとまで言われていた。

 もちろん恋と言っても憧れの延長線にあるもので、本気の恋をするものはめったにいないのだが――国王は目の前の女性に大して笑顔は崩さずに内心で大きく息を吐いた。うっかり本音を漏らすわけにはいかない。何しろ彼女は、隣国の王女なのだから。





 リゼットスティアのとなりの島の国の王女であるフィロメナもまた美しいと評判の女性だった。彼女はリゼットスティアの国王をひと目見てみたいと常々思っていたのだが、かの国とは最近やっと同盟が結ばれて国交が開かれることになったところだったので今まで一度も会う機会を得ることができなかった。

 もしリゼットスティアとの同盟が以前から結ばれていてかの国との交流があったのなら王妃に選ばれていたのはわたくしだったかもしれないわ。フィロメナは自分に来た釣書の山を退屈そうに眺めながらそんなことを考えていた。

 兄である王子がリゼットスティアに赴くことになったのはそんなある日のことだった。フィロメナはその話を聞くとすぐに父である国王に自分もリゼットスティアに行きたいと願い出た。父である国王は娘にはすこぶる甘かったので、兄の妃が妊娠していて船旅は難しかったため代わりのパートナーとしてリゼットスティアに行くことを許可してくれた。

 こうしてフィロメナはリゼットスティアにやって来た。兄と、これからこの国に大使として滞在する臣下、護衛や従者、侍女たちと共に。リゼットスティアは噂にたがわぬ美しい国で、街道はよく整備され、緑と花であふれ、石造りの建物が並ぶ王都はまるで絵物語に出てくる王国のようだった。
 フィロメナの滞在先は王都に新しく作られた大使館だった。広々としているがどこか温かみのある邸で、庭には泉があり、さわやかな森林の香りがした。兄や、これからここで暮らす大使たちはこの邸をとても気に入ったようだが、フィロメナはすぐに王城へ行けないことが不満だった。この国の国王に会えないのであればなんのためにやって来たのか。兄と大使を説得し、同盟の締結を祝い大使を歓迎するための夜会が開かれる前に兄がリゼットスティアの国王と会う時、フィロメナも同行することになったのだった。


しおりを挟む

処理中です...