【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人

通木遼平

文字の大きさ
5 / 6
ギディオン

第五話




 こうしてギディオンはアルティナと婚約することになった。しかしいざ婚約者の立場を手に入れてみると、とたんにギディオンは不安になった。これは言わばアルティナを守るための政略結婚で、ギディオンはもちろんアルティナを愛していたし彼女をしあわせにするつもりだったが、アルティナの気持ちはどうなのかわからなかったからだ。

 去年、ギディオンとアルティナは結婚した。結婚式は辺境の地で行われたがそれぞれの王家の者が訪れ盛大だった。アルティナの父はギディオンを見て何とも言えない顔をしていたが、ギディオンはそれよりもアルティナと親しげに話す獣の耳を持った男の存在の方が気になった。





 婚約者としてはじめて顔をあわせた時も彼の存在はアルティナの傍に――厳密にいえば彼女の父である国王の傍にあった。聞けば王の秘書官だと言う。その時も、ふとした瞬間に彼女は親し気に彼に話しかけていて、彼もまたやわらかい表情でそれに答えていた。
 婚約者の顔あわせの場に同年代――かどうかは人間と寿命が違うので実際にはわからないが――の男を連れてくるなんてと咎められればよかったが、相手の方が立場が上だしギディオンはアルティナが好きだったのでそんなことを言えるはずもない。もし言えたとしても王の秘書官として同席していると言われて終わりだっただろうが。





 その日も、親しみを感じさせる笑顔で秘書官と話す彼女を少し離れたところで見つめながら、嫌な予想ばかりが浮かんでくる。彼女はもしかして、彼のことを想っているのだろうか? 一年に一、二回しか会えないギディオンでは普段彼女が彼女の国でどんな風に過ごし、どんな友人がいるのかわからない。恋人だっているかもしれない。
 いくら祖父が治める国だとは言え、親元を離れる上に周りは知らない人間ばかり。移住は仕方ないと割り切っても、こうして好きでもない男の妻になるなんて……浮かれていた自分が急に恥ずかしくなり、彼女に対するうしろめたさでいっぱいになった。

 対外的には――もちろん、ギディオン自身がアルティナを愛していてそうしたかったからというのもあるが――ギディオンはアルティナにやさしく接し、アルティナもそれに答えてくれたため皮肉にも二人は新婚間もなくおしどり夫婦と呼ばれるようになり、一年たった今でもそれは変わらない。むしろ日に日にそういった評判は高くなっているようだ。
 それを聞くたびに、ギディオンは心苦しくなる。アルティナと二人きりになると緊張も重なってうまく立ち回れず、彼女も落ち込んだように思えて、悪循環に陥っていた。


あなたにおすすめの小説

無愛想な婚約者の心の声を暴いてしまったら

雪嶺さとり
恋愛
「違うんだルーシャ!俺はルーシャのことを世界で一番愛しているんだ……っ!?」 「え?」 伯爵令嬢ルーシャの婚約者、ウィラードはいつも無愛想で無口だ。 しかしそんな彼に最近親しい令嬢がいるという。 その令嬢とウィラードは仲睦まじい様子で、ルーシャはウィラードが自分との婚約を解消したがっているのではないかと気がつく。 機会が無いので言い出せず、彼は困っているのだろう。 そこでルーシャは、友人の錬金術師ノーランに「本音を引き出せる薬」を用意してもらった。 しかし、それを使ったところ、なんだかウィラードの様子がおかしくて───────。 *他サイトでも公開しております。

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

あなたは愛を誓えますか?

縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。 だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。 皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか? でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。 これはすれ違い愛の物語です。

おにょれ王子め!

こもろう
恋愛
レティジアは公爵令嬢で、王子フリードの婚約者。しかし現在、フリードとの関係はこじれまくっている。 見た目は気が強そうだが実は泣き虫なレティジアは人知れず毎日涙を流し、フリードはなんだかイライラしている。 そんな二人の前に現れるのは……!

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~

山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。 この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。 父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。 顔が良いから、女性にモテる。 わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!? 自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。 *沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。