異世界で死にたかないけどイきたくない!

ひやむつおぼろ

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生きてました

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 ティアさんに連れられて、白い建物から出る。ギリシャの神殿風建築物の出口では騎士の甲冑を着た人が二人、槍を持って立ってた。

 神殿の外はロココっていうのか?ベルばらみたいな内装が広がる。赤い絨毯と壺と裸婦の絵画と燭台。

 ティアさんがチリンチリンって鈴を鳴らすといかにもセバスチャンと名乗りそうな妙齢のシルバーカラーが、燕尾服を着て現れる。

 お茶の準備をお願いします。かしこまりました。映画のワンシーンみたいなことが次々と目の前で起こった。黒いワンピースに白いエプロンの召使いが部屋に案内してくれる。イスを引かれ、どうぞこちらへとエスコートして貰った。
 ふむ。

「ユーキ、あなたが生きていた世界と、ここは全く別の世界なのです。」
 ティアさんは、深刻そうな面持ちで、冗談みたいなことを言ってきた。

 でも、あり得そうな話だとも思えた。
「だって完全にナーロッパじゃもん…」
「なーろっぱ?」
「あー創作物でよく題材にされているので、違う世界に来たってことはわかりますよ」

 お茶を濁しつつ返答するとそういうものだろうかとティアさんは腑に落ちない顔をしていた。

 でも、説明するわけにはいかない。なろう系雰囲気ヨーロッパ!略してナーロッパである。

 『アテネ系神殿とバロック絵画とロココ調の家具のチグハグさがおかしくて、紛い物のように感じる』

 なんて、相手の国の文化を蔑むようなことを言ってはならない。海外アニメの日本の描写でチャイナ服が出てくるようなトンチンカンぶりを見せてはいるが、これが、普通。普通なのだ。

 クラシックなメイドさんがお茶とお菓子を持ってきてくれた。お菓子はドライフルーツの乗ったクッキーだった。
 いただきますと手を合わせて、ひとつつまむ。小麦の香りとほんのりとした甘さが広がる。バターも砂糖も控えめな素朴な優しいクッキーだった。

 ティアさんはティーカップを傾け唇を濡らすとゆっくりと喋り始めた。
「…私が、ユーキを召喚しました。この召喚術は『特殊な死に方をした魂をこちらに転移させる』という方法をとっています。」
「えっ、俺死んだの!? 」
「いいえ、死は魂の循環で成り立ちます。魂が循環される前にこちらに呼んだので、ユーキは死に切れてません。あちらでは脳死…植物状態でしょう。」
「植物状態てやばいじゃん!俺、死んじゃわない? 」

 病室の、無菌室みたいなとこで呼吸気を付けて、点滴で生きながらえる自分の姿を想像した。医療ドラマとかでしか知らないけど…やばくない?

「死にません。……私があなたを死なせない。」

 ティアの目に熱が籠る。イケメンがこちらを見つめているという状況にドキッとしたのか俺の頬が熱くなる。もし俺が女だったら「素敵!抱いて!」ってティアの胸に飛び込んでただろう。

 ずーっとずーっとティアが見つめてくるので俺の顔に穴が開きそうだ。キラキライケメンビーム。多分そんなビームが出ている。目力強い。

 俺は慌ててティーカップを傾け、なかの琥珀色の液体を飲み込む。うん、いい香りだ。しかしティーセットなんて使い慣れてないせいか、それともイケメンビームに当てられているからか、ソーサーにがちゃんと音立てて置いてしまった。割れてないかな。

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