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オメガバース 無知 ギャグ 幼なじみ 執着
「えっ、男らしい高タンパク質の取り方を教えてくれるのか?!」5
しおりを挟む一人で、初めてアルファのカウンセリングルームに来た。カウンセリングルームといっても、ベッド数の多い、カーテンじゃない敷居がついた保健室のようなもので、白衣を着た先生が迎え入れてくれる。奥にはカセットコンロとヤカンが置いてあって、先生ようのドリップコーヒーとココアが置いてある。
先生はカセットコンロの前に立って、かちゃかちゃと用意してくれていた。
「雄也くんから話は聞いているよ。アルファになりたいんだって?」
「はい。そうなんです。」
先生の背中越しに会話をする。俺はパイプ椅子をぎしっとしならせて答えた。
「どうも、オメガの好きな子がいるらしいね。」
「あ……」
雄也、そこまで話してたのか!
「どの子かな。1組の子?それとも3組?」
「ぁ……あの。その…」
どんどんとオメガの子たちをあげられても回答に困る。俺の好きな人はいないんだから。
「女の子じゃなくて、男の子かな?だとしたら君と同じ2組の佐々木くん?」
「えっ、あっちが、違うんです!」
先生は押し黙る。ヤカンがなって、ドリップコーヒーの香ばしい匂いと、甘いココアの匂いが混ざる。
「今や、ジェンダーレスの時代だ。バース性が発見されて75年国民に公開されてから30年。沢山のことがあった。男と女とかオメガとアルファとか関係なく、好きに恋愛していいんだよ。男同士だって全然恥ずかしいことじゃー」
「ち、違うんです!!先生!お願いだから話を聞いて!」
別に男同士の恋愛に戸惑ってるわけじゃなくて!
「俺、本当はオメガの好きな子とか、居ないんです!!」
先生はココアの袋をひっくり返した。
ーーー
掃除機がザーズー音を立ててココアの粉を吸い上げていく。
「えー。つまり何だ?最初、君は雄也くんが受験で離れていったことに不満があった。違うクラスで、遊びに誘ってもつれない彼に苛立ちを覚えた。」
「うん」
「高学年に上がってバース性教育が始まり、二人は合同自習をするようになった。その時雄也くんと側に居れることに安堵し、ずっと一緒にいたいと思うようになる。」
「……うん」
排気口からココアの匂いがする。どんどんとココアの粉の山は吸われていき、白いタイルの床が出てくる。
「雄也くんはアルファ判定をもらい、バース性教育の授業が別クラスになった。雄也くんと少しでも一緒にいたかった君はアルファになって同じ授業を受けたかった……」
パチンとスイッチをオフにして、道永先生は掃除機のコードを巻き上げると掃除用具入れに納めた。
コーヒーとココアを机に置いて、椅子に座り、黙り込む。コーヒーに、小瓶に入った何かを数滴入れて、ぐびぐび飲む。スゥゥッと息を吸い込み、吐いて、思いっきりまた吸い込んで…
「なんちゅうややこいことしてくれよんねん!!」
「ヒェッ」
関西弁でそう叫ぶと、咽び泣いた。
ーー
「せんせ、大丈夫か?落ち着いた?」
「うっうっ、俺、俺は…どないせいっちゅうねん…。」
「おお、よしよし、大丈夫だぞー」
まるで大きな赤ちゃんのように泣き出した先生を必死になってあやす。俺はいても立ってもいられなくなり、濡れタオルを目に当てて、頭をよしよしと撫でてやる。先生は膝立ちになり俺の腰に捕まって泣き始めた。
「あきらくん、先生は、大人や。大人やけどな、大人も人の子……。いや社会不適合者やねん。人間のクズやねん…出来損ないのアルファやねん……。」
「そんなことない。先生は立派だぞ」
「うるさい!そんなことあんねん!!ええ歳こいて番いもおらへん。リア充みるとむかっ腹が立つんや!」
「えぇ…?」
先生は苛立ちのままに濡れタオルを俺から取り上げて、ゆかにべシンと投げつけた。そのまま、俺の腰を強く抱きしめ、服をギュウッと握る。
「リア充ちゅーんは無駄が多くて、イライラするんや。LINEはすぐ返せだの、クリスマスのライトアップだの、全部が無駄じゃ。惚気話、痴話喧嘩、元鞘!無駄無駄無駄!じゃから、君の抱えよる問題も、先生はムカムカしながら聞いとった。」
先生は口角泡立てて捲し立てた。俺は黙って先生の背中を叩く。先生はそれが気に食わなかったのか俺の手をガシッと掴むと「人生の先輩の話やぞよく聞けぇ!」と叫んだ。なんだか漫才師のような脈絡のなさだが、それでも手は震え、目は必死にこちらに訴えかける。
「アルファもオメガも、男同士なんも、関係あらへんやん。それを君らは足並み揃えてぐるぐる周りよる。シンプルに考えーや、君は雄也くんの側にいたい。それってなんの気持ちや?好きなんちゃうんか?!もともとなにに嫉妬しょうたんじゃ?勉強と私どっちが大事なのってぇ話なんちゃうんか?!」
「えっ……」
俺、俺って。
顔がドンドンと赤くなる。脈拍がマラソン大会の時より跳ね上がる。
「俺って雄也のこと好き…なの?」
「そうや」
「勉強優先して欲しくないのも。女の子にモテて欲しくないのも。好きだから?」
「そうや!」
「他の女の子と結婚するの想像してモヤモヤするのも、他の女の子が知らない雄也の顔を見てニヤつくのも、おかずにされて嬉しいのも、雄也の匂いがいい匂いって思うのも、好きだから?!」
「そ、そうや!?逆になんで気付かんかってん!!」
そうか、雄也が好きなんだ。俺、裕也と一緒にいたいのは好きだからなんだ。
「なのに雄也には俺にオメガの好きな人がいると思われてんの?!」
「…っっこのッバーーーカ!」
「道永先生助けて!!!!」
「あほ!ばか!!シンプルに嘘でしたごめんなさいしといで!!雄也くんのことが好きですって言っといでや!」
「やだ!ふられる!嫌われる!!!」
「まだもだもだして、気持ちええことだけして済ます気なんか?!お前そんなしとやかなやつちゃうやろ!しっとんのんやぞザーメンカツアゲマン!」
「ちーがーいーまーすー!アルファになりたかっただけで精液欲しかったわけじゃありませんー!」
先生は唐突に押し黙る。そして、静かに、口を開いた。
「……あんまり言いたくなかったんだが。君、雄也くんがどこに進学しようとしているか、知ってるかい?」
「…? 俺は受験とか全く知らないけど…なに?なんかあるの?」
「彼の志望校の一つは全寮制の男子学校だ。」
「そっ、そんな…」
雄也がおかずにしてるのは俺…つまり男体だ。
「君とそういう関係になる前から、親に言われていたらしい。だが、君の手練手管で男を知った彼が、男子校で肉欲の海に溺れようが、外部生の君は手出しができない。」
「……。」
「ここで諦めたら、誰かに取られ、手垢まみれにされるかもしれないぞ。」
あんなに可愛い雄也の姿を、誰にも見せたくない。
告白、しよう。
ーーー
「……、いいことを教えてあげよう。誰にも言わないと約束できるのなら。」
「言わない。先生教えて」
先生は番について喋り出した。
「番い契約は、アルファとオメガだけで成り立つものじゃないんだ。アルファと未分類、まだバース性のわからない子でもできる。アルファにうなじを噛まれた途端、アルファのフェロモンが作用して、オメガになれるんだ。うなじを噛まれたオメガは、噛んできたアルファと番いになる。」
オメガは番のアルファにしか発情しなくなる。オメガは番を解くことはできない。アルファに捨てられたら不定期的に発情期が訪れ、誰彼構わず欲してしまう。番は、オメガにとっては不利な契約だ。
「それでも雄也くんが欲しいなら、うなじを噛んでというんだよ。」
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