転生したら断罪イベ最中で王子側だったオレの話

ひやむつおぼろ

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第二章 陰謀戦争許さぬ意向

sideアンジュ

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 アンジュ7歳、価値は破格の銀貨3枚。私を買った男は、狂っていた。彼が口走る言葉は要領を得ない呪文のようだった。イセカイ チート ハーレム ビショウジョロリドレイ。何一つ聞き覚えのない言葉を男は羅列し、落ち窪んだ目をギラギラさせていた。

 男は己を、「鈴芽野 誠哉すずめのせいや世界を統一する男だ」などと豪語していた。彼はギルドで働き、Aランクまで上り詰めた。しかし、彼はどうも納得がいかなかったらしい。私の尻尾を引っ張っては、違う違うと怒鳴り散らした。暴力を振るった後、私の四肢を撫で回しながら欲を吐き出す。勇者だ何だと騒ぎ立てる彼を止める好きものはいなかった。

 ツーヴェリア王国は男のイセカイチートで手に入れたというそこつきない魔力を利用しようと、この狂人を王宮に招いた。近々エーデフォルン王国を攻めようと思う、褒美は十分に取らせよう。そう言った話を持ちかけたその時、彼の髑髏のように落ち窪んだ目がギラリと光った。

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 わけのわからない咆哮をあげ、その肉体をしならせて笑う。
 狂い人誠哉は王様の側近となり、政治を助けた。災厄を予言し、己は預言者であると吹聴した。

「エーデフォルンが繁栄してるのは竜王の加護があるから。竜王を操る聖女をこちらに取り込めれば、エーデフォルンに勝ち目はないでしょう。ツーヴェリア王国の兵力は、大陸一ですから。」

 そして、甘言で王様の信用を勝ち取ると、予言の通りにするのだと暗躍した。

「竜王の聖女、ルミナス•ヘイストス公爵令嬢は第三王子と政略的婚約をしている。それを王子から破棄されれば、プライドの傷ついた彼女は、エーデフォルン王国を裏切りこちらにつくはずです。」

 敵国のコフィリア男爵を殺し、カトゥルヌス男爵家という、偽物の貴族を作り上げた。

 私は叩き上げの男爵令嬢として、たくさんのことを叩き込まれ学園に通った。私の養父たちはあの狂人が言った「王族にしてやる」という言葉を信じているらしい。本当は、あの人のせいでこの国は滅んでしまうのに。私を綺麗に着飾り、第三王子にあてがった。

 第三王子は孤独だった。内気でひ弱で、優しかった。そして、自己肯定感が低い方だった。恋人にして欲しいと近づく私に、「金髪碧眼でないと、この国の王にはなれない。だから私はただの置き物だよ。兄様たちのところに行ったほうがいい。」と言って突き放した。

 私は誰にも求められていない第三王子のジュリアスが、かわいそうになった。私も求められているのは外側だけだ。整った容姿、丈夫な体、元奴隷の身分。

 誠哉は他の貴族に化けて学園に侵入して、私たちを監視していた。誠哉は焦れたのか、「いくらでも変えが効くんだぞ」と新しい獣人の奴隷を買って魔法を唱えた。みるみる私そっくりの女の子が出来上がる。

 用無しになったら、取り替えられる。あの孤独の王子ジュリアスを、誰かが、この気狂いに脅されて、四肢をなすりつけて誘惑する!誰一人として幸せにならない未来が、私が少しでも間違いを犯すだけで開かれる。私は無我夢中になった。

 私はあろうことか、誠哉に相談した。
「もう一息なの。勇者様、貴方のお力をお貸しください。」
 爪先にキスをし、誠哉にイセカイチートの力を乞う。誠哉は、満足げに微笑むと小瓶を私によこした。
「これを飲ませれば、第三王子は君に心を開くだろう。優しくしてくれる薬さ」

 小瓶の効果は絶大だった。あの美しい顔が溶けて、野ばらのように赤く染まり、潤んだ瞳がこちらを見た。幻覚魔法を得意とするあのペテン師のことだ。ジュリアス王子にも幻覚を見せているんだろう。薬の力は凄まじく、何度もお茶に混ぜるうちに、ジュリアス王子の恋人になれた。

『王子が婚約を破棄しなければ、物語は進まない。失敗したら、まよわず殺せ。ルミナスも襲うんだ。俺がどさくさ紛れに彼女を救い、慰める。』

 婚約破棄して、私と結婚してもきっとジュリアスは殺される。結婚破棄できなかったら、わたしがかれを、殺さなきゃいけない。私は気が触れそうになりながら、慎重にジュリアスのカップに小瓶の中身を入れる。彼が、カップを傾ける前に、私は口を挟んだ。

「ジュリー。貴方は幸せかしら」

「アン、私たちは幸せになれるよ。身分も、ルミナスからの虐めも気にしないで。私の愛しい人。」

 ジュリアスは私を慰めるように抱きしめる。その度に、魔法の薬が効いてることを確認して、安堵して、絶望した。

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