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第三節 ハートマークの裏返し
Ep.2 完全犯罪決行事件
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心の準備をする間もなく、日は落ちる。明日の準備をしている間にまた朝と共に日が昇ってきた。
朝ごはんをちゃっちゃと済ませて、家を出る。まだ日光が辺りを照らしまわっていないせいか、ひんやりとした空気が肌にこびりつく。
こんなに朝早く学校へ向かうことなど、今までにあっただろうか。ない記憶を手繰り寄せながら、自転車で前へ前へと進んでいく。
一回、信号待ちに引っ掛かって、立ち止まる。
次第に、心臓の鼓動が大きくなっていくのが感じられた。
そこに一人で「大丈夫大丈夫」と呟いて、心の安定を図った。
完全犯罪相談員として、アドバイスすることはあった。今は実行も任されているだけ。
手紙を書いた人は悲しむことになるだろう。しかし、たったそれだけ。恋が実らなかっただけ。
その場合、自分が被害者だったら……?
自分がラブレターをナノカに書いて、届けようとした際に妨害されたら?
「……別に、問題はない……」
「本当に問題ないと思う?」
ポツリ出した独り言に返答があって、「へっ!?」と声を出してしまった。横に顔を向けると、ナノカが僕を蛇のように睨んでいる。「シャー」とか言ってる気がする。
彼女と出逢った僕はまず、笑顔で会釈した。それから「ほぇえええ!」と大声を上げた。
「びっくりしたぁ!」
僕の声に彼女が一言。
「驚いたのはワタシよ! ってか、今の話聞いてなかったの!?」
「いや、そもそも何か話してたの?」
「えっ……じゃあ、ワタシが言ったこと全部聞いてないの?」
「うん。あっ、問題ないってとこだけ……聞いたよ」
ナノカは握りこぶしをグッと前に出す。震えた手をそのまま引いてから、強い口調で僕へ注意した。
「そんなの聞いてないのと同じじゃない! だぁかぁらぁ! 髪を整えなさいって! 後、シャツもよれよれだし! もっときちんとシャキッとしなさいよ! 朝から嫌なの見ちゃったじゃない! 折角……朝早く来てるのね、凄いわねって思ったのに……最悪よ!」
「うう……」
「寝ぐせならちゃんと水道で洗いなさいよ! じゃ! それから綺麗なアンタの姿を見せなさいよね!」
「あ、ああ……」
彼女はそのまま学校の方へと走っていってしまった。栗色の髪が穏やかな風に流され、とても可憐だった。
そんな正義感の強い彼女の姿を見てしまい、依頼を遂行する自身を失くしてしまう。
真面目な彼女が僕の見苦しい嫉妬なんかで苦しむ姿を見たくはないから。
彼女が困るようなことをしたくない。しかし、自転車を駐輪場に置いてから、教諭用の入口へと足を踏み入れた。
松富教諭の靴箱の中を覗きみる決意がなかなか用意できない。
たった一つ中を見て、確かめれば良いだけなのだが。
自分が悪いことをやっていると分かっているから、前に進まない。
そもそもの話だが完全犯罪と言いつつ、理亜には僕のやっていることが露呈してしまっている。僕がもしラブレターを破ったとして。ほんの少しの証拠でもあれば、理亜が僕を犯人だと指摘することも可能なのだ。
やはり、できない。
ただ、まぁ、手紙が入っていなければ問題はないのだ。靴箱の蓋を開けて何も入っていなければ、破ることができない。
強く願って、覚悟を決める。
深呼吸を一回。
そこからパッと蓋を開けてみた。
「あっ……」
嫌な予感はあったのだ。自分の場合はだいたい、そういうのが的中する。
白い便箋がそこに「自分は最初からここにいましたよー」とでも言うようにちょこんと入っている。 すぐに手に取ってみる。中身を確かめてからにしようかと考えるも、ナノカの顔が浮かんで手が動かなかった。
これ以上、やってしまったら戻れない。
やはり、諦めよう。ナノカに「最低! もう二度と顔なんか見たくない」なんて言われたくないから。佳苗先輩には非常に申し訳ないが、依頼を辞退させてもらおう。やりたければ、自分でやってください。僕がやるのは、ちょっとした悪戯専門なんです。そう心の中で呟いた。
一息吐いて、手紙を置く。その瞬間、隣から白い手が伸び、僕が戻したラブレターを奪い去っていった。
「あっ……」
ツインテールの細長い顔をした女子。スリッパの色から佳苗先輩と同じ二年の先輩だと推測できた。こちらの顔を窺いつつ、暗い表情を見せている。
もしかして、本当の差出人はナノカではなかったのだろうか。このラブレターを置いた女子だったのだろうか。そうなら、非常に気まずい。どう言い訳をするべきかと頭の中で考えを巡らせていこうとしていた。
「そっかぁ」
「いや、あの……それは……その!?」
「ああ。話は佳苗から聞いてるから安心して」
「えっ?」
「単に手伝いに来ただけなの。もし、露雪って子が犯行を怖気づいていたら……ってね」
焦る僕を見て、ふっと笑う彼女。それから彼女は僕が次の発言をする前にラブレターを再現不能なまでに破っていた。
「ええ……」
彼女は困惑する僕に更なる追い打ちを掛けてきた。
「あっ、これ、ナノカみたいのだね」
「えっ……何でナノカのが……」
「ナノカがラブレターを出してたってことだよ。だって字がそうだもん」
「本当にナノカのものだったの!?」
ナノカのラブレター?
確かに彼女が用意しそうな質素で飾り付けのない、それでいて礼儀が伝わるような便箋だった。もし、本当に彼女のものなら……僕は彼女の不幸を後押ししたことになる。彼女に申し訳がないと後悔の念で満たされた。
破った張本人は文章を読んだのか、差出人がナノカである更なる証拠を口にしていた。
「この達筆、ナノカだね」
「何で、分かるんですか? ナノカのものだって?」
「だって、この山口メロは彼女所属する風紀委員の副委員長だから」
「ああ、そういうことでしたか……」
山口先輩は何度も念を押す。これはナノカのものだと。
それを言われる度に胸に釘が刺されるような感覚がした。だって、これで彼女が傷付いたのであれば、僕に責任がある。
僕は佳苗先輩の策略を知っていたのだ。松富教諭と仲良くなりたいのであれば、他の人を蹴落とすのはやめろと言えた存在だった。
それを怠ったのだから、ナノカに嫌われたって当たり前。彼女が好きなのは、もっと自分の意見をハキハキ通せる人に決まってる。断じて、ここで挫けている人でない。
僕が靴箱に背中を寄りかからせて何度も溜息をつく。最中、今度は破った手紙の欠片を半分を山口先輩が渡してきた。
「さて、この半分を処分しておいて。生意気なハートが付いてるところを、ね」
朝ごはんをちゃっちゃと済ませて、家を出る。まだ日光が辺りを照らしまわっていないせいか、ひんやりとした空気が肌にこびりつく。
こんなに朝早く学校へ向かうことなど、今までにあっただろうか。ない記憶を手繰り寄せながら、自転車で前へ前へと進んでいく。
一回、信号待ちに引っ掛かって、立ち止まる。
次第に、心臓の鼓動が大きくなっていくのが感じられた。
そこに一人で「大丈夫大丈夫」と呟いて、心の安定を図った。
完全犯罪相談員として、アドバイスすることはあった。今は実行も任されているだけ。
手紙を書いた人は悲しむことになるだろう。しかし、たったそれだけ。恋が実らなかっただけ。
その場合、自分が被害者だったら……?
自分がラブレターをナノカに書いて、届けようとした際に妨害されたら?
「……別に、問題はない……」
「本当に問題ないと思う?」
ポツリ出した独り言に返答があって、「へっ!?」と声を出してしまった。横に顔を向けると、ナノカが僕を蛇のように睨んでいる。「シャー」とか言ってる気がする。
彼女と出逢った僕はまず、笑顔で会釈した。それから「ほぇえええ!」と大声を上げた。
「びっくりしたぁ!」
僕の声に彼女が一言。
「驚いたのはワタシよ! ってか、今の話聞いてなかったの!?」
「いや、そもそも何か話してたの?」
「えっ……じゃあ、ワタシが言ったこと全部聞いてないの?」
「うん。あっ、問題ないってとこだけ……聞いたよ」
ナノカは握りこぶしをグッと前に出す。震えた手をそのまま引いてから、強い口調で僕へ注意した。
「そんなの聞いてないのと同じじゃない! だぁかぁらぁ! 髪を整えなさいって! 後、シャツもよれよれだし! もっときちんとシャキッとしなさいよ! 朝から嫌なの見ちゃったじゃない! 折角……朝早く来てるのね、凄いわねって思ったのに……最悪よ!」
「うう……」
「寝ぐせならちゃんと水道で洗いなさいよ! じゃ! それから綺麗なアンタの姿を見せなさいよね!」
「あ、ああ……」
彼女はそのまま学校の方へと走っていってしまった。栗色の髪が穏やかな風に流され、とても可憐だった。
そんな正義感の強い彼女の姿を見てしまい、依頼を遂行する自身を失くしてしまう。
真面目な彼女が僕の見苦しい嫉妬なんかで苦しむ姿を見たくはないから。
彼女が困るようなことをしたくない。しかし、自転車を駐輪場に置いてから、教諭用の入口へと足を踏み入れた。
松富教諭の靴箱の中を覗きみる決意がなかなか用意できない。
たった一つ中を見て、確かめれば良いだけなのだが。
自分が悪いことをやっていると分かっているから、前に進まない。
そもそもの話だが完全犯罪と言いつつ、理亜には僕のやっていることが露呈してしまっている。僕がもしラブレターを破ったとして。ほんの少しの証拠でもあれば、理亜が僕を犯人だと指摘することも可能なのだ。
やはり、できない。
ただ、まぁ、手紙が入っていなければ問題はないのだ。靴箱の蓋を開けて何も入っていなければ、破ることができない。
強く願って、覚悟を決める。
深呼吸を一回。
そこからパッと蓋を開けてみた。
「あっ……」
嫌な予感はあったのだ。自分の場合はだいたい、そういうのが的中する。
白い便箋がそこに「自分は最初からここにいましたよー」とでも言うようにちょこんと入っている。 すぐに手に取ってみる。中身を確かめてからにしようかと考えるも、ナノカの顔が浮かんで手が動かなかった。
これ以上、やってしまったら戻れない。
やはり、諦めよう。ナノカに「最低! もう二度と顔なんか見たくない」なんて言われたくないから。佳苗先輩には非常に申し訳ないが、依頼を辞退させてもらおう。やりたければ、自分でやってください。僕がやるのは、ちょっとした悪戯専門なんです。そう心の中で呟いた。
一息吐いて、手紙を置く。その瞬間、隣から白い手が伸び、僕が戻したラブレターを奪い去っていった。
「あっ……」
ツインテールの細長い顔をした女子。スリッパの色から佳苗先輩と同じ二年の先輩だと推測できた。こちらの顔を窺いつつ、暗い表情を見せている。
もしかして、本当の差出人はナノカではなかったのだろうか。このラブレターを置いた女子だったのだろうか。そうなら、非常に気まずい。どう言い訳をするべきかと頭の中で考えを巡らせていこうとしていた。
「そっかぁ」
「いや、あの……それは……その!?」
「ああ。話は佳苗から聞いてるから安心して」
「えっ?」
「単に手伝いに来ただけなの。もし、露雪って子が犯行を怖気づいていたら……ってね」
焦る僕を見て、ふっと笑う彼女。それから彼女は僕が次の発言をする前にラブレターを再現不能なまでに破っていた。
「ええ……」
彼女は困惑する僕に更なる追い打ちを掛けてきた。
「あっ、これ、ナノカみたいのだね」
「えっ……何でナノカのが……」
「ナノカがラブレターを出してたってことだよ。だって字がそうだもん」
「本当にナノカのものだったの!?」
ナノカのラブレター?
確かに彼女が用意しそうな質素で飾り付けのない、それでいて礼儀が伝わるような便箋だった。もし、本当に彼女のものなら……僕は彼女の不幸を後押ししたことになる。彼女に申し訳がないと後悔の念で満たされた。
破った張本人は文章を読んだのか、差出人がナノカである更なる証拠を口にしていた。
「この達筆、ナノカだね」
「何で、分かるんですか? ナノカのものだって?」
「だって、この山口メロは彼女所属する風紀委員の副委員長だから」
「ああ、そういうことでしたか……」
山口先輩は何度も念を押す。これはナノカのものだと。
それを言われる度に胸に釘が刺されるような感覚がした。だって、これで彼女が傷付いたのであれば、僕に責任がある。
僕は佳苗先輩の策略を知っていたのだ。松富教諭と仲良くなりたいのであれば、他の人を蹴落とすのはやめろと言えた存在だった。
それを怠ったのだから、ナノカに嫌われたって当たり前。彼女が好きなのは、もっと自分の意見をハキハキ通せる人に決まってる。断じて、ここで挫けている人でない。
僕が靴箱に背中を寄りかからせて何度も溜息をつく。最中、今度は破った手紙の欠片を半分を山口先輩が渡してきた。
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