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1stプロジェクト ヤンデレ懺滅作戦
3.重荷を負いかぶさる軌跡
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「まあ、それなら合格ね。ほら二人とも。こういう風に覚えられても顔は覚えられない。二人とも、こういう依頼なら大歓迎よ!」
「ええええ! 狐の仮面での依頼はOKなんだっ!?」
入ってきた女子生徒は扉の鍵を閉めて、この部屋にあった時計を見る。すると、彼女は焦った様子で東堂さんに用件を伝えた。
「す、すみません。時間があまりないようなんので、できるだけ早く依頼をさせていただけませんか?」
彼女は狐の仮面を床に置き、近くにあった椅子に座る。古月さんは秘密保持のことを思い出したのか、急いでカーテンを閉めた。辺りが黒に染まっていく。ここで秘密の相談するとは悪の秘密結社ではないか。
東堂さんがぼくに「机とお茶を用意できる?」と目と指でサインを送ってきたので、慌てて指示に従った。
部屋の隅から机を取り出し……お茶がないのだが。
「すみません。部長……お茶がないんですが」
「……そうね。ユニちゃん。後でお金返すから、彼と一緒に自販機で買ってきてくれない?」
「え? なんでアタシまで!?」
引き続きコキ使われていたので、彼女は苛ついていたらしい。
そんな彼女に東堂さんは、穏やかに言葉を返す。
「まずは、部長から話を聞かせてもらって。後で話を伝えるわ。そういう仕組みなの。ごめんなさいね」
「はいはいはいはい! 分かりました!」
「本当にすみません……あ。部長の東堂さん、これがその人の写真三枚です」
依頼人に見とれてしまった。こんなに大人っぽく、お淑やかな人がいるのか。
その内、目くじらを立てた古月さんがぼくの視界の邪魔をする。クラスの委員長の時とは、だいぶ違った。彼女の豹変という珍しい光景を目にすることで、満足して自販機の方へ足を向けた。
美人もいいが、こういうのも良いかもな……
「なに鼻の下伸ばしてんの?」
「い、いや。なんでもない。それはそうと、古月さんは東堂さんの事知ってたんだよね」
「ええ。ええ。彼女とは同じ中学だったからね。いっつも変なことしてたから、気をつけてたけど。同じ高校になるなんて、思ってもいなかったわ」
「そうなんだ」
東堂さん。別に本当に悪人とは思えないのだが……それではなく、悪人を捕まえる探偵の方が似合っているように思える。そう彼女に伝えてみると、怒っていた顔が笑顔に変化した。それは何とも言えない子供の様な顔でこちらの心臓が揺れ動くような感覚に襲われてしまう。
おっと、いけない。
「彼女、意外と面白いところもあるわね。彼と一緒にアタシを助けてくれたことも多々あるし、本当にいい人なんだよね……」
「え?」
「アタシの召使いが殺されちゃったときも、防災シェルターで大変なことになっちゃったときも、あと……なんだろう」
ぼくは密かに思い出す。召使い殺人事件については心当たりはないが、一年前に起こった防災シェルター連続殺人事件のことは知っていた。記憶によると拳銃を持った人物が防犯シェルターの数日体験ツアーに参加してしまい、そのシェルターの中で閉じ込められた人々が次々と殺害されてしまった事件だ。あのニュースは一か月間くらいやっていたから今でも鮮明に覚えている。
「まさか、そん中に君もいたっていうの?」
「まあね。あの時は絵里利と一緒に死ぬのかと思ったわ」
そのとき、喜びの裏に古月さんの背負うドンヨリとしたものが見えたような気がして、寒気がする。だけれども、その困難を乗り越えようとした二人といれば、自分も一緒に困難を踏み潰していけるのかな……ふと思った。
それならば、この道を進んでしまおう。前を向いている人たちとなら、やっていけるかもしれない。
靴箱付近にある自販機の前まで来た。彼女が茶を選びながら、ぼくの信念を聞いてくる。
「ねえ。バカな考えなんだけどさ、一度あの子についていってみない?」
「……少しだけ、少しだけど入部してみても」
「決定ね」
彼女の言葉と同時に購入されたペットボトルの緑茶が出てきた。彼女はそれを手に取って、目を凝らしながら見ている。
「ど、どうしたの?」
「いいえ。今考えたら、ペットボトルのお茶を自販機で購入するの初めてかなあって気がして。庶民のお茶なんて、ほとんど口にしようと思ったことなかったような……」
「そ、そうなんだ……」
彼女はまだまだ子供だったみたい。
呆れて苦笑もしたが、これで彼女もぼくと似ているような気がして心に希望を秘めることができた。彼女もぼくも東堂さんも知らないことばかり……前に何か、大きな困難があったようだがそれを乗り越えたとしても、まだまだ足りないものがある。これからもぶつかる事はあるのだから……って今のぼくに足りないものとは何だろう?
そんなことを考えながら、部室に戻る。カーテンも机も最初の状態。もう依頼人は帰ってしまったようだ。
「ああ。来たわね。では、依頼の話を始めましうか」
完全犯罪計画部の初任務。一体、どんなサスペンスドラマがっ!?
……それよりも東堂さん、古月さん。カーテン閉めてくれませんか?直射日光で目が潰れそうです。
「ええええ! 狐の仮面での依頼はOKなんだっ!?」
入ってきた女子生徒は扉の鍵を閉めて、この部屋にあった時計を見る。すると、彼女は焦った様子で東堂さんに用件を伝えた。
「す、すみません。時間があまりないようなんので、できるだけ早く依頼をさせていただけませんか?」
彼女は狐の仮面を床に置き、近くにあった椅子に座る。古月さんは秘密保持のことを思い出したのか、急いでカーテンを閉めた。辺りが黒に染まっていく。ここで秘密の相談するとは悪の秘密結社ではないか。
東堂さんがぼくに「机とお茶を用意できる?」と目と指でサインを送ってきたので、慌てて指示に従った。
部屋の隅から机を取り出し……お茶がないのだが。
「すみません。部長……お茶がないんですが」
「……そうね。ユニちゃん。後でお金返すから、彼と一緒に自販機で買ってきてくれない?」
「え? なんでアタシまで!?」
引き続きコキ使われていたので、彼女は苛ついていたらしい。
そんな彼女に東堂さんは、穏やかに言葉を返す。
「まずは、部長から話を聞かせてもらって。後で話を伝えるわ。そういう仕組みなの。ごめんなさいね」
「はいはいはいはい! 分かりました!」
「本当にすみません……あ。部長の東堂さん、これがその人の写真三枚です」
依頼人に見とれてしまった。こんなに大人っぽく、お淑やかな人がいるのか。
その内、目くじらを立てた古月さんがぼくの視界の邪魔をする。クラスの委員長の時とは、だいぶ違った。彼女の豹変という珍しい光景を目にすることで、満足して自販機の方へ足を向けた。
美人もいいが、こういうのも良いかもな……
「なに鼻の下伸ばしてんの?」
「い、いや。なんでもない。それはそうと、古月さんは東堂さんの事知ってたんだよね」
「ええ。ええ。彼女とは同じ中学だったからね。いっつも変なことしてたから、気をつけてたけど。同じ高校になるなんて、思ってもいなかったわ」
「そうなんだ」
東堂さん。別に本当に悪人とは思えないのだが……それではなく、悪人を捕まえる探偵の方が似合っているように思える。そう彼女に伝えてみると、怒っていた顔が笑顔に変化した。それは何とも言えない子供の様な顔でこちらの心臓が揺れ動くような感覚に襲われてしまう。
おっと、いけない。
「彼女、意外と面白いところもあるわね。彼と一緒にアタシを助けてくれたことも多々あるし、本当にいい人なんだよね……」
「え?」
「アタシの召使いが殺されちゃったときも、防災シェルターで大変なことになっちゃったときも、あと……なんだろう」
ぼくは密かに思い出す。召使い殺人事件については心当たりはないが、一年前に起こった防災シェルター連続殺人事件のことは知っていた。記憶によると拳銃を持った人物が防犯シェルターの数日体験ツアーに参加してしまい、そのシェルターの中で閉じ込められた人々が次々と殺害されてしまった事件だ。あのニュースは一か月間くらいやっていたから今でも鮮明に覚えている。
「まさか、そん中に君もいたっていうの?」
「まあね。あの時は絵里利と一緒に死ぬのかと思ったわ」
そのとき、喜びの裏に古月さんの背負うドンヨリとしたものが見えたような気がして、寒気がする。だけれども、その困難を乗り越えようとした二人といれば、自分も一緒に困難を踏み潰していけるのかな……ふと思った。
それならば、この道を進んでしまおう。前を向いている人たちとなら、やっていけるかもしれない。
靴箱付近にある自販機の前まで来た。彼女が茶を選びながら、ぼくの信念を聞いてくる。
「ねえ。バカな考えなんだけどさ、一度あの子についていってみない?」
「……少しだけ、少しだけど入部してみても」
「決定ね」
彼女の言葉と同時に購入されたペットボトルの緑茶が出てきた。彼女はそれを手に取って、目を凝らしながら見ている。
「ど、どうしたの?」
「いいえ。今考えたら、ペットボトルのお茶を自販機で購入するの初めてかなあって気がして。庶民のお茶なんて、ほとんど口にしようと思ったことなかったような……」
「そ、そうなんだ……」
彼女はまだまだ子供だったみたい。
呆れて苦笑もしたが、これで彼女もぼくと似ているような気がして心に希望を秘めることができた。彼女もぼくも東堂さんも知らないことばかり……前に何か、大きな困難があったようだがそれを乗り越えたとしても、まだまだ足りないものがある。これからもぶつかる事はあるのだから……って今のぼくに足りないものとは何だろう?
そんなことを考えながら、部室に戻る。カーテンも机も最初の状態。もう依頼人は帰ってしまったようだ。
「ああ。来たわね。では、依頼の話を始めましうか」
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