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1stプロジェクト ヤンデレ懺滅作戦
2.狐の仮面は合格者の証
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「ええと、東堂さん……気に入らない相手だったんですか?」
そう質問したが、答えは分かっている。違う、だ。
この部屋に封筒を投げてきた人が男か女かさえも判別することはできなかったはずだ。もし、足音などで分析できたとしても、そこに正確な根拠などはない。当てずっぽうなんかで、気に入らない相手の依頼を断っていたら「あそこは完全犯罪なんかできないから、断っている」と言われるだけだ。
彼女の答えはぼくの考えとは少し違った。
「ううん。確かに誰かは知らないけど、気に入らないと私は思うよ」
古月さんはライターを探しに行ったので、一人で首を傾けるぼく。
「陽介君。思い出してくれる? あの時、どういう風に手紙が来たのか」
確か足音がした後、すぐに封筒がこの部屋に投げつけられて、そのまま依頼主は走っていった。それだけだ。
「まさか、東堂さん。投げつけられたから?」
「もっと、いい具合に投げつけられた事件があるわね。ボールが飛んできて、そんなかに手紙が入ってたんだから。顔面突撃だったから、鼻血滅茶苦茶出たわ……それでもその依頼はちゃーんと受けたよ」
女子に遠慮なくボールを投げて、ものを頼むとかどんな奴だよ……親の顔が見たいよ……
それはともかく依頼の仕方が少し失礼だとしても、この少女は快く笑いながら受けていたのだろう。それならば、今のは……
「降参……」
「持ってきたよ! 外にいた執事からライターじゃないけど、マッチを借りてきたわ」
「あ。ちょうど、ユニちゃんも帰って来たみたいだし。説明するね。正しい依頼のされ方をね」
古月さんはマッチの箱を持ったまま、唸った。
「うううう……され方ねえ。普通でいいじゃないの。どうしてそんな面倒なことを?」
「まず、ここは完全犯罪計画部。それはいいわよね」
良くないが、それを前提として話は進んでもらおう。
「完全犯罪は、人にばれないこと。まあ、普通に警察とかにバレないってことよね」
「うん。共犯者くらいならバレても、関係ない赤の他人にバレないようにしないといけないわ」
古月さんが何故か、真剣になっているような……手に肘を当てて考えているし。
「それなのに、依頼するときにあんな足音を立てて……」
「ん? さっきボールを投げられてって、もしかして、その時も足音立てていたかもしれないじゃないか。もしかして、ひっそりと投げた訳じゃあないよな……」
「思い切りだったわね。足音も聞こえたわ」
「……? ボール。まあいいわ。で、じゃあ何でさっきのは?」
後で古月さんにボールのことを話しておこう。
それよりもぼくは今、自分の好奇心に押されて彼女に反論をしていたことの方が重要だ。興奮して、額に汗をかいていた。
「あの時は公園。ここは何処?」
「被服室前。じゃないか?」
「もう一つあるわよ!」
「あっ! 職員室の前だわ。確かあの後、走り去ってたんだから……」
「教師に見つかる可能性は大。走ったことを叱った先生は間違いなく、彼の顔を覚えて何をしていたか問うわ」
なるほど。筋が通っている。
だが待てよ。もう一つ、反論があった。もしかしたら、もしかしたらだけど。全く確かめていないからわからないけれど。
「あの時、職員室に教師が全くいないのを依頼主は知っていたという可能性は?」
「ないわね。あったとしても、低い」
「何で?」
東堂さんは呆れたように首を横に振って、名推理を披露した。そうして、この教室自体が明るくなっていく気がする。実際は直射日光がこの部屋に射し込んできただけなのだが。
「だって、今日は部活補講……まあ、一般的に言えば部活動紹介の日だよね。だったら、必ずと言ってもいいほど『この部活にしよう! 決めた』と言って顧問の先生に入部の手続きをしようとする人がいるわ。そのとき、先生だって部活をずっと、見てられるわけじゃないんだし。しないといけない仕事もあるでしょ? 生徒の入部の手続きと仕事。両方できるし、生徒だって言われずとも職員室に行くわね。で……それで先生のいる前で封筒を渡そうとするやつが本当に完全犯罪を頼もうとしてるんだったら、本気で断らせてもらうわ」
「あ……」
「それとも、先生に頼みごとをするとき二人はトイレとかに行くわけ、ないよね。やっぱり職員室行くでしょ? ……二人共どうしたの?」
納得。ぼくたちはグウの音すら出せなかった。
「御影とアタシがすっかりあんたの推理に押し負けちゃっただけよ……」
「じゃあ、このいたずららしき手紙は抹消させてもらうわね」
そう言うと東堂さんは古月さんからライターを受け取り、被服室の水道のところで手紙の破片を燃やしていた。
「……推理かあ。アタシ、ちゃんとこの部活入ってみようかしら」
「ふ、古月さん……」
顔に決意の文字は見えないものの「この試供品を使ってみようかしら」とかいう母の表情によく似ていた。
ぼくはどうしよう……と考え込んでこの被服室から一旦出てから、考えることにした。
「うわっ!」
「ごめんなさい。気づかなくって……」
「犯罪をした後で、気づかなかったは通用しませんよ」と言ってやりたかったが、ぼくの口は動かなかった。何故ならぶつかった女子生徒は裸足になって、白い狐の仮面をかぶり、この部屋に入ろうとしていたからだ。たまげてしまう。
そう質問したが、答えは分かっている。違う、だ。
この部屋に封筒を投げてきた人が男か女かさえも判別することはできなかったはずだ。もし、足音などで分析できたとしても、そこに正確な根拠などはない。当てずっぽうなんかで、気に入らない相手の依頼を断っていたら「あそこは完全犯罪なんかできないから、断っている」と言われるだけだ。
彼女の答えはぼくの考えとは少し違った。
「ううん。確かに誰かは知らないけど、気に入らないと私は思うよ」
古月さんはライターを探しに行ったので、一人で首を傾けるぼく。
「陽介君。思い出してくれる? あの時、どういう風に手紙が来たのか」
確か足音がした後、すぐに封筒がこの部屋に投げつけられて、そのまま依頼主は走っていった。それだけだ。
「まさか、東堂さん。投げつけられたから?」
「もっと、いい具合に投げつけられた事件があるわね。ボールが飛んできて、そんなかに手紙が入ってたんだから。顔面突撃だったから、鼻血滅茶苦茶出たわ……それでもその依頼はちゃーんと受けたよ」
女子に遠慮なくボールを投げて、ものを頼むとかどんな奴だよ……親の顔が見たいよ……
それはともかく依頼の仕方が少し失礼だとしても、この少女は快く笑いながら受けていたのだろう。それならば、今のは……
「降参……」
「持ってきたよ! 外にいた執事からライターじゃないけど、マッチを借りてきたわ」
「あ。ちょうど、ユニちゃんも帰って来たみたいだし。説明するね。正しい依頼のされ方をね」
古月さんはマッチの箱を持ったまま、唸った。
「うううう……され方ねえ。普通でいいじゃないの。どうしてそんな面倒なことを?」
「まず、ここは完全犯罪計画部。それはいいわよね」
良くないが、それを前提として話は進んでもらおう。
「完全犯罪は、人にばれないこと。まあ、普通に警察とかにバレないってことよね」
「うん。共犯者くらいならバレても、関係ない赤の他人にバレないようにしないといけないわ」
古月さんが何故か、真剣になっているような……手に肘を当てて考えているし。
「それなのに、依頼するときにあんな足音を立てて……」
「ん? さっきボールを投げられてって、もしかして、その時も足音立てていたかもしれないじゃないか。もしかして、ひっそりと投げた訳じゃあないよな……」
「思い切りだったわね。足音も聞こえたわ」
「……? ボール。まあいいわ。で、じゃあ何でさっきのは?」
後で古月さんにボールのことを話しておこう。
それよりもぼくは今、自分の好奇心に押されて彼女に反論をしていたことの方が重要だ。興奮して、額に汗をかいていた。
「あの時は公園。ここは何処?」
「被服室前。じゃないか?」
「もう一つあるわよ!」
「あっ! 職員室の前だわ。確かあの後、走り去ってたんだから……」
「教師に見つかる可能性は大。走ったことを叱った先生は間違いなく、彼の顔を覚えて何をしていたか問うわ」
なるほど。筋が通っている。
だが待てよ。もう一つ、反論があった。もしかしたら、もしかしたらだけど。全く確かめていないからわからないけれど。
「あの時、職員室に教師が全くいないのを依頼主は知っていたという可能性は?」
「ないわね。あったとしても、低い」
「何で?」
東堂さんは呆れたように首を横に振って、名推理を披露した。そうして、この教室自体が明るくなっていく気がする。実際は直射日光がこの部屋に射し込んできただけなのだが。
「だって、今日は部活補講……まあ、一般的に言えば部活動紹介の日だよね。だったら、必ずと言ってもいいほど『この部活にしよう! 決めた』と言って顧問の先生に入部の手続きをしようとする人がいるわ。そのとき、先生だって部活をずっと、見てられるわけじゃないんだし。しないといけない仕事もあるでしょ? 生徒の入部の手続きと仕事。両方できるし、生徒だって言われずとも職員室に行くわね。で……それで先生のいる前で封筒を渡そうとするやつが本当に完全犯罪を頼もうとしてるんだったら、本気で断らせてもらうわ」
「あ……」
「それとも、先生に頼みごとをするとき二人はトイレとかに行くわけ、ないよね。やっぱり職員室行くでしょ? ……二人共どうしたの?」
納得。ぼくたちはグウの音すら出せなかった。
「御影とアタシがすっかりあんたの推理に押し負けちゃっただけよ……」
「じゃあ、このいたずららしき手紙は抹消させてもらうわね」
そう言うと東堂さんは古月さんからライターを受け取り、被服室の水道のところで手紙の破片を燃やしていた。
「……推理かあ。アタシ、ちゃんとこの部活入ってみようかしら」
「ふ、古月さん……」
顔に決意の文字は見えないものの「この試供品を使ってみようかしら」とかいう母の表情によく似ていた。
ぼくはどうしよう……と考え込んでこの被服室から一旦出てから、考えることにした。
「うわっ!」
「ごめんなさい。気づかなくって……」
「犯罪をした後で、気づかなかったは通用しませんよ」と言ってやりたかったが、ぼくの口は動かなかった。何故ならぶつかった女子生徒は裸足になって、白い狐の仮面をかぶり、この部屋に入ろうとしていたからだ。たまげてしまう。
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