完全犯罪計画部!~ご相談につきどんな完全犯罪でも創ります!~

夜野舞斗

文字の大きさ
3 / 40
1stプロジェクト ヤンデレ懺滅作戦

2.狐の仮面は合格者の証

しおりを挟む
「ええと、東堂さん……気に入らない相手だったんですか?」

 そう質問したが、答えは分かっている。違う、だ。
 この部屋に封筒を投げてきた人が男か女かさえも判別することはできなかったはずだ。もし、足音などで分析できたとしても、そこに正確な根拠などはない。当てずっぽうなんかで、気に入らない相手の依頼を断っていたら「あそこは完全犯罪なんかできないから、断っている」と言われるだけだ。
 彼女の答えはぼくの考えとは少し違った。
 
「ううん。確かに誰かは知らないけど、気に入らないと私は思うよ」

 古月さんはライターを探しに行ったので、一人で首を傾けるぼく。

「陽介君。思い出してくれる? あの時、どういう風に手紙が来たのか」

 確か足音がした後、すぐに封筒がこの部屋に投げつけられて、そのまま依頼主は走っていった。それだけだ。

「まさか、東堂さん。投げつけられたから?」
「もっと、いい具合に投げつけられた事件があるわね。ボールが飛んできて、そんなかに手紙が入ってたんだから。顔面突撃だったから、鼻血滅茶苦茶出たわ……それでもその依頼はちゃーんと受けたよ」

 女子に遠慮なくボールを投げて、ものを頼むとかどんな奴だよ……親の顔が見たいよ……
 それはともかく依頼の仕方が少し失礼だとしても、この少女は快く笑いながら受けていたのだろう。それならば、今のは……

「降参……」
「持ってきたよ! 外にいた執事からライターじゃないけど、マッチを借りてきたわ」
「あ。ちょうど、ユニちゃんも帰って来たみたいだし。説明するね。正しい依頼のされ方をね」

 古月さんはマッチの箱を持ったまま、唸った。

「うううう……され方ねえ。普通でいいじゃないの。どうしてそんな面倒なことを?」
「まず、ここは完全犯罪計画部。それはいいわよね」

 良くないが、それを前提として話は進んでもらおう。

「完全犯罪は、人にばれないこと。まあ、普通に警察とかにバレないってことよね」
「うん。共犯者くらいならバレても、関係ない赤の他人にバレないようにしないといけないわ」

 古月さんが何故か、真剣になっているような……手に肘を当てて考えているし。

「それなのに、依頼するときにあんな足音を立てて……」
「ん? さっきボールを投げられてって、もしかして、その時も足音立てていたかもしれないじゃないか。もしかして、ひっそりと投げた訳じゃあないよな……」
「思い切りだったわね。足音も聞こえたわ」
「……? ボール。まあいいわ。で、じゃあ何でさっきのは?」

 後で古月さんにボールのことを話しておこう。
 それよりもぼくは今、自分の好奇心に押されて彼女に反論をしていたことの方が重要だ。興奮して、額に汗をかいていた。

「あの時は公園。ここは何処?」
「被服室前。じゃないか?」
「もう一つあるわよ!」
「あっ! 職員室の前だわ。確かあの後、走り去ってたんだから……」
「教師に見つかる可能性は大。走ったことを叱った先生は間違いなく、彼の顔を覚えて何をしていたか問うわ」

 なるほど。筋が通っている。
 だが待てよ。もう一つ、反論があった。もしかしたら、もしかしたらだけど。全く確かめていないからわからないけれど。

「あの時、職員室に教師が全くいないのを依頼主は知っていたという可能性は?」
「ないわね。あったとしても、低い」
「何で?」

 東堂さんは呆れたように首を横に振って、名推理を披露した。そうして、この教室自体が明るくなっていく気がする。実際は直射日光がこの部屋に射し込んできただけなのだが。

「だって、今日は部活補講……まあ、一般的に言えば部活動紹介の日だよね。だったら、必ずと言ってもいいほど『この部活にしよう! 決めた』と言って顧問の先生に入部の手続きをしようとする人がいるわ。そのとき、先生だって部活をずっと、見てられるわけじゃないんだし。しないといけない仕事もあるでしょ? 生徒の入部の手続きと仕事。両方できるし、生徒だって言われずとも職員室に行くわね。で……それで先生のいる前で封筒を渡そうとするやつが本当に完全犯罪を頼もうとしてるんだったら、本気で断らせてもらうわ」
「あ……」
「それとも、先生に頼みごとをするとき二人はトイレとかに行くわけ、ないよね。やっぱり職員室行くでしょ? ……二人共どうしたの?」

 納得。ぼくたちはグウの音すら出せなかった。
 
「御影とアタシがすっかりあんたの推理に押し負けちゃっただけよ……」
「じゃあ、このいたずららしき手紙は抹消させてもらうわね」

 そう言うと東堂さんは古月さんからライターを受け取り、被服室の水道のところで手紙の破片を燃やしていた。

「……推理かあ。アタシ、ちゃんとこの部活入ってみようかしら」
「ふ、古月さん……」

 顔に決意の文字は見えないものの「この試供品を使ってみようかしら」とかいう母の表情によく似ていた。
 ぼくはどうしよう……と考え込んでこの被服室から一旦出てから、考えることにした。

「うわっ!」
「ごめんなさい。気づかなくって……」

 「犯罪をした後で、気づかなかったは通用しませんよ」と言ってやりたかったが、ぼくの口は動かなかった。何故ならぶつかった女子生徒は裸足になって、白い狐の仮面をかぶり、この部屋に入ろうとしていたからだ。たまげてしまう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...