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2ndプロジェクト 殺人詐欺の怪奇談
16.河井 江並の登場!
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「紹介……うちは……河井 江並……そう申す」
「か、河井さん?」
やはりではあるが、聞いたことのない名前だ。
彼女は大人しく、不思議な雰囲気がする。風が吹く度になびく髪も奇麗。まるで女神みたいな人。そんな美人が何で、この部活に……新入りですか?
そう思っていると彼女は逆立ちをやめて、こちらを見つめてくる。そういうのに慣れていなくて、全身の力が抜けてしまった。な、なんなの一体!?
「名前……教えて……まだ」
「あ、そうだった。ぼくはこのボランティア部に入ってる御影 陽介」
そう言うと彼女は突然、何かを思い出したように呟いた。
「……ああ。……東堂が……いってたね。新入りの名前……影が薄いから忘れてた……」
影が薄いという理由で人を忘れていたらこの先やっていけませんよ。そう忠告しておくが、窓の方に目が向いていて、聞く耳を持っていないことはすぐに分かった。酷い……
……そう言えば、河井さんはボランティア部の方で活動している人なのか。それとも、完全犯罪計画部の方で行動している人なのか。尋ねようにも、難しい。腕を組んで考える。
普通に質問して完全犯罪計画部員ではなかったら情報を漏らしてしまう可能性がある。姉さんのとき、やらかした失敗があるし、気をつけなければならない。もし、この部活の存在が世間に知られてしまったら大変なことになり得るだろうから。次にミスをしたらどうなるか、一番分かっているのは自分だろう。
「ど、どうしてこの部活に入ったの? 君は」
結構良い質問だ。
それに河井さんが静かに答える。
「他……自分の好きな……活動が……なかったから」
そう来たか。そう来られると、ボランティア部なのか完全犯罪計画部なのか見当がつかない。
「眠い……寝ていい?」
「え? ちょ――」
「すー。すー」
彼女はぼくにそう確認して、返事を聞く前に机を肘をつけて寝入ってしまった。寝息が聞こえてくるが、それが苛立たしい。できれば自分が何者か教えてくれてから寝たっていいじゃないか。
結局、正体は分からずじまい。彼女が寝ている間、教室でスマホゲームをやっているしか暇をつぶす方法がなかった。
「でも……この女子は」
気になってゲームに集中できず終いにはスマートフォンを鞄の中にしまって、彼女を起こしてみる。
声一発で十分だろう。
「おーい!」
「……もう、朝? もう昼頃……?」
随分物静かでマイペースな人だと知った。寝起きには、人の本性が現れるはずである。そこで慌てる様子も見せず、のんびりとした性格。きっと、ボランティア部に在籍という形でいるだけなのかもしれない。熱血漢を想像していたが……思っていたのとは全然違うのか。世の中は不可思議なものである。
そこでさらに有力な情報を思い出す。
「あの子は『色恋話については全く興味ないから、引き受ける気がしない。次の依頼が入ったら教えてくれ』って言ってたわ」
東堂さんの言葉。河井さんがそんなことを言う人の訳がない。
脳内でそういう結果になり、彼女にボランティア部のつもりで接してみた。
「よろしく。ボランティアとして」
「……完全犯罪……の方じゃないの?」
「……え?」
そちらの方でした!?
そこから、勘違いしていたぼくがその理由を話す。すると彼女は窓から見える曇り空を見上げながら、ぼくに絡まった勘違いという名の紐を解いていった。
「確かに……うち……恋とか……そういうの、分かんない……けど……分からずに適当に……人を傷つけるの嫌だし……断った」
「そうなのか」
「それを……勝手に東堂が」
「勘違いして説明したってことか。何か、ごめん。ワガママな子かと思ってた」
「それで……いい。うち、ワガママだし」
なんとなく心が痛む。こんなにも優しく清い人に勘違いしていたと思うと、ぼくの良心に何かが刺さったように痛い。これからは噂だけでの判断はやめよう。噂には、嘘や勘違いが沢山入っているから……
小さな決意をした後、ふと疑問が頭に戻ってきた。
何故この人は逆立ちをしながら、古文の参考書を読んでいたのだ?
「……逆立ち……頭に……良く入る」
そういうことがあるんだ。
「それで……テストは……いつも学年順位……十位以内」
「……頭がいいんですね」
「いや……逆立ちして寝そうになってるから……あんまり……関係ないと思う」
「だったらに血が上るから、やめた方がいいですよ」
「そうだね……今度はバク転しながら、参考書……読む」
謎の少女。河井 江並。彼女とぼくが共に変わっていくことになるなんて、思いもよらなかった。この出会いこそ、宝物だあると知る日はまだまだ遠いのだが。
「そういえば……うち……副部長やってるからね」
「へえ。副部長の仕事って何?」
「何だろう……聞いたことがない……東堂……勢いだけで決めるから……」
「あの勢いでいつか、学校爆破しそうだね」
「そこ……までは……しないと思う……きっと……確率五十ッパー」
そう言っていた彼女の口元が少し緩んだように見える。
「結構あるじゃん」
「……そう……だね」
曇り空の晴れ間が、この教室を明るくしてくれた。
「あっ! おおい! エナちゃんに陽介君! 新しい依頼が来たよー!」
「か、河井さん?」
やはりではあるが、聞いたことのない名前だ。
彼女は大人しく、不思議な雰囲気がする。風が吹く度になびく髪も奇麗。まるで女神みたいな人。そんな美人が何で、この部活に……新入りですか?
そう思っていると彼女は逆立ちをやめて、こちらを見つめてくる。そういうのに慣れていなくて、全身の力が抜けてしまった。な、なんなの一体!?
「名前……教えて……まだ」
「あ、そうだった。ぼくはこのボランティア部に入ってる御影 陽介」
そう言うと彼女は突然、何かを思い出したように呟いた。
「……ああ。……東堂が……いってたね。新入りの名前……影が薄いから忘れてた……」
影が薄いという理由で人を忘れていたらこの先やっていけませんよ。そう忠告しておくが、窓の方に目が向いていて、聞く耳を持っていないことはすぐに分かった。酷い……
……そう言えば、河井さんはボランティア部の方で活動している人なのか。それとも、完全犯罪計画部の方で行動している人なのか。尋ねようにも、難しい。腕を組んで考える。
普通に質問して完全犯罪計画部員ではなかったら情報を漏らしてしまう可能性がある。姉さんのとき、やらかした失敗があるし、気をつけなければならない。もし、この部活の存在が世間に知られてしまったら大変なことになり得るだろうから。次にミスをしたらどうなるか、一番分かっているのは自分だろう。
「ど、どうしてこの部活に入ったの? 君は」
結構良い質問だ。
それに河井さんが静かに答える。
「他……自分の好きな……活動が……なかったから」
そう来たか。そう来られると、ボランティア部なのか完全犯罪計画部なのか見当がつかない。
「眠い……寝ていい?」
「え? ちょ――」
「すー。すー」
彼女はぼくにそう確認して、返事を聞く前に机を肘をつけて寝入ってしまった。寝息が聞こえてくるが、それが苛立たしい。できれば自分が何者か教えてくれてから寝たっていいじゃないか。
結局、正体は分からずじまい。彼女が寝ている間、教室でスマホゲームをやっているしか暇をつぶす方法がなかった。
「でも……この女子は」
気になってゲームに集中できず終いにはスマートフォンを鞄の中にしまって、彼女を起こしてみる。
声一発で十分だろう。
「おーい!」
「……もう、朝? もう昼頃……?」
随分物静かでマイペースな人だと知った。寝起きには、人の本性が現れるはずである。そこで慌てる様子も見せず、のんびりとした性格。きっと、ボランティア部に在籍という形でいるだけなのかもしれない。熱血漢を想像していたが……思っていたのとは全然違うのか。世の中は不可思議なものである。
そこでさらに有力な情報を思い出す。
「あの子は『色恋話については全く興味ないから、引き受ける気がしない。次の依頼が入ったら教えてくれ』って言ってたわ」
東堂さんの言葉。河井さんがそんなことを言う人の訳がない。
脳内でそういう結果になり、彼女にボランティア部のつもりで接してみた。
「よろしく。ボランティアとして」
「……完全犯罪……の方じゃないの?」
「……え?」
そちらの方でした!?
そこから、勘違いしていたぼくがその理由を話す。すると彼女は窓から見える曇り空を見上げながら、ぼくに絡まった勘違いという名の紐を解いていった。
「確かに……うち……恋とか……そういうの、分かんない……けど……分からずに適当に……人を傷つけるの嫌だし……断った」
「そうなのか」
「それを……勝手に東堂が」
「勘違いして説明したってことか。何か、ごめん。ワガママな子かと思ってた」
「それで……いい。うち、ワガママだし」
なんとなく心が痛む。こんなにも優しく清い人に勘違いしていたと思うと、ぼくの良心に何かが刺さったように痛い。これからは噂だけでの判断はやめよう。噂には、嘘や勘違いが沢山入っているから……
小さな決意をした後、ふと疑問が頭に戻ってきた。
何故この人は逆立ちをしながら、古文の参考書を読んでいたのだ?
「……逆立ち……頭に……良く入る」
そういうことがあるんだ。
「それで……テストは……いつも学年順位……十位以内」
「……頭がいいんですね」
「いや……逆立ちして寝そうになってるから……あんまり……関係ないと思う」
「だったらに血が上るから、やめた方がいいですよ」
「そうだね……今度はバク転しながら、参考書……読む」
謎の少女。河井 江並。彼女とぼくが共に変わっていくことになるなんて、思いもよらなかった。この出会いこそ、宝物だあると知る日はまだまだ遠いのだが。
「そういえば……うち……副部長やってるからね」
「へえ。副部長の仕事って何?」
「何だろう……聞いたことがない……東堂……勢いだけで決めるから……」
「あの勢いでいつか、学校爆破しそうだね」
「そこ……までは……しないと思う……きっと……確率五十ッパー」
そう言っていた彼女の口元が少し緩んだように見える。
「結構あるじゃん」
「……そう……だね」
曇り空の晴れ間が、この教室を明るくしてくれた。
「あっ! おおい! エナちゃんに陽介君! 新しい依頼が来たよー!」
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