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1stプロジェクト ヤンデレ懺滅作戦
15.甘ったるい終了の合図(1stプロジェクトエンド)
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あくる日の午後、ぼくと古月さんはピンチ状態に陥っていた。密室の被服室で東堂さんの判断を待っているのである。足へと流れ落ちていく水滴に刺激され、立ち上がった。
「さっき『部室で待ってて』って言われたけど、結局ぼくたちはクビになるの?」
「さあね……少しは落ち着きなさい」
「そういう、古月さんだって」
古月さんはこの教室に入ってきたときから、円を描くように何度も歩いているのだ。
「これは……」
「気にしないから。続けてていいぞ」
彼女が隠そうと思っていても、そわそわしていることは明白だ。それを否定するのもストレスになるだけ。今のうちに好きなだけ動いた方がいいだろう。
止まることを知らない彼女は、ぼくに話しかけてきた。会話するときくらいは、停止したらどうなんだ……?
「ええと、辞めたら何処の部活にいく? 運動部? 文化部?」
「そうだな……ここ以外にいい部活が思いつかないんだよな」
この部活動は、ぼくにとって最適なのだ。上下関係もなく、人数が少ないから部活内の煩わしい人間関係(依頼人たちの人間関係は依頼が終わったら、断ち切ることができるものだから、気にしてはいない)も最低限に留めることができる。
溜息を絶え間なく出し続けながら、古月さんと部活の会話をしていた。
「文芸部とかどう?」
「どこの部活でも忘れられちゃうから意味ないよ……」
ある種トラウマになっている薄い影。逃げても逃げても、振り切ることができないものだから本当に厄介だ。しかし、何故かこの「完全犯罪計画部」にいれば逃げ切れる……そう感じていたのである。錯覚かもしれないが、希望は一応持っていた。
その光もぼくの追跡時のミスで消え去ってしまうのか。虚しい。まるで心がドーナツになるような感覚だ。
そんなぼくは差し出された苺クリーム付きのドーナツを口に入れる……ドーナツ?
「ぼーっとしてるね」
いきなりドーナツを手にして登場する東堂さん。驚いて、心臓の動きが早くなってしまいました。
彼女が抱えていた紙袋には、スイーツを食べている子供の絵が描いてある。新宮洋菓子店のトレードマークだ。その店にはぼくも姉さんも電車に乗ってまでちょくちょく行っている。
東堂さんはそれを買ってくるがために、ぼくたちを待たせていたのか?
口にチョコクリームをつけた古月さんは目を丸くして尋ねた。
「東堂さん? このドーナツは?」
「二人ともお疲れ! 今回、貴方たちも頑張ったから奮発して買ってきちゃったよ!」
そう言いながら、東堂さんも笑顔であんこのドーナツにかぶりつく。
「絵里利? あんたが食べたかっただけじゃないの?」
「へへ……そうかもね。けど、これ自腹だからいいじゃん。あっ! 聞きたいことがあるんだけどさあ。昨日、彼らはあれで良かったと思うの?」
「思うわよ。だって彼、段ボールで送ってきた下着の件も良いと思ってるだろうし。宮古さんが宮古さんなりにヤンデレを受け止めた結果じゃない?」
古月さんが理由も添えて答えた。
そこで東堂さんが食べる手を止めて、聞き返す。
「どうして下着が浜野さんのものだって? 違うヤンデレの人かもしれないよ?」
「浜野先輩のものだって、分かるよ。彼はね」
「どうして?」
この応対はぼくしかできない。
宮古家のリビングについて、伝えた。あそこなら、嫌でもアパートに住居している人の洗濯物が見えてしまうことを。
そこから宮古さんも彼女に何らかの感情を抱いていたのかもしれないということを。これから、きっとやっていけるという希望をぼくが思うままに話してみる。
すると東堂さんはほんのりと甘くて優しい顔をぼくと古月さんに向けて、こう語ってくれた。
「今回の失敗は不問にするわね。こうして失敗を生かせたみたいだし……完全犯罪は失敗だけど、浜野さんとの闘いは凄かったよ! 陽介君のお姉さんにもそう言っておいて」
「わ、分かった」
「御影。アプリのことは少々癪に障ったけど……少し見直したわ」
「良かった……アプリ? なんのこと……だ? まあ……いいか」
ぼくは彼女たちの声に照れてしまう。許してくれて、褒めてくれて嬉しかった。こんなぼくを評価してくれて、ありがとうってね!
東堂さん。ありがとう。
「けど、次からは失敗しないよう、陽介君に縄でもつけておきますかね……」
「と、東堂さん!?」
彼女の言葉に、ぼくは落としたドーナツを着地寸前で掴む。危ない危ない……
そんな姿を楽しんだみたいで、彼女は大いに笑った。
「ふふふ……冗談だって! 面白いなあ、陽介君!」
「あはははははは!」
「古月さんまで!」
古月さんの笑い方が到底、社長令嬢だとは思えない。でも、今はそんな肩書、関係ないよな。
ぼくたちは何の変哲もない、ただの「完全犯罪計画部」なんだから!
「次の依頼、何が来るのか楽しみね!」
「どんな依頼でもお手の物! この古月ならね!」
「ぼくだって、舐めないでくれよ!」
その日、西に傾いていた太陽がとても眩しく情熱的に感じたのであった。
そうそう、古月さんの口にチョコが結構付着していることは黙っておこう。
――――――――――――――――――――
木曜日の放課後のこと。
「漢字の再テストで残されるなんて、思ってもなかった。二人とも帰っちゃったかな……」
ぼくは廊下を全速力で疾走していた。目的地は被服室。
「依頼はあるかな」や「東堂さんたち帰っちゃったかな?」など、色々な思いを持って進んでいく。
ここ最近、毎日部活に参加しているような気もするが……まあ、いいや。案外、楽しいし。そんな感じで部室の扉を開いた。
「あら……? 貴方、誰……?」
眼鏡をかけた短髪の女子高生が逆立ちをしながら、参考書を読んでいた。
見知らぬ彼女にぼくは質問を質問で返してみる。
「……貴方の方こそ、どちら様ですか?」
教室の中に涼しい風が吹き渡る。
「さっき『部室で待ってて』って言われたけど、結局ぼくたちはクビになるの?」
「さあね……少しは落ち着きなさい」
「そういう、古月さんだって」
古月さんはこの教室に入ってきたときから、円を描くように何度も歩いているのだ。
「これは……」
「気にしないから。続けてていいぞ」
彼女が隠そうと思っていても、そわそわしていることは明白だ。それを否定するのもストレスになるだけ。今のうちに好きなだけ動いた方がいいだろう。
止まることを知らない彼女は、ぼくに話しかけてきた。会話するときくらいは、停止したらどうなんだ……?
「ええと、辞めたら何処の部活にいく? 運動部? 文化部?」
「そうだな……ここ以外にいい部活が思いつかないんだよな」
この部活動は、ぼくにとって最適なのだ。上下関係もなく、人数が少ないから部活内の煩わしい人間関係(依頼人たちの人間関係は依頼が終わったら、断ち切ることができるものだから、気にしてはいない)も最低限に留めることができる。
溜息を絶え間なく出し続けながら、古月さんと部活の会話をしていた。
「文芸部とかどう?」
「どこの部活でも忘れられちゃうから意味ないよ……」
ある種トラウマになっている薄い影。逃げても逃げても、振り切ることができないものだから本当に厄介だ。しかし、何故かこの「完全犯罪計画部」にいれば逃げ切れる……そう感じていたのである。錯覚かもしれないが、希望は一応持っていた。
その光もぼくの追跡時のミスで消え去ってしまうのか。虚しい。まるで心がドーナツになるような感覚だ。
そんなぼくは差し出された苺クリーム付きのドーナツを口に入れる……ドーナツ?
「ぼーっとしてるね」
いきなりドーナツを手にして登場する東堂さん。驚いて、心臓の動きが早くなってしまいました。
彼女が抱えていた紙袋には、スイーツを食べている子供の絵が描いてある。新宮洋菓子店のトレードマークだ。その店にはぼくも姉さんも電車に乗ってまでちょくちょく行っている。
東堂さんはそれを買ってくるがために、ぼくたちを待たせていたのか?
口にチョコクリームをつけた古月さんは目を丸くして尋ねた。
「東堂さん? このドーナツは?」
「二人ともお疲れ! 今回、貴方たちも頑張ったから奮発して買ってきちゃったよ!」
そう言いながら、東堂さんも笑顔であんこのドーナツにかぶりつく。
「絵里利? あんたが食べたかっただけじゃないの?」
「へへ……そうかもね。けど、これ自腹だからいいじゃん。あっ! 聞きたいことがあるんだけどさあ。昨日、彼らはあれで良かったと思うの?」
「思うわよ。だって彼、段ボールで送ってきた下着の件も良いと思ってるだろうし。宮古さんが宮古さんなりにヤンデレを受け止めた結果じゃない?」
古月さんが理由も添えて答えた。
そこで東堂さんが食べる手を止めて、聞き返す。
「どうして下着が浜野さんのものだって? 違うヤンデレの人かもしれないよ?」
「浜野先輩のものだって、分かるよ。彼はね」
「どうして?」
この応対はぼくしかできない。
宮古家のリビングについて、伝えた。あそこなら、嫌でもアパートに住居している人の洗濯物が見えてしまうことを。
そこから宮古さんも彼女に何らかの感情を抱いていたのかもしれないということを。これから、きっとやっていけるという希望をぼくが思うままに話してみる。
すると東堂さんはほんのりと甘くて優しい顔をぼくと古月さんに向けて、こう語ってくれた。
「今回の失敗は不問にするわね。こうして失敗を生かせたみたいだし……完全犯罪は失敗だけど、浜野さんとの闘いは凄かったよ! 陽介君のお姉さんにもそう言っておいて」
「わ、分かった」
「御影。アプリのことは少々癪に障ったけど……少し見直したわ」
「良かった……アプリ? なんのこと……だ? まあ……いいか」
ぼくは彼女たちの声に照れてしまう。許してくれて、褒めてくれて嬉しかった。こんなぼくを評価してくれて、ありがとうってね!
東堂さん。ありがとう。
「けど、次からは失敗しないよう、陽介君に縄でもつけておきますかね……」
「と、東堂さん!?」
彼女の言葉に、ぼくは落としたドーナツを着地寸前で掴む。危ない危ない……
そんな姿を楽しんだみたいで、彼女は大いに笑った。
「ふふふ……冗談だって! 面白いなあ、陽介君!」
「あはははははは!」
「古月さんまで!」
古月さんの笑い方が到底、社長令嬢だとは思えない。でも、今はそんな肩書、関係ないよな。
ぼくたちは何の変哲もない、ただの「完全犯罪計画部」なんだから!
「次の依頼、何が来るのか楽しみね!」
「どんな依頼でもお手の物! この古月ならね!」
「ぼくだって、舐めないでくれよ!」
その日、西に傾いていた太陽がとても眩しく情熱的に感じたのであった。
そうそう、古月さんの口にチョコが結構付着していることは黙っておこう。
――――――――――――――――――――
木曜日の放課後のこと。
「漢字の再テストで残されるなんて、思ってもなかった。二人とも帰っちゃったかな……」
ぼくは廊下を全速力で疾走していた。目的地は被服室。
「依頼はあるかな」や「東堂さんたち帰っちゃったかな?」など、色々な思いを持って進んでいく。
ここ最近、毎日部活に参加しているような気もするが……まあ、いいや。案外、楽しいし。そんな感じで部室の扉を開いた。
「あら……? 貴方、誰……?」
眼鏡をかけた短髪の女子高生が逆立ちをしながら、参考書を読んでいた。
見知らぬ彼女にぼくは質問を質問で返してみる。
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