25 / 40
2ndプロジェクト 殺人詐欺の怪奇談
22.壊されそうな精神と砕け散った灰色の日々
しおりを挟む
「さ、探すって……証拠でも探すのか?」
東堂さんの方を向いた。彼女は泥棒が綿密に家を探索しているように思える。
ぼくはその様子に慌てて、古月さんに相談を持ち掛ける。
「東堂さんは探偵ごっこでもやってるの……こんな状況で?」
「そうね。例えば、引き出しに真珠が入ってるけど……あれ。これと同じものを持ってる人をあそこで……」
この状態。古月さんは何故、落ち着いて倒れたタンスなんかを探っているんだ?
普通。驚くだろ。声が出なくなるはずだ。だって、目の前で人が殺されてるんだぞ……しかも、病気や事故ではなく、どう考えても他殺死体だ!
「……凶器……あれだよ……死体の近く……どうやら……そこの虎の置物みたい……」
「え……?」
悲しくなってくる。目に溜まった何かが抑えられそうにない。河井さんまで、何言ってるの?彼女はリビングの入り口で動かずとも、目に映る情景を言葉にしていた。殺人現場なんて、確かめえなくてもいいって!
この古く、今でも倒壊しそうな一軒家の中でぼくは床に倒れこみ、両手で顔を覆った。こんなの現実ではない。ぼくたちがやったんじゃない。秘密を隠して、何がしたいの?
「……何が何なんだよ。ここは」
「御影! 何か勘違いしてない!?」
「へっ?」
古月さんが何の予告もせずに、ぼくの胸倉を掴んできた。歯を食いしばって、自分の身を守る。彼女の表情は、どう考えてもぼくを威嚇している……
「あんたは何を思ってるの?」
「不自然な証拠をなくしてさ……この計画部に何の危害もないようにするためだろ……何がしたいんだ?」
「……はあ、さっきの言葉を聞いてまでそれを言う? 江並が凶器の事を話したよね。それ、こっちに何の関係があるわけ?」
分からない。そう言って顔を歪めると、彼女は掴んでいた胸倉を思い切り離した。そのせいで頭をぶつけてしまう……
「絵里利や江並は、知りたいのよ。ここで何が起きたのか。そこにいる湯治さんのためにも。ねっ!」
ぼくは彼女が指した後ろに首を回した。廊下にいたのは、河井さんと初対面の男の人。河井さんと会話をしていたので、その会話をほんのちょっとだけ耳に入れてみた。
「……もう……警察に……電話した?」
「ああ。こっちのスマホでね」
彼は携帯電話をポケットから取り出していた。新品にはまったく見えない。もう使い古されていて、いつ発火してもおかしくないような気がする。
古月さんの言葉で少し冷静になったぼくは涙を堪えて、東堂の調査しているリビングのテレビ前まで来た。彼女は窓ガラスにひびに小さなひびが入っているのを見ながら、傷だらけの床を触っている。
「と、東堂さん……予想当たってましたね。殺人……っていう」
「当たってほしくなかったよ……絶対にダメだよ……人の命を奪うなんてさ」
東堂さんの目から光る何かが飛んでいく。
ぼくも彼女と同意見だ。その人の人生を壊していい権利なんて、誰にもない!壊される権利だって、同等だ!
しかし、ぼくたちが調べてもいいのか……?そんな権利あるのか?もしも滅茶苦茶にしてしまったら、それでこそ亡くなった人に失礼である……
「今回の事件、私たちも少し関わってるでしょ?」
「えっと……」
東堂さんがいきなり話題を変えた……のだろうか。それは分からないが、関わった経緯なら説明できる。
ぼくたちが依頼を受け、練習のためにこの家へ電話をした。そしたら、被害者の最期の声を聴くことになった。それだけだ。
「そう。絶対に現場を触れたり、汚したりしたらダメよ。あくまで私たちはこの場所の傍観者。手を触れないようにね」
「……その割には手に血がついてますけど……」
「え?」
東堂さんの手にハッキリと血がついていた。ぼくはしゃがみ込んで、床の傷を見る。凹みを幾つか、発見できた。そこで彼女に問いかける。
「警察に任せたら……無理ですよね」
「完全犯罪計画部が今回の事件に関わってるからね。それに……」
その後が気になる。それに……そこには捜査をする理由が当てはまるはずだ。だが、ぼくはそのピースを持っていないと……思う。
まだ知らない。彼女が何によって、そこまで動かされているのか。警察が家に入るまでの捜査をしていたのは、古月さんと東堂さんだけだった。ぼくはリビングから水田ばかりの外を眺めている。
「凹みに血がついてる……きっと、ここを触っちゃったからだね」
「絵里利。被害者から出血してる量が少ない。きっと、首の骨が折れて亡くなったんじゃないかしら」
彼女たちの決意には驚かされっぱなしだ。
歯がゆい。前回起きたストーカーの一件は何とか、できたのに今回ばかりはどうにもならない。そんな自分が悔しい。悲しい。辛い。
「おい! そこの三人、なにやってる!?」
初老の男が歩いてきた。やばい。怒られる。
だけど、その声は嬉しかった。闇に閉ざされたぼくの気持ちが彼の言葉によって、スッと飛ばされたような感じがする。
「立ち入り禁止だというのに。いつもの通り、東堂は入って来たか」
「調べるためですから」
ぼくたちは彼に説教される羽目になった。当たり前の話だが。それでも、本当に良かった。まともな人が来てくれて。東堂さんの口答えから、彼女が探偵の助手(自称)だということが分かって。
そう思わないと、安心して胸を撫でおろさなければ、高校生のぼくの精神は壊れて砕けていきそうな……そんな恐怖を覚えた。
「怒られた後に安心してんの……おかしいわよ」
「おかしいのは、君たちも同じだよ……」
「まあ、確かに私たち、凄い変だったからね。いきなりゴメンね。陽介君」
「ちなみに……うちと湯治さん……外で話して……たから……怒られなかった……よかった」
容疑者として玄関の前に立たされたぼくたち四人は、警察によって集められた三人の容疑者を目にした。
東堂さんの方を向いた。彼女は泥棒が綿密に家を探索しているように思える。
ぼくはその様子に慌てて、古月さんに相談を持ち掛ける。
「東堂さんは探偵ごっこでもやってるの……こんな状況で?」
「そうね。例えば、引き出しに真珠が入ってるけど……あれ。これと同じものを持ってる人をあそこで……」
この状態。古月さんは何故、落ち着いて倒れたタンスなんかを探っているんだ?
普通。驚くだろ。声が出なくなるはずだ。だって、目の前で人が殺されてるんだぞ……しかも、病気や事故ではなく、どう考えても他殺死体だ!
「……凶器……あれだよ……死体の近く……どうやら……そこの虎の置物みたい……」
「え……?」
悲しくなってくる。目に溜まった何かが抑えられそうにない。河井さんまで、何言ってるの?彼女はリビングの入り口で動かずとも、目に映る情景を言葉にしていた。殺人現場なんて、確かめえなくてもいいって!
この古く、今でも倒壊しそうな一軒家の中でぼくは床に倒れこみ、両手で顔を覆った。こんなの現実ではない。ぼくたちがやったんじゃない。秘密を隠して、何がしたいの?
「……何が何なんだよ。ここは」
「御影! 何か勘違いしてない!?」
「へっ?」
古月さんが何の予告もせずに、ぼくの胸倉を掴んできた。歯を食いしばって、自分の身を守る。彼女の表情は、どう考えてもぼくを威嚇している……
「あんたは何を思ってるの?」
「不自然な証拠をなくしてさ……この計画部に何の危害もないようにするためだろ……何がしたいんだ?」
「……はあ、さっきの言葉を聞いてまでそれを言う? 江並が凶器の事を話したよね。それ、こっちに何の関係があるわけ?」
分からない。そう言って顔を歪めると、彼女は掴んでいた胸倉を思い切り離した。そのせいで頭をぶつけてしまう……
「絵里利や江並は、知りたいのよ。ここで何が起きたのか。そこにいる湯治さんのためにも。ねっ!」
ぼくは彼女が指した後ろに首を回した。廊下にいたのは、河井さんと初対面の男の人。河井さんと会話をしていたので、その会話をほんのちょっとだけ耳に入れてみた。
「……もう……警察に……電話した?」
「ああ。こっちのスマホでね」
彼は携帯電話をポケットから取り出していた。新品にはまったく見えない。もう使い古されていて、いつ発火してもおかしくないような気がする。
古月さんの言葉で少し冷静になったぼくは涙を堪えて、東堂の調査しているリビングのテレビ前まで来た。彼女は窓ガラスにひびに小さなひびが入っているのを見ながら、傷だらけの床を触っている。
「と、東堂さん……予想当たってましたね。殺人……っていう」
「当たってほしくなかったよ……絶対にダメだよ……人の命を奪うなんてさ」
東堂さんの目から光る何かが飛んでいく。
ぼくも彼女と同意見だ。その人の人生を壊していい権利なんて、誰にもない!壊される権利だって、同等だ!
しかし、ぼくたちが調べてもいいのか……?そんな権利あるのか?もしも滅茶苦茶にしてしまったら、それでこそ亡くなった人に失礼である……
「今回の事件、私たちも少し関わってるでしょ?」
「えっと……」
東堂さんがいきなり話題を変えた……のだろうか。それは分からないが、関わった経緯なら説明できる。
ぼくたちが依頼を受け、練習のためにこの家へ電話をした。そしたら、被害者の最期の声を聴くことになった。それだけだ。
「そう。絶対に現場を触れたり、汚したりしたらダメよ。あくまで私たちはこの場所の傍観者。手を触れないようにね」
「……その割には手に血がついてますけど……」
「え?」
東堂さんの手にハッキリと血がついていた。ぼくはしゃがみ込んで、床の傷を見る。凹みを幾つか、発見できた。そこで彼女に問いかける。
「警察に任せたら……無理ですよね」
「完全犯罪計画部が今回の事件に関わってるからね。それに……」
その後が気になる。それに……そこには捜査をする理由が当てはまるはずだ。だが、ぼくはそのピースを持っていないと……思う。
まだ知らない。彼女が何によって、そこまで動かされているのか。警察が家に入るまでの捜査をしていたのは、古月さんと東堂さんだけだった。ぼくはリビングから水田ばかりの外を眺めている。
「凹みに血がついてる……きっと、ここを触っちゃったからだね」
「絵里利。被害者から出血してる量が少ない。きっと、首の骨が折れて亡くなったんじゃないかしら」
彼女たちの決意には驚かされっぱなしだ。
歯がゆい。前回起きたストーカーの一件は何とか、できたのに今回ばかりはどうにもならない。そんな自分が悔しい。悲しい。辛い。
「おい! そこの三人、なにやってる!?」
初老の男が歩いてきた。やばい。怒られる。
だけど、その声は嬉しかった。闇に閉ざされたぼくの気持ちが彼の言葉によって、スッと飛ばされたような感じがする。
「立ち入り禁止だというのに。いつもの通り、東堂は入って来たか」
「調べるためですから」
ぼくたちは彼に説教される羽目になった。当たり前の話だが。それでも、本当に良かった。まともな人が来てくれて。東堂さんの口答えから、彼女が探偵の助手(自称)だということが分かって。
そう思わないと、安心して胸を撫でおろさなければ、高校生のぼくの精神は壊れて砕けていきそうな……そんな恐怖を覚えた。
「怒られた後に安心してんの……おかしいわよ」
「おかしいのは、君たちも同じだよ……」
「まあ、確かに私たち、凄い変だったからね。いきなりゴメンね。陽介君」
「ちなみに……うちと湯治さん……外で話して……たから……怒られなかった……よかった」
容疑者として玄関の前に立たされたぼくたち四人は、警察によって集められた三人の容疑者を目にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる