26 / 40
2ndプロジェクト 殺人詐欺の怪奇談
23.睨み合いの交戦状態
しおりを挟む
「……何か、凄まじく気まずいなあ」
依頼人の塩見 湯治さん。彼に対しては話しにくいわけではない。しかし、東堂さんが彼の家に強引に押し入ったのだから、目を合わせづらい。
二人目。見たことのない女性。普通に考えれば、湯治さんの母であり被害者の妻なのだということが分かる。けれど、服装が豪華絢爛過ぎて本当にこの一軒家に住んでいるのか、不思議になってくる……ぼくは、古月さんよりも威張っていそうな女性から目を反らす。
三人目。走っている途中、ぼくを睨みつけてきた男性だ。……怪しい。今もこちらを恐ろしい形相で見ているような気がする。
そんなことを東堂さんたちに囁くと、古月さんが最初に眉をひそめた。
「……そうなんだ。アタシもあの女性に何か、嫌な目で見られたような気がする。さっき、駅前にいたときのことだけど……」
「そうなんだ」
つまり容疑者たちには、やましいことが幾つかあるらしい。
東堂さんは間を開けて、ぼくたちに話しかけてきた。
「睨まれっこよにはばかる。って言うでしょ! 大丈夫。きっと、貴方たちは世にはばかるから!」
「……憎まれっこ……世に……はばかる……意味が……まず違う」
「……もし、意味があってたとしても、そんな理由で世にはばかりたくないな……」
苦笑いをしていると、古月さんは女性の方をチラチラと見ていた。その不機嫌そうな顔にどうしたのかを尋ねてみると、案外どうでもいいことだった。
「いや。ああいう宝石との組み合わせが気に入らないわね。ルビーとかターコイズとか、サファイヤとか……さっき見たときには、真珠も首の辺りにつけてたけど。本当、宝石の使うファッションが分かっていないのよね!」
古月さん……彼女の身に着けている宝石をすべて言い当てたのは尊敬できるけど、その鼻が高そうな表情はなんなのだ……
何か心に引っ掛かるような言葉があったが、分からない。後で考えてみよう。
殺人事件が起こって、人の命が奪われた……何だか、実感が湧かない。まあ、警察が捜査してくれるだろう。彼らは非常に優秀だ。一時間後には、犯人を警察署に連行するのだろう。そう思っていた。
暇だったので、ぼくは警官が外で簡単な話をしているのに聞き耳を立てる。何か……少しでも多く情報を!
女の人に若い男性警官が近寄る。彼女から舌打ちが聞こえたような……怪しい……早く犯人よ捕まってくれ。そう祈りを込めながら、彼女たちの話を聞いていた。
「あの……まずはお名前を」
「塩見 尚子! 被害者の妻よ! ワタクシは殺人が起こったときにあの場にはいなかった! それで十分でしょ!? ああ……まったく……他に何事もなくてよかったわ」
「そ、そうですか……ちょい薄情じゃ……」
分からない。怒りなのか、悲しみなのか。顔にこみあげてくる感情の種類が理解できなかった。夫が亡くなったのに、この焦りようは何なのだ。まるで「これ以上何も聞かないで」と言っているような……
死んでも悲しまれないなんて、本当に辛いことだろう……!成仏してくださいね。
そんな祈りを遮るように隣から暑い邪気を感じた。紫色の禍々しいオーラが古月さんから放たれている。東堂さんもその邪気に触れないよう、身を引いていた。ふ、古月さん!?
「許せないわね。あんな態度。ちょっと一発、殴ってきていいかしら」
「完全犯罪計画部の一員がこんなところで、騒ぎ起こしちゃダメ。よしなよ……」
そう言わなければ、古月さんは真っ先に容疑者に飛び込むくらいの怒りを持っていた。感情をハッキリさせて、力強い意思を……
彼女たちとそんな話をしていると、警官は人相の悪い年よりと会話をしていた。危うく、名前を聞き逃すところだった。
「蛭間 堅蔵だ。忙しいときに呼びよって!」
目の前で警官に怒鳴りつけている男はターゲット。確か、被害者から金を騙し取った悪人なんだよな。
胸に手を当て、気分を穏やかにしてから考える。依頼人の湯治さんが嘘をついていなければ、彼も怪しいということになる。騙したことが公にされると被害者に脅されれば、不正から逃げてきた蛭間氏にとっては動機になり得る。
「……話を聞いてみると……どうやら……アリバイ……ある……みたい。蛭間氏も……尚子氏も……」
「どっちもアリバイか。河井さん。ありがとう」
彼女の注意力と集中力は大人顔負けだな……澄ました顔をして、容疑者を彼女は見る。あそこから、何が見えているのだろうか。ぼくたちとは全然違うものなのかもしれないが、どちらにしても知りたい真実は同じだ。
ぼくだって謎が早く究明されて、今運び出されている塩見さんの父親が安心できるように……したい!
その気持ちは同じだよねえ……東堂さん。古月さん。東堂さん。ねえ。
「完全犯罪計画部として、勿論、完全犯罪を作るのも仕事。犯罪をする人にとっても真実は大切なもの。隠さなきゃいけないんだから。探偵。あれが暴く。こちらは隠す。だから私たちには、隠す側の行動が探偵や警察からは違う視点でみることができるかもね! それなら、私たちも事件について考えたって損ではないでしょ!」
「その通りだね。東堂さん」
彼女が両目を瞑る。そこから、伝ってくる熱いものを受け取った。今は彼の死の真相の手がかりを掴んで、推理をしよう!
そんなとき、尚子さんの口から重要参考人の名前が挙がった。
「この家にいたのは息子でしょ。ワタクシ見ましたわ。湯治が事件が起こったとき、家にいたのを。ちょうど、出ていくところでしたから! そう。ワタクシを疑うのは筋違い……塩見 次郎を殺したのは、湯治よ!」
ぼくは全身を奮い立たせて、彼女を睨みつけた!
依頼人の塩見 湯治さん。彼に対しては話しにくいわけではない。しかし、東堂さんが彼の家に強引に押し入ったのだから、目を合わせづらい。
二人目。見たことのない女性。普通に考えれば、湯治さんの母であり被害者の妻なのだということが分かる。けれど、服装が豪華絢爛過ぎて本当にこの一軒家に住んでいるのか、不思議になってくる……ぼくは、古月さんよりも威張っていそうな女性から目を反らす。
三人目。走っている途中、ぼくを睨みつけてきた男性だ。……怪しい。今もこちらを恐ろしい形相で見ているような気がする。
そんなことを東堂さんたちに囁くと、古月さんが最初に眉をひそめた。
「……そうなんだ。アタシもあの女性に何か、嫌な目で見られたような気がする。さっき、駅前にいたときのことだけど……」
「そうなんだ」
つまり容疑者たちには、やましいことが幾つかあるらしい。
東堂さんは間を開けて、ぼくたちに話しかけてきた。
「睨まれっこよにはばかる。って言うでしょ! 大丈夫。きっと、貴方たちは世にはばかるから!」
「……憎まれっこ……世に……はばかる……意味が……まず違う」
「……もし、意味があってたとしても、そんな理由で世にはばかりたくないな……」
苦笑いをしていると、古月さんは女性の方をチラチラと見ていた。その不機嫌そうな顔にどうしたのかを尋ねてみると、案外どうでもいいことだった。
「いや。ああいう宝石との組み合わせが気に入らないわね。ルビーとかターコイズとか、サファイヤとか……さっき見たときには、真珠も首の辺りにつけてたけど。本当、宝石の使うファッションが分かっていないのよね!」
古月さん……彼女の身に着けている宝石をすべて言い当てたのは尊敬できるけど、その鼻が高そうな表情はなんなのだ……
何か心に引っ掛かるような言葉があったが、分からない。後で考えてみよう。
殺人事件が起こって、人の命が奪われた……何だか、実感が湧かない。まあ、警察が捜査してくれるだろう。彼らは非常に優秀だ。一時間後には、犯人を警察署に連行するのだろう。そう思っていた。
暇だったので、ぼくは警官が外で簡単な話をしているのに聞き耳を立てる。何か……少しでも多く情報を!
女の人に若い男性警官が近寄る。彼女から舌打ちが聞こえたような……怪しい……早く犯人よ捕まってくれ。そう祈りを込めながら、彼女たちの話を聞いていた。
「あの……まずはお名前を」
「塩見 尚子! 被害者の妻よ! ワタクシは殺人が起こったときにあの場にはいなかった! それで十分でしょ!? ああ……まったく……他に何事もなくてよかったわ」
「そ、そうですか……ちょい薄情じゃ……」
分からない。怒りなのか、悲しみなのか。顔にこみあげてくる感情の種類が理解できなかった。夫が亡くなったのに、この焦りようは何なのだ。まるで「これ以上何も聞かないで」と言っているような……
死んでも悲しまれないなんて、本当に辛いことだろう……!成仏してくださいね。
そんな祈りを遮るように隣から暑い邪気を感じた。紫色の禍々しいオーラが古月さんから放たれている。東堂さんもその邪気に触れないよう、身を引いていた。ふ、古月さん!?
「許せないわね。あんな態度。ちょっと一発、殴ってきていいかしら」
「完全犯罪計画部の一員がこんなところで、騒ぎ起こしちゃダメ。よしなよ……」
そう言わなければ、古月さんは真っ先に容疑者に飛び込むくらいの怒りを持っていた。感情をハッキリさせて、力強い意思を……
彼女たちとそんな話をしていると、警官は人相の悪い年よりと会話をしていた。危うく、名前を聞き逃すところだった。
「蛭間 堅蔵だ。忙しいときに呼びよって!」
目の前で警官に怒鳴りつけている男はターゲット。確か、被害者から金を騙し取った悪人なんだよな。
胸に手を当て、気分を穏やかにしてから考える。依頼人の湯治さんが嘘をついていなければ、彼も怪しいということになる。騙したことが公にされると被害者に脅されれば、不正から逃げてきた蛭間氏にとっては動機になり得る。
「……話を聞いてみると……どうやら……アリバイ……ある……みたい。蛭間氏も……尚子氏も……」
「どっちもアリバイか。河井さん。ありがとう」
彼女の注意力と集中力は大人顔負けだな……澄ました顔をして、容疑者を彼女は見る。あそこから、何が見えているのだろうか。ぼくたちとは全然違うものなのかもしれないが、どちらにしても知りたい真実は同じだ。
ぼくだって謎が早く究明されて、今運び出されている塩見さんの父親が安心できるように……したい!
その気持ちは同じだよねえ……東堂さん。古月さん。東堂さん。ねえ。
「完全犯罪計画部として、勿論、完全犯罪を作るのも仕事。犯罪をする人にとっても真実は大切なもの。隠さなきゃいけないんだから。探偵。あれが暴く。こちらは隠す。だから私たちには、隠す側の行動が探偵や警察からは違う視点でみることができるかもね! それなら、私たちも事件について考えたって損ではないでしょ!」
「その通りだね。東堂さん」
彼女が両目を瞑る。そこから、伝ってくる熱いものを受け取った。今は彼の死の真相の手がかりを掴んで、推理をしよう!
そんなとき、尚子さんの口から重要参考人の名前が挙がった。
「この家にいたのは息子でしょ。ワタクシ見ましたわ。湯治が事件が起こったとき、家にいたのを。ちょうど、出ていくところでしたから! そう。ワタクシを疑うのは筋違い……塩見 次郎を殺したのは、湯治よ!」
ぼくは全身を奮い立たせて、彼女を睨みつけた!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる