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第二話「心の闇を消し去るしあわせの鐘を鳴らそう」
新たな情報入手
しおりを挟む池の周辺を隈なく調べてみたもののこれといって手がかりになるようなものはみつからなかった。新たな映像が見えて来るかとも思ったのにそれもなかった。もちろん、悪臭もない。いや、嫌な臭いはある。この池は死んでいるとも言えるのだろう。ただ、臭いが違う。
完全に行き詰ってしまった。
康成はもう一度、空き家へと引き返すと一瞬だけ血の臭いを感じた。気のせいだろうか。どこにも血痕らしきものはない。
溜め息を漏らして諦めようかと思ったとき、声をかけられた。
「そこで何をしているんだい。なんだか怪しいねぇ」
「えっ、怪しいだなんて、そんな。ただこの家の人のことが知りたくて」
康成は突然現れたお婆さんに思わずそう話していた。
「ここの家の人だって。なんでだい」
「以前、ちょっとお世話になって。久しぶりに来てみたら空き家になっているみたいだしどうしたのかなって」
お婆さんはまだ怪しんでいる感じだったが「あまり関わらないほうがいいよ」とだけ口にすると踵を返して帰ろうとした。
「あの、ちょっと待ってください。何か知っているんですか。もしそうなら教えてもらえないでしょうか」
お婆さんは振り返り「聞きたいのかい」と口角を上げた。康成は頷き頼み込む。
「しかたがないねぇ。なら話してあげるよ。きっとこうなったのも猫の祟りだろうねぇ」
猫の祟り。まさか白猫は悪霊だったのだろうか。いや、違う。映像で見た白猫は親子を守ろうとしていた。ならば、別に猫がいたのだろうか。
話によるとこの家の奥さんが車を運転していて家の前で飛び出してきた猫を轢いてしまったとか。
「奥さんはオロオロして泣いていたねぇ。確かそのあとその猫をここの旦那さんが庭に埋めて埋葬したんじゃなかったかねぇ。それがいけなかったのかもしれないねぇ。いや、可哀相だと思ったことがいけなかったのかねぇ」
庭に埋葬した。
「どのへんですか」
「さあ、どこだったろうねぇ」
ブロック塀越しに庭を覗き込んでみた。枯れそうになっている木の下あたりに石が置かれていた。あの石だ。映像で見えた石だ。もしかしたら、あそこが猫の墓かもしれない。けど、悪臭は漂って来なかった。猫は成仏しているのだろうか。
本当に猫の祟りなのだろうか。
「あの、なぜ猫の祟りだなんて思ったんですか」
「だってねぇ。そのあとここの奥さんが交通事故に遭って亡くなってしまったんだよ。しかも、その半年ぐらいあとに旦那さんも身体を壊して入院してしまってねぇ。二人には女の子がいたんだけど、あの子はどうしたのだか。それから空き家なんだよ、ここは」
そうなのか。確かに祟りと思ってもおかしくはないのかもしれない。けど、ここにはなにもいない。祟りを起こしたと思われる猫の念を感じない。子狼たちもそれは同じようだ。ならば、いったい何が起きたのか。
「あの、入院したという旦那さんは今どうしているんでしょう」
「私にはわからないねぇ。もしかしたらまだ入院しているかもしれないよ。あのとき、意識不明で寝たきり状態だって話しを聞いたからねぇ」
「そうなんですね。病院はわからないですよね」
「東条総合病院だったかねぇ」
そこまで知っているとは思わなかった。どこにでもこういう人はいるものだ。きっと、自分のことも誰かに話すのだろう。噂好きで情報通のお婆さんってところか。居てくれて助かったけど。
「あの、ここに居た人の名前ってわかりますか。ちょっと名前が思い出せなくて」
「えっと、なんだったかねぇ。確か、うーん。あっ、そうそう上田さんだよ」
上田か。さすがに下の名前までは知らないようだ。病院行けばわかるだろうか。いや、今の世の中、個人情報がどうとかで教えてくれないだろう。
「最後に、その祟り的なことが起こったのっていつ頃ですかね」
「それは五年くらい前だったかねぇ」
五年前か。悪霊はもう消え去ってしまったのだろうか。そうだとしたら、なぜあの映像が見えたのか。どこかに潜んでいるのだろうか。潜んでいたとしたら、何か感じてもおかしくはない。もしもここの旦那が生きているとしたらその悪霊が取り憑いているってこともあるのだろうか。
今もなお、苦しめているという可能性もある。そうだ、誰かが神社にお参りに来たはずだ。きっとまだ苦しんでいるのだろう。なんとかしてあげたい。けど、自分にできるだろうか。
「おい」
あっ、そうだった。アロウとウンロウがいた。
「何かあったら頼んだぞ」
「あら、ちょっとその言い方はどうかと思うけど」
えっ、言い方。
「うんうん、確かに上から目線って感じだな」
「そうでしょ、そうでしょ。アロウもそう思うでしょ」
確かにちょっと偉そうだったかも。
「ごめん、二人とも手を貸してください」
「そうそう、最初からそう言わなきゃ」
ウンロウは口角を上げて頷いていた。
行くべき場所は東条総合病院か。下の名前はわからないけど、行くだけいってみようか。きっとなんとかなるはずだ。子狼のアロウとウンロウに目を向けて康成はひとり頷いた。
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