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第三話「大樹の声に耳を傾けて」
雄大の思いとその母の思い
しおりを挟む康成は雄大とともに雄大の家に行くことにした。自分の気持ちをぶつけてみると約束をしてくれた。
浅見という表札が門にはある。ここが雄大の家か。なかなか立派な家だ。
「大丈夫だからね。一緒にいるからね」
雄大は緊張をしているみたいだ。ちょっと顔が引き攣って見える。雄大の強張った顔を見ているうちに康成も心臓の鼓動が速まりはじめた。ダメだ、落ち着かなきゃ。なにかあったら雄大をフォローしなきゃいけない。
康成は生唾を呑み込み、チャイムを押した。
「はーい」との声とともに玄関から飛び出して来た女性は雄大の母親だろう。
女性はすぐに雄大に目を向けた。まるで自分がいることに気づかないかのようだった。そんなはずはないのに。
「雄大、また学校に行かなかったのね。なんで、そんなことをするの」
いきなり怒鳴る母親に康成は「ちょっと待ってください。怒るのは雄大の話を聞いてからにしてください」と間に入って母親の言葉を止めた。
「あなたは誰ですか」
「えっとですね」
「僕の友達だよ」
「えっ、友達」
雄大の母親は怪訝そうな顔を向けている。そりゃそうだ。友達にしては年が離れ過ぎている。正直、そんな言葉を雄大が口にするとは驚きだ。康成も「えっ」と口に出してしまいそうだった。そう思ってくれたことは嬉しいけど。
「そう、友達。あのね、僕、話があるんだ」
「なに」
母親は少し冷静になったのか雄大の話を聞く体制になっていた。だが、雄大はなかなか話を切り出さなかった。
「雄大、しっかり」
雄大は頷き、母親をしっかりと見て口を開いた。
「僕、邪魔な子なの。勉強できないからダメな子なの。いつもお兄ちゃんばっかりで寂しいよ。僕、どうしていいのかわからなくて……」
母親は雄大の言葉に何を思っただろうか。雄大はいきなり核心をついた。母親も思わぬ言葉に頭が真っ白になってしまったのだろう。なかなか言葉が出てこない。何かいってあげてほしい。
「僕、やっぱりいないほうがいいよね。お兄ちゃんがいればいいんだもんね」
雄大は急に駆け出してしまった。
「ちょっと、雄大。待てよ」
康成は雄大の母親にお辞儀をして追いかけて行った。雄大は母親の言葉を待つことができなかったようだ。気持ちはわからなくはないけど。母親の口から「そうよ、邪魔よ」なんて言葉が飛び出るのではないかと勝手に思ってしまって怖かったのだろう。
「雄大、止まれ。まだ君のママの答えを聞いていないだろう。逃げちゃだめだ」
雄大は急に立ち止まり振り返ると「ママは僕のことなんて嫌いなんだよ」と涙目になって叫んだ。
「何を言っているんだよ。勝手に答えを出すな」
「だって、だって……」
雄大の目から涙がボロボロと零れ落ちていく姿に康成は何もできずに佇んでいた。そこへ母親が追いかけて来て雄大をギュッと抱きしめた。
「馬鹿ね。嫌いなわけがないじゃない。ごめんね。雄大の気持ちに気づいてあげられなくて」
「ママ」
雄大の母親もまた頬を濡らしていた。
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