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第四話「ツキが逃げ行く足音を止めろ」
神様の端くれの智也から話を聞こう
しおりを挟む「康成、こころ」
神成荘の敷地内に入るなり、智也が二階の窓から手を振って声をかけてきた。康成も手を振り返す。
いつも思うことだがここに一歩入り込むと心地よい風が吹いてきて清々しい気持ちにさせてくれる。
「お兄ちゃん」
こころは駆け出して神成荘の中へと姿を消した。実際に忽然と消え失せたように感じるから不思議だ。あの扉の向こうはこの世とあの世の架け橋みたいなものなのかもしれない。今更ながらそう思う。いや、アパート周辺はすでに向こう側の世界なのかもしれない。ここはそういう場所だ。神様の眷属たちの修行の場だ。いや、修行で疲れた体を癒す場所だろうか。どっちでもいいか。
康成はそんなことを思いながら、神成荘の扉を潜った。
智也の部屋へと顔を出すとふわりと何かに包まれた気がした。いつものことだが、一瞬頭がぼんやりしてしまう。智也の優しい気にここは溢れている。これはきっと神様になるべき存在が放つ気なのだろう。頭がぼんやりするのは自分がまだまだ力不足だということだろう。
それにしても不思議なものだ。
智也は自分の身代わりとなって命を落とした。なのにこうして会えるのだから。それだけではない。智也は神様となるべく修行を重ねている。見た感じだいぶ神様度が高まっているようだ。こうして会うことも憚れるくらいだ。
本来なら気軽に会える存在ではないのかもしれない。けど、智也は『友達だろう。そんなこと気にするな』と話す。意外と親しみやすい神様は多いのだそうだ。人と関わり合えることが嬉しく思っているらしい。それが神様の力を増すことにもなるらしい。
なるほどと思ってしまう。
神様と友達か。悪くない。
「康成、今日は月村瑠璃さんのことを訊きに来たのだろう」
さすがだ。こっちから話すまでもなく智也はなんでもお見通しだ。
神様になりつつあるのだから当然と言えば当然だ。もしかしたらすでに神様になっているのかもしれない。そうだとしたらどこかの神社にいなくてはいけないのではないだろうか。けど、どの神社にも神様はいるはず。あとから神様になったらどうするのだろうか。
神様の世界にも世代交代みたいなものがあるのだろうか。神様が隠居する。どうにも想像がつかない。
「康成、難しい顔をしてどうした」
「あっ、ちょっと考え事をしていた。ごめん」
「俺のことだろう」
康成は苦笑いを浮かべて頭を掻いた。
「図星か。まったく俺はそんな趣味ないからな」
「ちょっと、なにか勘違いしていないか。智也の考えていることはきっと違うぞ」
ふたりの会話にこころが頬を緩ませていた。
「わかっているよ。冗談だ。で、本題だが。月村瑠璃さんのことだけど、神社仏閣が好きらしくて『運をあげてほしい』なんていろんなところでお願いしているみたいなんだ。それで、様子を見に病院に行ってみたってわけだ。ちょうどこころを見かけたから出会わせたってところか」
なるほど。
「そうか、で、ツキがないのは何か理由があったりするの」
「彼女はおっちょこちょいなだけだ。不器用でもあるか。考え過ぎのところもあるかもしれないな。だが、鈍感なところがあるせいで余計な敵を作ってしまうところも難点のひとつだ」
「ふーん、そうなんだ。嫉妬みたいなこと。怨みを買うこともあるのかな」
「こころの言う通り。で、康成の出番だ」
「僕の出番ってなんで」
「それがおまえの役目だろう」
役目か。けど、これって霊的なものは関わっていないのだろう。自分の出番なのか。それとも幽霊も関わっているのだろうか。んっ、霊的なものを解決するだけが自分の役目じゃないか。この間の二人も霊的なものは関係なかったし。
「何をすればいいんだ」
「とりあえず、知り合いになることからはじめればいい。こころと一緒に行けばいいと思う。あとは任せるよ。あまり俺が口出ししないほうがいいからな。これでも神様の端くれだし。手助けし過ぎるのはよくないと先輩の神様に怒られかねないし。まあ、危なくなったら手助けはするけどな」
そんなものなのか。神様の世界もいろいろと大変そうだ。けど、任せると言われても困る。知り合いになることからと言われても、どうしたらいいのか。
んっ、危なくなったらとか言っていなかったか。危なくなる可能性があるのか。
康成は智也に訊こうと思ったのだがこころに「ヤスくんならきっとうまくやれるよ」とニコリとされてついにやけてしまった。
「そうか。こころが今回はいるし大丈夫だよな」
こころの笑顔になんだかうまくやれそうだと思えてきた。自分も単純だ。とにかく、知り合いになって様子を見よう。偶然をよそおうしかないだろう。幸い、こころはすでに知り合いになっているわけだし。なんとかなるか。
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