時守家の秘密

景綱

文字の大きさ
4 / 53
第一話「時歪の時計」

おかしなチーム誕生

しおりを挟む
 栄三郎の葬儀はしめやかに執り行われ、彰俊は両親とともに家に帰宅した。
 栄三郎はあれから姿を見せていない。そのかわり、時歪の時計が手元にある。

 時を巻き戻せるだなんて夢のような代物だ。頭に浮かんできたものは、『ロトセブン』だった。当たり番号を調べて過去へ行き、その番号を買えば大金持ちだ。思わずにやけてしまう。

「ド阿呆。そんなしょうもないことにおいらを使うつもりか。まったく人間ときたら」

 突然の罵声に彰俊は心臓が飛び出すんじゃないかというくらい驚いた。

「だ、誰だ?」
「誰だってぇ。おいらだよ、トキヒズミだよ」

 トキヒズミだって。と、懐中時計に目を向ける。いつの間にか手足が生えて胡坐をかき、腕組みして憤怒ふんぬの表情を浮かべていた。いや、顔はない。そう思えるだけだ。
 あまりにも突然のことに口をあんぐり開けて固まってしまった。そういえば付喪神と化しているって話していた。幽霊は見慣れているが、実際に付喪神を見るのは初めてだ。
 本当に付喪神なるものがこの世の中に存在するなんて。所謂いわゆる、物の怪って奴だろう。正直、作り話だとばかり思っていたが、いるもんなんだなと感心してしまった。

「おい、何だんまり決め込んでいる。ロトセブンだぁ。要するに宝くじだろう。それで大金持ちになろうだなんて思うな。おいらはそんなことのために絶対手を貸さないからな。覚えておけ。ド阿呆が」

 こいつ人の心も読めるのか。いや、そんなことはないだろう。

「あのさ、なんでロトセブンのこと考えているってわかったんだよ」
「おまえは本当に阿呆だな。その口で呟いておったではないか」

 えっ、そうだったか。彰俊は苦笑いを浮かべて頭を掻いた。付喪神に説教されるとは思わなかった。流石さすが、『神』とつくだけはある。ちょっと口は悪い気もするが、不埒ふらちな考えをした自分が悪いんだから仕方がないか。

「申し訳ない、反省します」
「ふむ、素直でよろしい。だが今の言葉嘘だったら承知しないからな。で、おまえが栄三郎の後釜なのだな」
「後釜って。俺はただ貰っただけで」

 確かに後継者だなんて話は聞いたが、あとを引き継ぐと決めたわけではない。何をするのかもわからないっていうのに。

「なんだ、聞かされていないのか。栄三郎も手抜きしおったな。まあいい。おいらがおまえの手元にあるという事実からして、おまえが後釜だ。心してかかれよ。そのうち、おまえを手助けする者もやってくるであろう。あ、そうそうおいらのことはトキヒズミと呼ぶがいい」

 いったい何を言っているのだろうか。有無を言わさずってところか。何がなんでもやらせるってことか。自分に決定権はないってことか。それはそうと、手助けする者って誰のことだ。トキヒズミ以外に誰か来るのか。
 そういえば夢で……。

「おまたせ……」

 そうそうこんな感じの声で……。えっ。

「うわっ」

 突然背後から背中を叩かれて彰俊は思わず飛び上がってしまった。驚きのあまり心臓がバクバクしている。振り向いた先には幼子が立っていた。無表情なせいでちょっと怖いかも。見ているだけで寒気もしてくる。こいつも物の怪なのかもしれない。

 それにしてもなんであんなに小声なんだ。途中がよく聞こえなかった。幽霊としては合格なのかもしれないがこいつはおそらく物の怪だ。幽霊とは違う。自分としてはそう認識している。

 それにしてもこの子は女の子だろうか、男の子だろうか。中性的な存在のようにも感じる。格子柄のかすりの着物を着ている。頭はショートカットというかどこかのお坊ちゃんみたいな感じだ。やはり男の子だろうか。

「おい、阿呆。今のおまえの心の内を当ててやろうか。こやつが男か女か判断に苦しんでおるんだろう。どうだ図星か」

 彰俊は頷き、トキヒズミの返答を待った。が、答えたのは幼子のほうだった。もちろん蚊の鳴くような声で「男」とだけ。いや、待てよ。そのあとも口が動いていた気がする。何か続けて口にしていたのだろうか。

「そういうことだ」

 トキヒズミはニヤリとした。
 どういうことだ?

「ちょっといいか、俺にはさっぱり状況が掴めないんだが」
「なんだ、やっぱりおまえは阿呆だな。まさか、聞こえなかったわけじゃあるまい」
「男としかこの子は言っていないだろう」

 トキヒズミは左右にかぶりを振り、「幽霊の言葉がまともに聞こえないとは、まだまだ修行が足りないな。いや、こやつは幽霊とは少々違うか。まあ、なんだ。こいつは、『これでチームの完成だ』と話したんだ」

 チームってなんだ。益々わからない。その前に、この子は何者なのかもわからない。幼子に尋ねようとしたが、すぐに考えを改めてトキヒズミに問い掛けた。

「この子は、何者なんだ。なんとなく座敷童子ざしきわらしみたいだけど」
「うーむ、残念。もう一声」

 もう一声って言われても、座敷童子しか出てこない。

「わからないよ。教えてくれ」
「なんだ、諦めるのが早いぞ。阿呆」

 まったく、阿呆、阿呆って言いやがって。だんだん腹が立ってきた。

「いいから、さっさと教えろよ」
「なんだ、怒ったのか。ふん、一人前面するな。こやつはだな、『座敷童子猫』だ」

 何? 座敷童子猫?

「にゃ」

 んっ、今『にゃ』って聞こえたような。まったく声が小さ過ぎる。ずっとこんな感じだとイライラしそうだ。けど、猫だと思えば少しは優しくできるかもしれない。

 んっ、そういえばあのときははっきりと声が聞こえた。夢だったからか。いやいや、夢じゃない。実際にトキヒズミも栄三郎の幽霊にも逢った。それならなぜだ。
 トキヒズミの言うように霊力がまだ足りないってことなのか。

「ふふふ、あんたかわいい。だからあたいがしっかり守ってあげる」

 えっ、誰。同じ声に聞こえたけど、この子が話したのか。急にハキハキ言いはじめた。どいうことだ。あれ、なんとなくさっきと雰囲気が違う。気のせいだろうか。

「もう、なによ。そんなにみつめられたら照れちゃうじゃないさ。まあ、でも驚いて当然よね。あんた知っている。二重人格って。そういうことよ」

 なるほど、そういうことか。座敷童子猫ってだけでも驚きだけど、二重人格だなんて。

「よろしくね」

 サッと手が前に出てきて慌てて握手する。

「こちらこそ、よろしく」
「はい、これで決まり。契約成立。新たなチームの誕生ね」

 しまった。握手してしまった。

しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

後宮薬師は名を持たない

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

処理中です...