小説家眠多猫先生

景綱

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第五章 真の力

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「ふん、そういうことか。すべてはおまえらが仕組んだことなんだな。スサもダイもおまえたちに操られていたってことか」
「ほほう、意外と聡明なのだな。お主さえよければ、我らの手下になっても構わないぞ。今ならば助けてやろう。とは言え、猫の街は消えちまうがな。アザ亡き後の猫の街は、もう終わりだ」
「果たして、そうかな」

 ネムの脇にヤドナシが並び、ヤクを睨み付ける。

「チビの出る幕ではないわ」
「ふん、おまえは鼠の亡霊をも騙したのだろう。違うか。ならば、わしの敵でもある。共に闘おう。わしの剣技を侮るなよ」

 ヤクは鼻を鳴らして、嘲笑った。
 ネムとヤドナシはそんなヤクを無視してお互い向き合い目で「行くぞ」と合図をした。ネムは右に、ヤドナシは左に一旦飛び退き回り込んでいく。ネムもヤドナシも素早い。真一には動きが速すぎて目で追うことがままならない。

 ネムはヤクの頭上へと跳躍をみせて鋭い爪で斬りかかる。ヤドナシは足元に駆け込み脛に刀を滑らせるように斬りつける。凄いコンビネーションだ。だが、ヤクはふたつの攻撃をあっさり躱してしまった。憎たらしい笑みを湛えている。ヤクの羽根は鋼ででも出来ているのだろうか。防御力が半端ない。

 このままじゃ勝てない。
 それでも、ネムとヤドナシの攻撃は衰えることなくひっきりなしに続いている。素早さも変わりがない。ここにスサがいたら、違っていたのかもしれない。そう思えた。スサはネムよりも強いと聞き及ぶ。スサと別行動することは間違いだったのだろうか。まさか、鴉天狗が邪魔立てするとは思ってもいなかったからな。

 真一は、見ていることしかできない自分を歯がゆく思った。隣にいるミコも同じように感じているのかもしれない。

「ミコ、俺に何かできることないかな」

 チラッと一瞬だけミコは目を向けてきて「邪魔しないことね」とだけ呟いた。
 それしかないのか。確かに、あの闘いの場に入り込む余地はない。途切れることがないネムとヤドナシの攻撃、その攻撃を防ぎきるヤク。
 あれ、そういえばヤクはまったく攻撃をしていない。わざとそうしているのか、それとも防御することが手一杯で攻撃する余裕がないのか。あっ、良く見ればヤクの強固な羽根に血が滲んでいるじゃないか。そうか、そういうことか。
 流石だ、同じところを一ミリの狂いなく攻撃しているじゃないか。もしかすると、勝てるのか。

「うぉーーーーーー」

 突然ヤクが咆哮した。
 ネムとヤドナシはその咆哮に一旦後方に退いて低い体勢のまま警戒した眼差しを送っている。

「おまえらなどに、負けるか」

 怒声とともにヤクの瞳が炎のように赤々とした色に変わっていく。なんだ、何が起きている。

「なかなかやるじゃないか。気で吹き飛ばすとはな」

 何? 気で飛ばすだって。退いたわけじゃなかったのか。
 ヤクは、瞳を爛々と光らせたまま不敵な笑みを浮かべた。
 真一は、ヤクの瞳に目を奪われそうになった。なぜだかわからないが、自然とヤクの瞳に引き付けられてしまう。だが、誰かが耳元で「見るな」と一喝をしてくれたおかげで、辛うじて目を逸らせることが出来た。あの瞳を見てはいけないと皆に伝えようとしたのだが、手遅れだった。
 ネムもヤドナシもミコまでもが、その場で固まったように動かなくなっている。

「ふん、手古摺てこずらせやがって。これでおまえらも終わりだ」

 どうしたっていうんだ。

「ネム、ヤドナシ。おい」
「んっ、おまえだけなぜ動けるのだ」
「知るか、それより何をした」
「教えると思うか、馬鹿者が」

 くそっ、動ける自分がどうにかしなくては。けど、あんな奴に勝てる策があるとも思えない。何かの呪術を施したのかもしれない。

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