49 / 64
第五章 真の力
6
しおりを挟む「ふん、そういうことか。すべてはおまえらが仕組んだことなんだな。スサもダイもおまえたちに操られていたってことか」
「ほほう、意外と聡明なのだな。お主さえよければ、我らの手下になっても構わないぞ。今ならば助けてやろう。とは言え、猫の街は消えちまうがな。アザ亡き後の猫の街は、もう終わりだ」
「果たして、そうかな」
ネムの脇にヤドナシが並び、ヤクを睨み付ける。
「チビの出る幕ではないわ」
「ふん、おまえは鼠の亡霊をも騙したのだろう。違うか。ならば、わしの敵でもある。共に闘おう。わしの剣技を侮るなよ」
ヤクは鼻を鳴らして、嘲笑った。
ネムとヤドナシはそんなヤクを無視してお互い向き合い目で「行くぞ」と合図をした。ネムは右に、ヤドナシは左に一旦飛び退き回り込んでいく。ネムもヤドナシも素早い。真一には動きが速すぎて目で追うことがままならない。
ネムはヤクの頭上へと跳躍をみせて鋭い爪で斬りかかる。ヤドナシは足元に駆け込み脛に刀を滑らせるように斬りつける。凄いコンビネーションだ。だが、ヤクはふたつの攻撃をあっさり躱してしまった。憎たらしい笑みを湛えている。ヤクの羽根は鋼ででも出来ているのだろうか。防御力が半端ない。
このままじゃ勝てない。
それでも、ネムとヤドナシの攻撃は衰えることなくひっきりなしに続いている。素早さも変わりがない。ここにスサがいたら、違っていたのかもしれない。そう思えた。スサはネムよりも強いと聞き及ぶ。スサと別行動することは間違いだったのだろうか。まさか、鴉天狗が邪魔立てするとは思ってもいなかったからな。
真一は、見ていることしかできない自分を歯がゆく思った。隣にいるミコも同じように感じているのかもしれない。
「ミコ、俺に何かできることないかな」
チラッと一瞬だけミコは目を向けてきて「邪魔しないことね」とだけ呟いた。
それしかないのか。確かに、あの闘いの場に入り込む余地はない。途切れることがないネムとヤドナシの攻撃、その攻撃を防ぎきるヤク。
あれ、そういえばヤクはまったく攻撃をしていない。わざとそうしているのか、それとも防御することが手一杯で攻撃する余裕がないのか。あっ、良く見ればヤクの強固な羽根に血が滲んでいるじゃないか。そうか、そういうことか。
流石だ、同じところを一ミリの狂いなく攻撃しているじゃないか。もしかすると、勝てるのか。
「うぉーーーーーー」
突然ヤクが咆哮した。
ネムとヤドナシはその咆哮に一旦後方に退いて低い体勢のまま警戒した眼差しを送っている。
「おまえらなどに、負けるか」
怒声とともにヤクの瞳が炎のように赤々とした色に変わっていく。なんだ、何が起きている。
「なかなかやるじゃないか。気で吹き飛ばすとはな」
何? 気で飛ばすだって。退いたわけじゃなかったのか。
ヤクは、瞳を爛々と光らせたまま不敵な笑みを浮かべた。
真一は、ヤクの瞳に目を奪われそうになった。なぜだかわからないが、自然とヤクの瞳に引き付けられてしまう。だが、誰かが耳元で「見るな」と一喝をしてくれたおかげで、辛うじて目を逸らせることが出来た。あの瞳を見てはいけないと皆に伝えようとしたのだが、手遅れだった。
ネムもヤドナシもミコまでもが、その場で固まったように動かなくなっている。
「ふん、手古摺らせやがって。これでおまえらも終わりだ」
どうしたっていうんだ。
「ネム、ヤドナシ。おい」
「んっ、おまえだけなぜ動けるのだ」
「知るか、それより何をした」
「教えると思うか、馬鹿者が」
くそっ、動ける自分がどうにかしなくては。けど、あんな奴に勝てる策があるとも思えない。何かの呪術を施したのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる