そばにいるよ

景綱

文字の大きさ
8 / 15
希望を信じて

しおりを挟む
「おばあちゃん、ありがとう」
「そんなこといいから、早く中へ入りなさい」

 翔太はおばあちゃんのことが神様のように光りかがやいて見えた。翔太は白ネコをだきかかえると駄菓子屋へと向かっていた。白ネコは翔太のぬれた冷たい体をちょっとイヤな顔をしてだかれていた。

 駄菓子屋の中に入るとすぐに、白ネコはがまんの限界だとあばれて翔太の手の中からスルリとぬけ出した。おばあちゃんは白ネコにほほ笑み「翔太のあとにふいてあげるから待っていな」と言って、自分のぬれた服をぬがしにかかり奥からフカフカのタオルを持ってきてすみからすみまでゴシゴシとふいてくれた。白ネコは翔太の足もとで自分のふかれる番を待っている。雨にぬれたせいで白い毛がのりづけしたようにペッタリと張りついたままふるえて待っている。そんな状態でも、大事な空きカンはちゃんとくわえていた。

「おまたせ、白ネコちゃん。ふきふきしようかね」

 おばあちゃんは自分の子どもに言うみたいな口調で言いながら白ネコの体をきれいにふいてあげていた。ふかれている間、白ネコはねむそうに目を細めていた。きっと、温かいふわふわしたタオルがお母さんにだかれていたころを思い出させたのかもしれない。そのまま、白ネコはスウスウと寝息をたててはじめた。翔太はおばあちゃんが用意してくれたぶかぶかの服を「なんだこれ、なんか変なの」とニヤつきながら着がえた。

「翔太、しょうがないからしばらくここで休んでいくんだね。お母さんには電話しておくから心配しなくてもいいからね」
「うん」

 翔太は元気よく返事をすると思い出したように、白ネコのもとへ歩み寄った。白ネコは寝ているにもかかわらず自分の子どもを守るかのように大事に空きカンをだきかかえていた。

「白ネコさん、ちょっと空きカンかしてね」

 翔太は白ネコの耳元でささやくとそーっと空きカンをぬき取った。白ネコは耳をピクピクと動かし薄目を開けて目を合せてきたかと思うと翔太だとわかり安心したのかまたスウスウと寝息をたてはじめた。

 翔太は白ネコの寝顔に頬をゆるませた。

 すぐに空きカンへと目を移し小首を傾げた。手に取った空きカンがいつもよりちょっと重く感じた。少しゆらしてみると、空きカンからポチャンポチャンと水の音がした。どうやら空きカンの中に雨水が入ってしまったようだ。中をのぞいてみるとさとみがびしょぬれになってふるえていた。くちびるはむらさき色になっている。翔太はあわてて空きカンの中の雨水を捨てた。次に何かふくものをと思ったのだが、穴が小さすぎて何も入らない。

「翔太くん、もうだいじょうぶだから」

 空きカンの中から明るい声がしてきた。翔太は空きカンの中をのぞいてみると、びしょぬれだったさとみの服や髪の毛がドライヤーにでもあててかわかしたみたいにかわいていたので目を丸くしておどろいた。

「あれ、さとみちゃんどうやったの」
「翔太くんの手のぬくもりでかわいたのよ。それとも、翔太くんのあったかい心が伝わったのかな」
「あったかい心」
「そうよ、だって翔太くんの心はまぶしいくらい光っているんだもん。お日さまみたいにね。あたたかくて気持ちいい」





 さとみのウインクに翔太はデレッとした顔になってしまう。翔太は変な顔をおばあちゃんに見られたかと思ってゆっくりとあたりを確認した。おばあちゃんは白ネコの横にすわってこっくりこっくりと居眠りをしていた。

「よかった」

 翔太はホッと胸をなで下ろすと自分の胸を見て首をかしげた。さとみの言うような心の光が見えなかったからだ。
 光ってどういうことだろう。うーん、まあいいか。翔太はそんなに気にも留めずさとみに話しかけた。

「さとみちゃん、ぼく、いっしょに遊びたいな」
「そうね。何して遊ぶ」
「そうだなぁ。いっしょにブランコに乗ったり、おにごっこしたり砂場でどろんこ遊びしたりさ。あっ、今日は雨だからトランプがいいかな」
「それは無理よ。だって私……」

 翔太はさとみが最後になんと言ったのかよく聞こえなかった。でも、聞き返すことはできなかった。さとみが空きカンの中でひざをかかえて丸くなり豆つぶのように小さくなっていたからだ。きっと、さとみはこの空きカンから出られないんだと翔太はさとった。さとみが一番外へ出て思いっきり遊びたいと思っているに違いなかった。翔太はさとみの心をキズつけてしまったのではないかと自分の言葉を後悔こうかいした。

「フニャー」

 白ネコが大きなあくびをしてグゥーッと伸びをすると、こっちに目を向けてトコトコ歩いてきた。そのとき、白ネコはビクッとして足を止めた。白ネコの目が急にするどくなりキョロキョロと警戒しているように落ちつきをなくした。見えない何かにおびえるようにして空きカンをくわえてサササッと足早に外に飛び出していってしまった。

「あっ、どうしたの」

 翔太が言い終わる前に白ネコの姿は見えなくなっていた。とつぜんのことに翔太は訳がわからずにいた。空を見上げるとさっきまで降り続いていた雨はすっかりあがっていた。そんなことよりも追いかけなきゃ。
 翔太は白ネコを追いかけて駄菓子屋の外へと飛び出した。白ネコはどこにもいない。そのかわり翔太のほほを針でつきさすような冷たい風が通り過ぎていった。

「翔太、だいじょうぶ?」

 翔太は聞き覚えのある優しい声が聞こえ向きを変える。お母さんだった。後ろから居眠りをしていたおばあちゃんも起きて出てきて翔太のお母さんにぬれた服をわたしていた。

「おばあさん、あとで翔太の来ている服、返しにきますからね」
「いつでもかまわないからね」

 おばあちゃんは夕陽が目に入ったのか目を細めてまぶしそうにしていた。翔太はぶかぶかのズボンをずり上げながらお母さんの手に引かれて帰った。ふと空き地のほうに目を向けると白ネコが駄菓子屋裏から顔だけぴょこんと出していた。あんなのところにいたのか。 

 あっ、行っちゃった。

 いったい、白ネコはどこへ向かったのだろう。そのとき、雲の切れ間からまん丸なオレンジ色の夕陽を真っ二つに切りさくような黒いすじが地上へと走った。なんだか胸の奥がズキリとした。なぜかはわからないけど、さとみの身になにか起きるのではないかと思えてしまった。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

緑色の友達

石河 翠
児童書・童話
むかしむかしあるところに、大きな森に囲まれた小さな村がありました。そこに住む女の子ララは、祭りの前日に不思議な男の子に出会います。ところが男の子にはある秘密があったのです……。 こちらは小説家になろうにも投稿しております。 表紙は、貴様 二太郎様に描いて頂きました。

パンダを演じたツキノワグマ:愛されたのは僕ではなく、塗りたくった小麦粉だった

tom_eny
児童書・童話
「なぜ、あいつばかりが愛される?」 山奥の孤独なツキノワグマ・ゴローは、人々に熱狂的に愛される「パンダ」に嫉妬した。 里で見つけた小麦粉を被り、彼は偽りのアイドルへと変貌を遂げる。 人々を熱狂させた「純白の毛並み」。 しかし、真夏の灼熱がその嘘を暴き出す。 脂汗と混じり合い、ドロドロの汚泥となって溶け落ちる自己肯定感。 承認欲求の果てに、孤独な獣が最後に見つけた「本当の自分」の姿とは。 SNS時代の生きづらさを一頭の獣に託して描く、切なくも鋭い現代の寓話。 #AI補助利用

そうして、女の子は人形へ戻ってしまいました。

桗梛葉 (たなは)
児童書・童話
神様がある日人形を作りました。 それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。 でも笑わないその子はやっぱりお人形だと言われました。 そこで神様は心に1つの袋をあげたのです。

少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い…… 「昔話をしてあげるわ――」 フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?  ☆…☆…☆  ※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪  ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

ふしぎなかばん

こぐまじゅんこ
児童書・童話
おかあさんがぬってくれたかばん。 あんずちゃんのおきにいりです。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

処理中です...