カラー・マン

上杉

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 翌日から、壮絶なトレーニングが始まった。
 朝倉は地球時間で三日後に開催されるパーティーに向け、必死に色と向き合っていた。
「ウルサゴのマナーでは、まず挨拶代わりにお召し物の色をほめるそうです。例えばこのような感じでしょう。――すてきなのお召し物ですね」
「なるほど」
「当日は、長官にこの眼鏡型端末を付けていただきます。これはこちらで特別に細工をした色の識別翻訳機です。さっそくかけてみて下さい」
 そう言われ、渡されたごくシンプルな眼鏡をかけると、目の前の白い壁に投影された水色の画像の脇に、数字が現れた。
「この眼鏡には特殊なフィルターが入っており、光源による見え方の変化を補正します。ウルサゴ人の肌である白でキャリブレーションを行うことで、より正確な服の色を判断することが可能になります」
 レンズの端に浮かび上がったのはR119G184B218という数字であった。しかし、この数字の羅列が何色を示しているのか、朝倉は少しもわからなかった。
「おお、これがあれば……なんてそう簡単にはいかないか。水野君、この数字は何を示しているんだい?」
「これは色を示すマンセル値です。本来ならばこの値に合わせた色名が表示されるのですが――」
 そう言って彼女が手元のキーボードを操作すると、数値であったものが色名として浮かび上がった。しかし視線を動かす度にたびそれは変化し続け、何やら視界がちらちらと騒がしい。
「うわ!なんだこれは!」
「そうなんです。測定の誤差で値がぶれるたびに色名が変わって目がチカチカするとのことで、その機能は切るのが無難かと。ですのでこの眼鏡はあくまで判断の目安に使ってください」
「……なるほど。ではあとは対応する色名を覚えるだけというわけか」

 ※※※

 パーティー二日前である。
 彼の執務室は休日の深夜であるにも関わらず、煌々こうこうと明かりが灯っていた。誰もいない建物で、朝倉と水野二人の声だけが響いた。
「これは、すおう色だ」
「違います。これは臙脂えんじ色です」
「それはこっちだろう!」
「いいえ。それはまつざきしげる色です。ひとまず朝倉さんはこの七色を間違えすぎです」
「こんな微妙な違い、わかるはずがないよ……そもそも、男には色を識別する遺伝子が足りないっていう話だ」
「何を言い訳を。あと三日しかありません。せめて五十七色だけは完璧にしておかないと。さあ、この色は?」
「――え、江戸紫色」
「おしい!それは京紫色です!」
「ああもう……勘弁してくれ……」

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