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1章 清秋
3 友人
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そういう理由もあって、友人は今隣りに座っている三隅太一くらいだった。
『ずっと話したいと思ってたんだよね』
そう三隅が話しかけてきたのは、とある講義のときのことだった。
大きな講義室で適当な席に座り、授業の始まりを待っていたときだった。突然、中谷さんと声をかけられた先にいたのがこの三隅だった。
名前をなぜ知っているのか疑問に思い詳しく聞いたところ、どうやら地元が同じで高校も一緒だったらしい。そして大学でたまたま同じ学科になり、声をかけたとのことだった。
『なら、なんで今?』
高校のときは話したこともなかったのに――そう思いながら優人が聞くと、三隅は恥ずかしそうに笑いながら答えた。
『そりゃあ、天下の中谷酒造の御曹司じゃん?俺とじゃ話合わないだろうなーって高校の時ずっと思ってたんだよね』
『……そんなことないだろ。実際今こうして話している訳だし』
『……まあそうなんだけどさ、中谷くん駅ビルの本屋でバイトしてるでしょ?』
突然バイトの事を言われ優人は驚いた。
大学生のうちにいろいろな社会経験をしたいと思いとりあえず始めたバイトを、三隅に見られていたらしい。
『……ああ。そうだけど』
そう答えると、彼はいたずらっぽく笑って言った。
『それでさー、御曹司なのに一生懸命バイトしてるの見たら、なんか親近感湧いたんだよね』
『……なんだそりゃ』
そんな会話があってつるむようになり、以来一緒に講義を受けたり勉強をするような仲だった。
三隅はいつもこのように軽口を叩いてばかりいるので、はじめは軽薄な印象を受けていた。しかし意外とまじめで賢く、口調も相手に合わせて変えるような、察しのいいところもあった。
だから普段からストレスなく一緒にいられるのはもちろん、優人の置かれた特殊な状況を知っていることもありがたかった。
『まあ、あれだけ大きい会社の後継ぎならしょうがないよな』
そう言ってくれるこの三隅は、配属先も同じ室島研だ。なので今後もこの関係はきっと変わらないと思えた。
ただひとつだけ彼の気になるところがあった。それは今も女子に向けている熱視線だった。
隣りに座る三隅は、目の前を数少ない理系女子が歩いていくたび、気にしないふりをしながら目で追っている。
よっぽど興味があるのだろう。そういう三隅の姿を目にすると、どうしても口を出さずにはいられなかった。
「……そんなに気になるなら、声かけてくれば?」
「は?お、俺が?無理に決まってるって。接点ないじゃん」
「でもそうしてたら永遠にそのままだろ」
すると三隅はこちらに詰め寄り言う。
「うわー言うねえ。……なら一緒に行こうよ」
「……なんでそうなるんだよ」
「いいじゃん!行こうよ」
「……興味ないって」
「まじか……そんなことある?」
そう言って呆れたように笑うまでがいつものやりとりだった。
そんな軽口の応酬だったが、実際それには優人の本音が込められていた。
男が女性に惹かれるのは本能的なものだ。ただそういう点において、自分はほかの人と比べてあまり関心がないほうだと思えた。
もちろん元カノと身体を繋げたこともある。ただ多くの男性が言うような、燃え上がるようなものはなかった。
迫る快楽に身をゆだねている瞬間はまあいい。ただ行為が終わったあとで、相手を道具のように使ってしまった気がして喪失感に襲われた。
どこかのサークルの新入生歓迎会で、しょうもない先輩はこう言っていた。
『男はしてから好きになるんだよ。だからとりあえずヤれ』
そんな奴の話を鵜呑みにした自分は途方もない馬鹿で、やはりそれは間違っていた。
それなら別のことをしていた方がいい――そう思いバイトに精を出した結果、書店の社員と仲良くなって今はみるみる本の世界の中だった。
小説もそうだが実用書や教養書を読むことで知識が増える感覚が新鮮で、誰かと話しているよりよっぽど自分のためになると思えた。
――こういうところが、生き急いでいるということなのだろうか。
そう思ってしまったが、それでも意味なく時間をすごすよりはよっぽどいいと思えた。
『ずっと話したいと思ってたんだよね』
そう三隅が話しかけてきたのは、とある講義のときのことだった。
大きな講義室で適当な席に座り、授業の始まりを待っていたときだった。突然、中谷さんと声をかけられた先にいたのがこの三隅だった。
名前をなぜ知っているのか疑問に思い詳しく聞いたところ、どうやら地元が同じで高校も一緒だったらしい。そして大学でたまたま同じ学科になり、声をかけたとのことだった。
『なら、なんで今?』
高校のときは話したこともなかったのに――そう思いながら優人が聞くと、三隅は恥ずかしそうに笑いながら答えた。
『そりゃあ、天下の中谷酒造の御曹司じゃん?俺とじゃ話合わないだろうなーって高校の時ずっと思ってたんだよね』
『……そんなことないだろ。実際今こうして話している訳だし』
『……まあそうなんだけどさ、中谷くん駅ビルの本屋でバイトしてるでしょ?』
突然バイトの事を言われ優人は驚いた。
大学生のうちにいろいろな社会経験をしたいと思いとりあえず始めたバイトを、三隅に見られていたらしい。
『……ああ。そうだけど』
そう答えると、彼はいたずらっぽく笑って言った。
『それでさー、御曹司なのに一生懸命バイトしてるの見たら、なんか親近感湧いたんだよね』
『……なんだそりゃ』
そんな会話があってつるむようになり、以来一緒に講義を受けたり勉強をするような仲だった。
三隅はいつもこのように軽口を叩いてばかりいるので、はじめは軽薄な印象を受けていた。しかし意外とまじめで賢く、口調も相手に合わせて変えるような、察しのいいところもあった。
だから普段からストレスなく一緒にいられるのはもちろん、優人の置かれた特殊な状況を知っていることもありがたかった。
『まあ、あれだけ大きい会社の後継ぎならしょうがないよな』
そう言ってくれるこの三隅は、配属先も同じ室島研だ。なので今後もこの関係はきっと変わらないと思えた。
ただひとつだけ彼の気になるところがあった。それは今も女子に向けている熱視線だった。
隣りに座る三隅は、目の前を数少ない理系女子が歩いていくたび、気にしないふりをしながら目で追っている。
よっぽど興味があるのだろう。そういう三隅の姿を目にすると、どうしても口を出さずにはいられなかった。
「……そんなに気になるなら、声かけてくれば?」
「は?お、俺が?無理に決まってるって。接点ないじゃん」
「でもそうしてたら永遠にそのままだろ」
すると三隅はこちらに詰め寄り言う。
「うわー言うねえ。……なら一緒に行こうよ」
「……なんでそうなるんだよ」
「いいじゃん!行こうよ」
「……興味ないって」
「まじか……そんなことある?」
そう言って呆れたように笑うまでがいつものやりとりだった。
そんな軽口の応酬だったが、実際それには優人の本音が込められていた。
男が女性に惹かれるのは本能的なものだ。ただそういう点において、自分はほかの人と比べてあまり関心がないほうだと思えた。
もちろん元カノと身体を繋げたこともある。ただ多くの男性が言うような、燃え上がるようなものはなかった。
迫る快楽に身をゆだねている瞬間はまあいい。ただ行為が終わったあとで、相手を道具のように使ってしまった気がして喪失感に襲われた。
どこかのサークルの新入生歓迎会で、しょうもない先輩はこう言っていた。
『男はしてから好きになるんだよ。だからとりあえずヤれ』
そんな奴の話を鵜呑みにした自分は途方もない馬鹿で、やはりそれは間違っていた。
それなら別のことをしていた方がいい――そう思いバイトに精を出した結果、書店の社員と仲良くなって今はみるみる本の世界の中だった。
小説もそうだが実用書や教養書を読むことで知識が増える感覚が新鮮で、誰かと話しているよりよっぽど自分のためになると思えた。
――こういうところが、生き急いでいるということなのだろうか。
そう思ってしまったが、それでも意味なく時間をすごすよりはよっぽどいいと思えた。
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