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5章 孟夏
5 すべてを忘れて※
しおりを挟む一度、二度――三度。
唇を重ねるたび、はじめ強張っていた須藤の身体は次第に緩んでいった。
彼は少しも抵抗せずに男からの口付けを受け入れたので、優人はふと心配になりちらりと顔を盗み見た。悲しみに歪んでいた顔は、少しだけ和らいだように見えた。
――よかった。嫌がられなくて。
須藤は自分のことをきっと受け入れてくれる――そんな淡い期待はついに叶い、ようやく目の前に現実となったのだ。
嬉しさが込み上げて、つい目の前の愛しい人にがっついてしまう。
そんな優人の無数の口づけを須藤は拒むことはなかった。むしろ次第にどこか翻弄されたいというように受け入れて、優人の腰に手を回し始めたのだった。
だからそれに気付いた瞬間――同じ気持ちであるとわかったときには、優人はもう嬉しくてたまらなかった。
自分は受け入れられているのだ――そう喜びのあまり何度も貪るように唇を奪い、もう何も考えられなかった。
気付けば夢中のあまり、部屋の壁に須藤を追い込むように背を押し付けていた。
そして互いに舌を差し出し絡めあって、柔らかなものが触れ合うたび、腰にぞくぞくとした刺激が走った。同時に頭は燃えるように熱を帯び、優人はくらくらした。
そして気付いた。これが心と身体がひとつになって求めている証拠なのだと。
頭から足まで全身を支配しようと広がる熱に、抗うことはできなかった。もう下半身は痛いほどに張り上がっていた。羽織った浴衣の、薄い布一枚で隔てられたものは燃えるように熱を持ち、それはきっと須藤にも伝わっただろう。
濃厚な口付けとともに、無意識に須藤へとそれを押し付けた瞬間。びくりと反応した彼の腰を逃げないように抱え込み、股間を擦り付ける。すると須藤は吐息を漏らしながら身体を震わせて脱力した。
「んんっ……はぁっ……」
腕の中で上気する彼を抱え、優人はすでに引かれていた布団の上へとゆっくり導いた。
すっかりとろんとした顔の須藤は、ぼうっとしながらも、まるで子どものように純粋な瞳を向けていた。身体に散った生々しい痣なんて忘れてしまったように、須藤は今自分のことだけを見ているような気がした。
そんな彼があまりにも可愛くて、早く自分の手で愛したくて。
優人は、布団にゆっくりと須藤の身体を押し倒すと、上に乗りまた溶かすように口付けた。そして身体がほぐれたのを見計らって、白い首筋を舐めた。
『あっ』
須藤は身体を大きくのけぞらせて、胸元をあらわにした。柔らかな胸が覗いた瞬間、優人は自分の理性がぷつりと飛んだのを感じた。
手は勝手にかろうじて残っていた腰紐を解き、浴衣を完全に取り去ってしまった。
須藤が一瞬反応したものの、優人は夢中でそれどころではなかった。
剥き出しになった身体へ顔を寄せると、優しく舌を這わせはじめた。まるでひとつひとつの傷を癒すように。痣を舐めながら全身を上から下へ。
あなたはここにいていい。俺はすべてを受け入れる――そう伝えるかのように。
須藤は身体を反らして声を上げ、喜びを露わにした。それもあって愛撫は止まらなかった。
目の前にあるのは若い女の身体ではなくて、四十にもなる男のだらしない身体のはずなのに。その身体も反応も可愛くて、胸に込み上げるのは愛しさだった。
同時にふつふつと湧き上がるのは疑問と怒りだった。
この傷を付けた人は、なぜこんな素敵な人に暴力を振るうことができて、なぜ悲しい顔をさせることができるのだろう。
優しく面倒見がいいからこそ不条理すら受け入れてしまい、何も言わずひとりで抱え込んでしまうこの人を――。
――俺が愛して……そして守るんだ。
そう思ったときには、彼の下半身を覆う下着に手が掛かっていた。
「……ま、待って!」
須藤は突然そう言って上半身を起こし、優人の手を抑えようとした。
恥ずかしいのだろうか。確かに自分も突然そうされたら抵抗があるかもしれないと思えた。
――それでも。
優人の胸にあったのは、今このひとに愛を伝えなければ駄目だという、使命感だった。
優人は何も言わず須藤に微笑みを向けた。そして股間を隠す彼の手を優しく取って、脇へ避ける。
すると見えたのは、自己を主張して下着にしみを作って喜ぶ須藤自身だった。
優人は思わず嬉しくなった。彼が感じてくれていると同時に、気持ち悪いと思っていないことが明らかになったから。
気付けば手は下着を勢いよく脱がしていた。そしてぷるんと彼のものがあらわになって、優人は何も考えず、それを口に含んだ。
「な、中谷くっ――ああっ……」
汗ばんだ須藤のいやらしい香りが漂い、優人のものもそれに合わせて反応する。
ただ、それよりも意識は口の中の須藤に向いていた。
熱い肉棒は、いまだ口内の柔らかさと温もりにびくりびくりと戦慄いていた。
まさか抵抗なくそうできるとは思っていなかったので、優人は自分に驚きながらも嬉しくなる。
――ああ、気持ちいいんだ。
ふと口の中にそれを含んだまま、舌で裏筋を這わせて舐め上げてみた。
男なら誰でも感じるその部分は、どうやら須藤も同じらしい。全身の筋肉が快楽に緊張し、須藤は大きく声を上げてのけぞった。
「……あぁっ……あっ」
優人は須藤を気持ちよくできていることが嬉しくて止まらなかった。頭を上下に動かすたび、須藤は全身を痙攣させ身体をのけぞらせながら声を上げた。
「ああっ……き、気持ちいい……」
その反応に優人は思った。
――なんて可愛いのだろう。
頭を仰け反らせてつま先をきゅっと縮こめて喘ぐ姿は、普段生真面目で大人な須藤からは想像もできない。
だから自分がそうさせていると思うと、もう止まらなかった。
優人は浴衣を脱いで全裸になると、須藤を押し倒して優しく眼鏡を取り、快感に呼吸を乱す彼の前に覆い被さった。
そして彼の口を再び奪いながら、自分のそそり立ったものを、彼の男根に直接押し当てる。
――今日は……ここまでだ。
男同士のカップルが後ろの穴を使うということを、優人は辛うじて知っていた。
しかしそう簡単に入ると思えなかったので、互いに擦り合わせるくらいだろう――そう思い、触れ合った二本の肉棒を擦り合わせはじめた。
ふたりのものは、すでに自らの出した期待と、優人の唾液でどろどろだった。それが潤滑液となり、身体を動かすたび心地いい快感がもたらされた。
「あっ……ふぁっ……んんっ」
自分の下で喘ぎ始めた須藤を見ていると、身体を襲う快楽と同時に愛しい気持ちがこみ上げた。
「――須藤さんっ……!」
優人は本当に抱いているかのように須藤の全身を包み込むと、腰を揺らし続けた。
ものが擦れるたび、腕の中の須藤の顔は快楽に歪む。
「中、谷……くんっ……」
――早く……早くイって。
このまま自分の腕の中で果てて、嫌なことなんてすべて忘れて。
そして、俺のことを見て欲しい。
優人の頭にあったのはそれだけだった。
そうして須藤を腕の中に感じながら、必死に腰を振り続けていたときだった。
「……ゆ、優人」
なぜ、突然須藤が自分の名前を呼んだのかわからなかった。
今にもイってしまいそうだったから、こちらの気を引こうとしたのだろうか。それならその策は成功したと言えた。
優人は名前を呼ばれると思っておらず、見事に不意打ちを食らい達してしまったのだから。
ふたりはそうして互いに果てた。
もちろん優人は腕の中にぴったりと愛しい人を抱えたまま。
――このひとを自分が守るのだ。
頭にあったのは、それだけだった。
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