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1 Side 慧
17 渚にて
しおりを挟む「……暑い」
ギラギラとした光が降り注ぐ砂浜を見ながら、俺はその脇のパラソルの下にひとり佇んでいた。
視線の先、影の外に広がる目映い世界には、同級生六名の姿がある。
女子はほなみとその友人の橘さん、また俺と同じ委員会の皆川もいて、どうやら中学のとき同じクラスだったらしい。男子はクラスメイトの三橋ともうひとり――誉史だった。
もうすでにみな水着姿だったものの、俺の視線はつい誉史の鍛えられた上半身にいってしまう。
――まずい。
たくましくもすらっとした筋肉を見ていると、先日の出来事を思い出しそうになってしまう。そこから必死に視線を逸らすと、その先には海を楽しむ人々たちがひしめいていた。
――やっばり、俺は来なければよかった。
クラスメイトたちはすでに青空の下で、わいわいとした雰囲気を醸し出している。それを見ていたら、普段冷房の下で勉強ばかりしている自分が、なんだか場違いに思えた。
そうしているとなぜかほなみと目が合った。
そして微笑みを向けられたかと思うと、ほなみはこちらに近づいてきた。
「慧、大丈夫?まさか、あんたが真夏の海に出てこようとはね……あたしはもう感慨深いよ」
「……ほなみは俺に対してそればっかりだな」
「あったりまえじゃん!……本当、最近中の人が変わったのかっていうくらい積極的だけど、何かあった?」
そのことばに俺はどきりとする。
何かあったと言われると、先日のあの出来事のことが頭をよぎりそうになった。
――そうだ、ほなみに聞かなくては。
自分が誉史に抱いているこの気持ちは何なのか。
こういうことを得意としているほなみなら、きっと知っているはず。
「あのさ、聞きたいことがあるんだけど――」
そう言いかけて俺は気づいた。自分のことよりも聞かなければならないことがあるではないか。
しかし、ほなみは俺のことばを華麗にスルーしてしまう。
「あ!まさか慧、泳がないつもり?ここまで来て本当に小心者なんだから」
そのことばに俺はすこしイラッとする。
「浜辺で本を読む人がいたっていいだろう。それに……なんでそれくらいで小心者扱いされなきゃいけないんだよ!」
「だってー、ここまで来てそれって……泳げないみたいじゃん!」
ほなみがそう笑って指を刺したのは、俺が羽織った長袖パーカーだった。
「日焼けして痛くなるのと熱中症のリスクが嫌なだけだ!」
そんなやりとりを続けていると、視界の端にちらりと誉史の姿が入った。
それを俺の目は不意に追ってしまったらしい。ほなみはそれに気づいたように、
「ちょっと染谷くん!」
そう誉史に声をかけると、手招きしてこちらに呼んでしまった。
今日のことでやりとりはしていたものの、実際に合うのはあの日以来だったので、俺の鼓動は高鳴る。
「倉門さん、どうしたの?ああ、まさか……慧先輩がてこでも動かないって?」
その表情は普段学校で見せるような、余裕のある笑みだった。
俺が内心安心していると、隣でほなみが怪訝な顔を向けて言う。
「え、先輩?慧……まだそんなことしてるの?」
――小さい男と言いたげだな。
俺がそう思っていると、
「いや、俺が尊敬してるからそう呼んでるだけ。ね、慧先輩」
そう言って誉史はにやにやした。
そのとき、俺は不意に思ってしまった。このままでは、誉史は自分が抱えてるものを口にしてくれないかもしれない、と。
――俺にとっては対等な関係であったけれど、それが誉史にとってはどうかわからない。
それに、誉史がどんな風に自分の名前を呼んでくれるのか、すこしだけ興味があった。
俺は間髪をいれずに言う。
「これからは……慧でいいぞ」
すると誉史はなぜか拍子抜けした表情をみせた。まさかそう言われると思わなかった、そんな顔をしていたので俺は、
――そんなに先輩呼びがよかったのか?
と内心驚く。しかし誉史はすぐに微笑むと、
「そっか。じゃあ――慧、海行くぞ!」
そう言って俺の腕を掴むと、勢いよくひっぱったのだった。
「うわっ……………熱っ!」
日陰から強制的に出され、熱を帯びた砂浜に足の裏が触れ思わず声をあげると、みんなから笑い声が上がり、俺も一緒に笑ってしまった。
そんな中、誉史はまたにやりと微笑むと、俺を掴んだまま勢いよく走りだした。
俺は腕を引かれ、砂浜を海に向かって必死について行く。
人々がなんだと言いそうな視線を向ける中、息が上がりそうになりながらも太陽の下をひた走る。
むせかえるような熱気に身体が熱くなるのを感じながら、
「慧!いくぞ!」
そう誉史が自分の名前を呼ぶ声が響いたかと思うと、目の前には海が迫っていた。俺の身体は一瞬宙に浮き、次に冷たい水飛沫が襲う。
ちょうど腰くらいまでだろうか。海水は冷たく、地上の熱気との差がなんとも気持ちがいい。
「はぁっ……最高だな。慧もどうだ?」
慧。
不意にそう呼ばれ、俺は身体の奥に走るぞわりとしたものに気づく。
濡れた前髪をかきあげ水の冷たさを楽しみ始めた誉史を前に、俺は内からの燃えるような熱と、からだに響くように伝わる波の冷たさを感じながら、思う。
まるで、いまの俺は誉史に恋をしているみたいじゃないか、と。
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