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最終話 家族の定義を壊して
芥川君に“抱かれた”余韻に浸る間もなく僕たちはとみ子の捜索に出た。
地元の金沢にいないとなると何処にいるだろうか……
「芥川君はとみ子から何か聞いていないかい?」
「そういえば、鎌倉に旅行に行きたいと言っていたよ」
鎌倉……確かに子育てには環境的にいいかもしれない。
「とりあえず、鎌倉に行こう」
汽車に乗り鎌倉へ向かった。
「まずは聞き込みと安産祈願、神社を回ってみよう。
それでも見つからなければ、鎌倉以外に探しに行けばいい」
鎌倉に着き、聞き込みをしながら歩き回って、由比ヶ浜に行くと
そこにとみ子がいた。
「とみ子!!」
僕が呼ぶ声に反応したとみ子は逃げ出そうとした。
「こら、身重の身体で走ってはいけないよ」
「とみ子さん、危ないから止まって」
僕たち二人の声にとみ子は立ち止まった。
「犀星さん・芥川さん、なんで、来たんですか……」
「理由なんて一つしかない、とみ子とお腹の子が心配だったからだよ。
実は、僕も芥川君と“契り”を交わしたんだ。
とみ子が虜になったわけがわかったよ」
僕は呆然と立ち竦むとみ子を抱き締めた。
「お腹の子は僕の子として育てよう。
朝子と朝巳に弟妹ができたね。
さて、秋の海は身体が冷えるからとりあえず、田端に帰ろう」
「ー家を飛び出し 知らぬ土地で一人産み育てると 覚悟を決めたはずなのに
迎えが来て 覚悟鈍る 秋の海ー」
「とっさに一首詠むとは流石だね」
「犀星さんは何故、私を叱らず、憎まず、こうして迎えに……
それどころか、犀星さんまで芥川さんと……
それと……お腹の子は……双子だそうです」
それはいい。
「双子か、家の中が一気に賑やかになるね。
これは芥川君から“養育費”をたんまりと徴収するとしよう。
ほら、田端に帰るよ、とみ子・“龍之介君”」
田端に戻り、数ヶ月後、とみ子は双子の男の子を産んだ。
「双子のうちの一人に僕の名前を使ってもいいかい?」
「犀星君の?」
戸籍上は僕の子として育てるがあくまでも、龍之介君ととみ子の子だ。
「僕の本名の“照道”と命名したら龍之介君は嫌だろうか?
もう一人は、”龍斗“というのはどうかな?ーーーー
”三人“の子だからね」
僕は龍斗を抱き上げた。
ーーーー
双子は龍之介君にそっくりだ。
「将来は龍之介君に似て理知的で頭のいい子に育つだろうね、楽しみだ」
ーー
❰忘年会にて❱
ーー
照道と龍斗が三歳になった頃、恒例の忘年会を田端の室生家でした際のこと。
「室生のところの末っ子の双子は芥川に似てないか?」
そう言ったのは佐藤春夫だった。
「そりゃそうだよ、戸籍上は僕の子だけど、血筋は龍之介君なんだから。
とみ子と龍之介君の子だよ。僕の血は一滴たりとも入ってないけど
そんなことは些細なことさ」
「室生、本当にこの子たちは……」
「嘘を吐いてどうするんだい。
僕もとみ子も龍之介君の虜で
“抱かれる”のが好きなのさ。
そもそもにして佐藤君と谷崎君の
“細君譲渡事件”と同じようなものだよ」
何の感情も乗せずにあっけらかんと言ってのける僕に
佐藤君は盃の酒を煽った。
「あれはあくまでも“譲渡”だ!!
谷崎と千代は離婚しているが室生、お前は……」
「そう、僕はとみ子と夫婦のままだし
龍之介とも肌を合わせた。
僕の生い立ちから言わせてもらえば
“血縁”なんて風が吹けば飛んでいく
凩のようなものなんだよ。
龍之介君が抱いている息子の名前は“照道”。
僕の本名だよ、ね、龍之介君」
僕は龍之介君の肩に頭を預けた。
「面白いな、一見、ぎすぎすする三角関係なのに室生は自らも芥川に抱かれることで許してしまったというわけだね」
向かいに座っていた谷崎君が笑った。
「室生が自分の本名を命名したのもある意味芥川を縛り付ける鎖のようなものじゃないか」
「鎖とは人聞きの悪いな、谷崎君。
まぁ、龍之介君に僕の本名を呼んでほしいという
魂胆は少しあったかな。
⟦龍之介君、今夜は僕を抱いておくれ⟧」
谷崎君や佐藤君には聞こえないように
龍之介君の耳元で小声で囁いた。
「わかった」
数十分後、酔い潰れた谷崎君と佐藤君を客室に運んだ。
「とみ子、僕たちは書斎に行くから
照道と龍斗を頼んだよ」
「わかりました」
僕たちは二階にある僕の書斎に来た。
「龍之介君、抱いておくれ」
「今夜は少し強引になってしまうかも知れないよ?」
「構わないよ…… ぁ、ぁ、龍之介君……一気に来て……」
「っ、“照道”、全部受け止めてくれっ」
「ぁ、ぁ、ああ!! 龍之介君っ」
事後、僕は龍之介に膝枕をしてもらっていた。
「犀星君」
「龍之介君、もう一度、本名で呼んでおくれ」
「照道……」
人生の中で一番優しく一番甘い声色で
呼ばれた僕の本名は宝物になった。
「龍之介君に僕の生い立ちを話したことあったっけ? ああ、なかったっけ。
僕は石川県の金沢出身なんだ。
実父は加賀藩の足軽頭だった小畠家の
小畠弥左衛門吉種。
実母は小畠家の女中だった。
僕はいわば、妾の子。
そして、生後まもなく、養母の私生児として
戸籍登録されて“室生家”の養子になったのは
七歳の時だった……
たから、さっき、佐藤君に
“血縁”なんて風が吹けば飛んでいく凩だって言ったんだよ」
話し終え、目を閉じると龍之介君が
細い指で頭を撫でてくれた。
その優しい手つきに僕は眠ってしまった。
地元の金沢にいないとなると何処にいるだろうか……
「芥川君はとみ子から何か聞いていないかい?」
「そういえば、鎌倉に旅行に行きたいと言っていたよ」
鎌倉……確かに子育てには環境的にいいかもしれない。
「とりあえず、鎌倉に行こう」
汽車に乗り鎌倉へ向かった。
「まずは聞き込みと安産祈願、神社を回ってみよう。
それでも見つからなければ、鎌倉以外に探しに行けばいい」
鎌倉に着き、聞き込みをしながら歩き回って、由比ヶ浜に行くと
そこにとみ子がいた。
「とみ子!!」
僕が呼ぶ声に反応したとみ子は逃げ出そうとした。
「こら、身重の身体で走ってはいけないよ」
「とみ子さん、危ないから止まって」
僕たち二人の声にとみ子は立ち止まった。
「犀星さん・芥川さん、なんで、来たんですか……」
「理由なんて一つしかない、とみ子とお腹の子が心配だったからだよ。
実は、僕も芥川君と“契り”を交わしたんだ。
とみ子が虜になったわけがわかったよ」
僕は呆然と立ち竦むとみ子を抱き締めた。
「お腹の子は僕の子として育てよう。
朝子と朝巳に弟妹ができたね。
さて、秋の海は身体が冷えるからとりあえず、田端に帰ろう」
「ー家を飛び出し 知らぬ土地で一人産み育てると 覚悟を決めたはずなのに
迎えが来て 覚悟鈍る 秋の海ー」
「とっさに一首詠むとは流石だね」
「犀星さんは何故、私を叱らず、憎まず、こうして迎えに……
それどころか、犀星さんまで芥川さんと……
それと……お腹の子は……双子だそうです」
それはいい。
「双子か、家の中が一気に賑やかになるね。
これは芥川君から“養育費”をたんまりと徴収するとしよう。
ほら、田端に帰るよ、とみ子・“龍之介君”」
田端に戻り、数ヶ月後、とみ子は双子の男の子を産んだ。
「双子のうちの一人に僕の名前を使ってもいいかい?」
「犀星君の?」
戸籍上は僕の子として育てるがあくまでも、龍之介君ととみ子の子だ。
「僕の本名の“照道”と命名したら龍之介君は嫌だろうか?
もう一人は、”龍斗“というのはどうかな?ーーーー
”三人“の子だからね」
僕は龍斗を抱き上げた。
ーーーー
双子は龍之介君にそっくりだ。
「将来は龍之介君に似て理知的で頭のいい子に育つだろうね、楽しみだ」
ーー
❰忘年会にて❱
ーー
照道と龍斗が三歳になった頃、恒例の忘年会を田端の室生家でした際のこと。
「室生のところの末っ子の双子は芥川に似てないか?」
そう言ったのは佐藤春夫だった。
「そりゃそうだよ、戸籍上は僕の子だけど、血筋は龍之介君なんだから。
とみ子と龍之介君の子だよ。僕の血は一滴たりとも入ってないけど
そんなことは些細なことさ」
「室生、本当にこの子たちは……」
「嘘を吐いてどうするんだい。
僕もとみ子も龍之介君の虜で
“抱かれる”のが好きなのさ。
そもそもにして佐藤君と谷崎君の
“細君譲渡事件”と同じようなものだよ」
何の感情も乗せずにあっけらかんと言ってのける僕に
佐藤君は盃の酒を煽った。
「あれはあくまでも“譲渡”だ!!
谷崎と千代は離婚しているが室生、お前は……」
「そう、僕はとみ子と夫婦のままだし
龍之介とも肌を合わせた。
僕の生い立ちから言わせてもらえば
“血縁”なんて風が吹けば飛んでいく
凩のようなものなんだよ。
龍之介君が抱いている息子の名前は“照道”。
僕の本名だよ、ね、龍之介君」
僕は龍之介君の肩に頭を預けた。
「面白いな、一見、ぎすぎすする三角関係なのに室生は自らも芥川に抱かれることで許してしまったというわけだね」
向かいに座っていた谷崎君が笑った。
「室生が自分の本名を命名したのもある意味芥川を縛り付ける鎖のようなものじゃないか」
「鎖とは人聞きの悪いな、谷崎君。
まぁ、龍之介君に僕の本名を呼んでほしいという
魂胆は少しあったかな。
⟦龍之介君、今夜は僕を抱いておくれ⟧」
谷崎君や佐藤君には聞こえないように
龍之介君の耳元で小声で囁いた。
「わかった」
数十分後、酔い潰れた谷崎君と佐藤君を客室に運んだ。
「とみ子、僕たちは書斎に行くから
照道と龍斗を頼んだよ」
「わかりました」
僕たちは二階にある僕の書斎に来た。
「龍之介君、抱いておくれ」
「今夜は少し強引になってしまうかも知れないよ?」
「構わないよ…… ぁ、ぁ、龍之介君……一気に来て……」
「っ、“照道”、全部受け止めてくれっ」
「ぁ、ぁ、ああ!! 龍之介君っ」
事後、僕は龍之介に膝枕をしてもらっていた。
「犀星君」
「龍之介君、もう一度、本名で呼んでおくれ」
「照道……」
人生の中で一番優しく一番甘い声色で
呼ばれた僕の本名は宝物になった。
「龍之介君に僕の生い立ちを話したことあったっけ? ああ、なかったっけ。
僕は石川県の金沢出身なんだ。
実父は加賀藩の足軽頭だった小畠家の
小畠弥左衛門吉種。
実母は小畠家の女中だった。
僕はいわば、妾の子。
そして、生後まもなく、養母の私生児として
戸籍登録されて“室生家”の養子になったのは
七歳の時だった……
たから、さっき、佐藤君に
“血縁”なんて風が吹けば飛んでいく凩だって言ったんだよ」
話し終え、目を閉じると龍之介君が
細い指で頭を撫でてくれた。
その優しい手つきに僕は眠ってしまった。
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