実は❰心の声❱が聞こえる芥川龍之介は……

華愁

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第一話 心の声と恋慕

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僕は❰心の声❱が聞こえてしまうから    
妻・文の内心も、文学仲間たちの内心も丸聞こえだった。  
  
それから、僕は既婚者にもかかわらず、  
友人の一人、室生犀星君を恋慕している。

ーー

嘘…… まさか、犀星君が?

それは、たまたま、散歩に出掛けた時、
犀星君と奥さんのとみ子さんに会った。

その時に犀星君から聞こえてきた❰声❱。

「芥川君、散歩かい?

❰“龍之介君”!? “好きな人”に
会えるなんて嬉しい……❱」

“名前”で呼ばれているのは嬉しいけど
犀星君が僕を“好き”?

「うん、今、執筆中の小説の続きに
詰まってしまってね。

気分転換に散歩していたんだ」

「相変わらず、芥川君は真面目だね  
  
❰執筆に行き詰まってるだけだろうか?  

なんだか疲れた表情をしている❱  」
  
そんなに疲れた顔をしているだろうか?  
  
「そんなことはないさ。  
  
とみ子さんも一緒だったんだね」  
  
「見ての通り、荷物持ちさ」  
  
「❰犀星さんは本当に芥川さんが好きね。  
  
さっさと告げてしまえばいいのに、
意気地無しね❱  」
  
え!?

今のはとみ子さんの声!?

「犀星さん、私は先に帰っているから        
芥川さんと二人で散歩してきたらどうかしら」

❰まったく、世話が焼けるわね。        
        
私は先に帰るとしましょう❱  」 
       
「荷物、どうするんだい?」

❰とみ子に気を使わせてしまったな❱    」      
      
「あら、大丈夫よ。      
      
夕飯を作って待っているわ」    
 
犀星君は内心で苦笑していた。  
    
「ありがとう、
じゃあ、芥川君と少し散歩してくるよ」

「えぇ、行ってらっしゃい」

とみ子さんは僕に会釈して先に帰って行った。

「犀星君が好きだなんだ……        
        
“文学仲間”とか“友人”としてじゃない。」        
        
僕は犀星君に“恋慕”を抱いてる……」      
      
「❰あの、家族思いの“龍之介君”が?❱    」
    
犀星君の❰声❱に今度は僕が苦笑した。  
  
「犀星君を愛してる……

……ごめん、先に帰るね」

踵を返して一歩踏み出そうとしたら、
後ろから抱き締められた。

「僕も君を愛してるよ。

すぐに返事ができなくてすまない。

僕と“恋仲”になってほしい……

❰“龍之介君”は家族思いの優しい人だ。  
  
たとえ、“両思い”でも僕と
“恋仲”になるなんて無理だろう……❱  」
 
その❰声❱に僕の胸が締め付けられた。
  
「犀星君、口づけしてほしい」  
  
僕の突然のお願いに犀星君は無言で口づけしてくれた。  
  
「ん……んん……ふぁ……」  
  
腰砕けにさせられてしまった。  
  
「おっと、すまない、大丈夫かい?」

「大丈夫…… 犀星君、口づけ上手なんだね……」  
  
犀星君だって、
過去に恋人がいなかったわけじゃないだろうし  
もちろん、とみ子さんとも
口づけしてきたんだろう……  
  
「❰僕の口づけで腰砕けになってる
“龍之介君”、可愛い❱」

僕が可愛い!?

「❰もう一度、口づけしたい……

そして、できれば、口づけより先も……❱

“口づけより先”ってことは、犀星君は
僕と身体を繋げたいってことだよね。

「犀星君は僕と“口づけより先”、できるのかい?」    
    
しまった!!  つい、❰声❱に反応してしまった。  
    
「知らないうちに言葉に出てたかい?」  
  
「いや、犀星君は言葉に出してないよ。  
  
僕はね、❰心の声❱が聞こえてしまうんだ……

気味が悪いだろう?」

「いや、むしろ納得した。    
    
芥川君はたまに、何かを察してる風だったり    
諦めている風だったりしていて
不思議に思ってたんだけど    
そういうことだったんだね」

「……うん。

僕は誰かとすれ違うだけで❰声❱が聞こえてしまう」

「それは、かなり精神的にきつくないかい?」

僕は犀星君に抱き着きながら答えた。

「正直、きついかな……

仲間も家族も、すれ違うだけの人の
すべての人の❰心の声❱が聞こえてしまうんだ……」

「いつからなんだい?」        
        
「十代後半からかな。        
        
だけど、高校時代から一緒にいる        
寛や久米君には話したことがないんだ」    
    
「久米君はあまり関わり合いがないから    
わからないけど、少なくとも寛君は    
冷やかしたりしないと思うけどな?」

確かに、寛は冷やかすより心配するだろう。

「わかっているんだけど、
なんか言い出せなくてさ……

だけど、犀星君には隠し事したくなかったんだ……」

「なにそれ、可愛すぎ」

犀星君は僕を引き寄せて口付けした。  
  
「ぁ、んん、犀……星……君……」  
  
背徳と甘美な口付けに僕は  
もっと、とねだるように抱き着いた。

「ふ、ぁ、んん」    
    
優しく甘い口付けに僕は……  
  
「今さらだけど、
“龍之介君”と呼んでもいいかい?」

「もちろん、  名前で呼んで。  
  
犀星君に名前を呼ばれると心が温かくなるんだ」

寛や久米君、井川恭は高校から一緒にいるし親友だ。  
  
妻の文も名前で呼ぶけど、    
犀星君に呼ばれるのは特別だ。

「龍之介君、愛してるよ」

「僕も愛してる」
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