紫の蛹

星川過世

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 秋というのは、涼しい季節のはずだ。そして今は十月、紛れもない秋のはずだ。なぜこんなに暑いのか。校庭のど真ん中に体育座りで体育教師の説明を聞くでもなく聞きながらそんなことを考える。

 「じゃあ、一人二組をつくってパス練習」
 はーい、とやる気のなさを押し殺したような声で生徒たちがバラバラに立ち上がり、友人の所へ行ったりボールを取りに行ったりし始めた。
 いつもペアを組む友人の姿を探そうとした所で、そいつが今日欠席なことに気が付く。
 もちろん俺には他にも友人がいる。そいつらに声を掛けようとしたところで、Tシャツの裾を引かれた。
 子どもじゃあるまいし、そんな引き留め方するやつ知り合いに居たっけ、と振り返り、思わず目を見張った。

 「僕と組んでくれない?」
 美しいテノールの声が、周りの音を押しのけて俺の耳に入ってくる。
 「氷室...?」
 いや、氷室に決まっているのだが。案の定氷室は不思議そうな顔でこくりと頷いた。
 別に俺は各クラスに数人ずつ居るような氷室のファンではないが、近くで見るとかなり綺麗な顔をしていることがわかる。一応言っておくが別に変な意味ではない。寧ろ性的なものを感じさせない、彫刻のような美しさだった。いや、彫刻に性的魅力を感じる人もいるだろうけど。俺は感じない派だ。

 「もちろん。よろしく」
 後でクラスメイトに質問攻めにされるだろうな。
 「じゃあ、ボール取ってくるよ」
 「僕も行く」
 何故......。ボールを一つ持ってくるのに二人もいらない。むしろ混むから一人で行った方がいい。しかし今日、というか数分前に初めて会話した相手の申し出をばっさり切れるような性格を俺はしていない。
 「僕、ずっと春川君と話してみたかったんだ」
 「そ......なんだ」
 絶妙に反応に困る。遠くから見ていたのと、大分印象が違う。そういうこと言うやつなんだ。孤高の人だと勝手に思っていた。ただコミュニケーションが苦手なだけ? それでも誰に話しかけられてもそっけないやつが、俺にこんなセリフを吐いているという状況がよくわからなかった。

 無事ボールを手に入れ、パス練習を始める。パスには一定以上の距離をとる必要があったため、特に話しかけられることもない。
 そのまま練習はミニゲーム形式になり、氷室とは自然と離れた。
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