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結局昼食は食べ損ねた。頭は先ほどの光景と失態でいっぱいだ。そのせいか帰るまで俺は何を話しかけられても要領を得ない返事しかできず、思いがけず体育の時間のことについての質問攻めを回避していた。
しかし信じがたい出来事というのは起こるときは連続で起きるらしい。
俺が帰りの支度をしていると、教室がやけにざわつき始めた。何の気なしに顔を上げ、俺は絶句することになる。
「あ、春川君」
普段ほとんど変わらない表情がわずかに綻ぶ。更に騒めきが起きた。
「え......あ、俺?」
「うん。よかったら、連絡先交換してくれない?」
教室中の視線が氷室から俺に移る。
「あ、あー。いいけど」
いいけど、何故。もしかして脅される?
「氷室君って、春川と仲いいの?」
鮫島がさりげなく聞く。
「いや、まだ。僕が仲良くなりたいって、勝手に思ってるだけ」
「じゃ、駅まで一緒に帰ったらどうかな」
「は!?」
「え」
鮫島の無責任極まりない発言に、俺と氷室が同時に声をあげた。
「いい?春川君」
「えっと......」
無言で今日一緒に帰る予定だった奴らに助けを求めるも、何がグッジョブなのか親指を立てられて終わった。絶対面白がってるだろ。
まあ別に、大丈夫か。多分。どうせ脅されるのなら、タイミングなど些末な問題だし。既にこれほど目立っているのだから今更人目を気にすることもないし。
「いいよ」
俺の言葉に氷室が柔らかく微笑み、誰かの叫ぶ声が聞こえた。氷室は大して気にした風もなく、「じゃあ、帰ろう」とさりげなく俺の手首を掴む。
半ば引きずられるように教室を出、廊下を突き進み、下駄箱を通過する。何度か「氷室」とこそこそ口にする声が聞こえた。氷室は目もくれない。靴を履き替えるタイミングを除き、校門をくぐるまで氷室は手を離さなかった。
「急にごめんね。なんか用事とか、大丈夫だった?」
氷室が人懐っこそうな顔をこちらに向ける。もともとのクールな孤高の人というイメージとも、今日体育倉庫で見てしまった姿とも上手く重ならない。
前者はよく知らない他人のイメージなのだから、よくあることだ。後者は......見間違いだったということは、ないだろうか。
というかそうであってほしい。あれが見知らぬ人なら良かった。あんなところであんなことをしていたあいつらが一番ヤバいが、覗いた上にそれで抜いていた俺も相当ヤバい。
「別に、なんも」
「よかった。家はどの辺なの?」
「えっと」
少しためらったが、正直に最寄り駅を教えた。
「え、僕の最寄りその一個前の駅だよ。よかったら寄っていく? 親居ないし。お茶くらいなら出すよ!」
「えっ」
出会って一日の人間を家に呼ぶか普通。それとも人目のある場所では出来ない話がある......あるな、確実に。
「昼休みの、話か?」
他の人が聞いても何の話かわからないだろうが、一応声を落として尋ねた。
「そうだよ。君にも悪い話じゃない」
氷室は今日見たどれとも違う笑い方をした。なんかちょっと、かっこいいな......などと思いかけて首を大きく振る。
「わかった。お邪魔する。コンビニ寄っていいか?」
「いいよ」
笑顔は、先ほどの人懐っこそうなものに戻っていた。
しかし信じがたい出来事というのは起こるときは連続で起きるらしい。
俺が帰りの支度をしていると、教室がやけにざわつき始めた。何の気なしに顔を上げ、俺は絶句することになる。
「あ、春川君」
普段ほとんど変わらない表情がわずかに綻ぶ。更に騒めきが起きた。
「え......あ、俺?」
「うん。よかったら、連絡先交換してくれない?」
教室中の視線が氷室から俺に移る。
「あ、あー。いいけど」
いいけど、何故。もしかして脅される?
「氷室君って、春川と仲いいの?」
鮫島がさりげなく聞く。
「いや、まだ。僕が仲良くなりたいって、勝手に思ってるだけ」
「じゃ、駅まで一緒に帰ったらどうかな」
「は!?」
「え」
鮫島の無責任極まりない発言に、俺と氷室が同時に声をあげた。
「いい?春川君」
「えっと......」
無言で今日一緒に帰る予定だった奴らに助けを求めるも、何がグッジョブなのか親指を立てられて終わった。絶対面白がってるだろ。
まあ別に、大丈夫か。多分。どうせ脅されるのなら、タイミングなど些末な問題だし。既にこれほど目立っているのだから今更人目を気にすることもないし。
「いいよ」
俺の言葉に氷室が柔らかく微笑み、誰かの叫ぶ声が聞こえた。氷室は大して気にした風もなく、「じゃあ、帰ろう」とさりげなく俺の手首を掴む。
半ば引きずられるように教室を出、廊下を突き進み、下駄箱を通過する。何度か「氷室」とこそこそ口にする声が聞こえた。氷室は目もくれない。靴を履き替えるタイミングを除き、校門をくぐるまで氷室は手を離さなかった。
「急にごめんね。なんか用事とか、大丈夫だった?」
氷室が人懐っこそうな顔をこちらに向ける。もともとのクールな孤高の人というイメージとも、今日体育倉庫で見てしまった姿とも上手く重ならない。
前者はよく知らない他人のイメージなのだから、よくあることだ。後者は......見間違いだったということは、ないだろうか。
というかそうであってほしい。あれが見知らぬ人なら良かった。あんなところであんなことをしていたあいつらが一番ヤバいが、覗いた上にそれで抜いていた俺も相当ヤバい。
「別に、なんも」
「よかった。家はどの辺なの?」
「えっと」
少しためらったが、正直に最寄り駅を教えた。
「え、僕の最寄りその一個前の駅だよ。よかったら寄っていく? 親居ないし。お茶くらいなら出すよ!」
「えっ」
出会って一日の人間を家に呼ぶか普通。それとも人目のある場所では出来ない話がある......あるな、確実に。
「昼休みの、話か?」
他の人が聞いても何の話かわからないだろうが、一応声を落として尋ねた。
「そうだよ。君にも悪い話じゃない」
氷室は今日見たどれとも違う笑い方をした。なんかちょっと、かっこいいな......などと思いかけて首を大きく振る。
「わかった。お邪魔する。コンビニ寄っていいか?」
「いいよ」
笑顔は、先ほどの人懐っこそうなものに戻っていた。
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