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次に氷室の家へ行ったとき、意外にも氷室は前回の続きをさせてくれた。
趣味らしい趣味はなく休日は勉強をしているか家事をしているか、なにもすることがなければ母親が録画した刑事ドラマを見ていること。食べ物に興味はないが強いて言えば和菓子が好きなこと。九月生まれなこと。猫か犬なら犬の方が好きなこと。好きなタイプは優しい人なこと......俺以上に抽象的じゃないか。どこまで本当かは定かではないが、他愛もないことを色々と教えてくれた。
「この辺にしないと、ヤる時間なくなるから」
「あ、悪い」
そう。俺たちは、友達じゃない。そこをはき違えてはいけない。暗黙の了解のように始まった奇妙な関係ではあるが、それなりに心地よかった。昔読んだ小説で、主人公がセフレに恋をしてしまい、苦しむ描写があったのを思い出す。あの話、結局どうなったんだっけ。
「あのさ、違ったらごめんなんだけど」
氷室が気まずそうに口を開いた
「もしかして、僕のこと好き?」
「......それは、どういう意味で」
「恋愛的な意味で」
これは言っていいのか、駄目なのか。
他の相手なら迷わなかっただろう。でも氷室になら言ってもいいんじゃないか、と思った。
「好き、かも」
「かもって何」
氷室は笑った。とりあえず気分を害した様子はなさそうで安心する。
「僕も春川君の声好きだよ」
優しいセリフにも、ひどく残酷なセリフにも聞こえた。
「今日はさ、おしゃべりだけにする?」
「いいのか?」
「僕別に、性欲を持て余してるわけじゃないから」
「そうなのか?」
氷室が本格的に笑い出した。「ひどいよ、僕のことそんな風に思ってたの?」
じゃあなんで、高校生としては異様なスパンで不特定の相手とこんなことをしているんだろう。もちろん聞く気はなかった。
「それに最初に言ったじゃん。春川君と仲良くなりたいって」
「ああ......あれ、なんで? 特に接点とかなかったよな?」
「声が好きだったから」
「あ、そう......」
友達の声とか割とどうでもいいけどな。まあ、人それぞれか。
それから、他愛もない話をずっとした。これは友達に近づいたということだろうか。
「あ、今は春川君以外とは寝てないから」
帰り際、氷室が思い出したように言った。
「え、なんで」
「声が好きだから」
またそれかよ。
趣味らしい趣味はなく休日は勉強をしているか家事をしているか、なにもすることがなければ母親が録画した刑事ドラマを見ていること。食べ物に興味はないが強いて言えば和菓子が好きなこと。九月生まれなこと。猫か犬なら犬の方が好きなこと。好きなタイプは優しい人なこと......俺以上に抽象的じゃないか。どこまで本当かは定かではないが、他愛もないことを色々と教えてくれた。
「この辺にしないと、ヤる時間なくなるから」
「あ、悪い」
そう。俺たちは、友達じゃない。そこをはき違えてはいけない。暗黙の了解のように始まった奇妙な関係ではあるが、それなりに心地よかった。昔読んだ小説で、主人公がセフレに恋をしてしまい、苦しむ描写があったのを思い出す。あの話、結局どうなったんだっけ。
「あのさ、違ったらごめんなんだけど」
氷室が気まずそうに口を開いた
「もしかして、僕のこと好き?」
「......それは、どういう意味で」
「恋愛的な意味で」
これは言っていいのか、駄目なのか。
他の相手なら迷わなかっただろう。でも氷室になら言ってもいいんじゃないか、と思った。
「好き、かも」
「かもって何」
氷室は笑った。とりあえず気分を害した様子はなさそうで安心する。
「僕も春川君の声好きだよ」
優しいセリフにも、ひどく残酷なセリフにも聞こえた。
「今日はさ、おしゃべりだけにする?」
「いいのか?」
「僕別に、性欲を持て余してるわけじゃないから」
「そうなのか?」
氷室が本格的に笑い出した。「ひどいよ、僕のことそんな風に思ってたの?」
じゃあなんで、高校生としては異様なスパンで不特定の相手とこんなことをしているんだろう。もちろん聞く気はなかった。
「それに最初に言ったじゃん。春川君と仲良くなりたいって」
「ああ......あれ、なんで? 特に接点とかなかったよな?」
「声が好きだったから」
「あ、そう......」
友達の声とか割とどうでもいいけどな。まあ、人それぞれか。
それから、他愛もない話をずっとした。これは友達に近づいたということだろうか。
「あ、今は春川君以外とは寝てないから」
帰り際、氷室が思い出したように言った。
「え、なんで」
「声が好きだから」
またそれかよ。
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