紫の蛹

星川過世

文字の大きさ
8 / 17

しおりを挟む
 次に氷室の家へ行ったとき、意外にも氷室は前回の続きをさせてくれた。

 趣味らしい趣味はなく休日は勉強をしているか家事をしているか、なにもすることがなければ母親が録画した刑事ドラマを見ていること。食べ物に興味はないが強いて言えば和菓子が好きなこと。九月生まれなこと。猫か犬なら犬の方が好きなこと。好きなタイプは優しい人なこと......俺以上に抽象的じゃないか。どこまで本当かは定かではないが、他愛もないことを色々と教えてくれた。

 「この辺にしないと、ヤる時間なくなるから」
 「あ、悪い」
 そう。俺たちは、友達じゃない。そこをはき違えてはいけない。暗黙の了解のように始まった奇妙な関係ではあるが、それなりに心地よかった。昔読んだ小説で、主人公がセフレに恋をしてしまい、苦しむ描写があったのを思い出す。あの話、結局どうなったんだっけ。

 「あのさ、違ったらごめんなんだけど」
 氷室が気まずそうに口を開いた
 「もしかして、僕のこと好き?」
 「......それは、どういう意味で」
 「恋愛的な意味で」
 これは言っていいのか、駄目なのか。
 他の相手なら迷わなかっただろう。でも氷室になら言ってもいいんじゃないか、と思った。
 「好き、かも」
 「かもって何」
 氷室は笑った。とりあえず気分を害した様子はなさそうで安心する。
 「僕も春川君の声好きだよ」
 優しいセリフにも、ひどく残酷なセリフにも聞こえた。
 「今日はさ、おしゃべりだけにする?」
 「いいのか?」
 「僕別に、性欲を持て余してるわけじゃないから」
 「そうなのか?」
 氷室が本格的に笑い出した。「ひどいよ、僕のことそんな風に思ってたの?」
 じゃあなんで、高校生としては異様なスパンで不特定の相手とこんなことをしているんだろう。もちろん聞く気はなかった。

 「それに最初に言ったじゃん。春川君と仲良くなりたいって」
 「ああ......あれ、なんで? 特に接点とかなかったよな?」
 「声が好きだったから」
 「あ、そう......」
 友達の声とか割とどうでもいいけどな。まあ、人それぞれか。

 それから、他愛もない話をずっとした。これは友達に近づいたということだろうか。
 「あ、今は春川君以外とは寝てないから」
 帰り際、氷室が思い出したように言った。
 「え、なんで」
 「声が好きだから」
 またそれかよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

見知らぬ君に触れられない

mahiro
BL
今から5年前、組織を抜けた人物がいた。 通常であればすぐにでも探し出すはずなのに、今回は即刻捜査は打ち切られた。 それが何故なのか、それを知ろうとすることすら禁じられた。 それから5年の歳月が経った。 表向きには何事もないように見える日常の中で、俺は見つけてしまった。 5年前には見ることの出来なかった明るく笑うやつの顔を。 新しい仲間に囲まれ、見たことのない明るい服装を見にまとい、常に隠されていた肌が惜しげもなく外に出されていた。 何故組織を抜けたのだと問い質したい所だが、ボスからは探すな、見つけても関わるなと指示されていた。 だから、俺は見なかったことにしてその場を去ること しか出来なかった。 あれから俺のいる部屋にいつもなら顔を出さない部下が訊ねてきて………?

処理中です...