紫の蛹

星川過世

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 そのあと、氷室はやけにテンション高く色々なアトラクションに乗っていき、最後に観覧車へ俺を連れて行った。

 「観覧車って、久しぶりに乗るな」
 小さいころ家族で乗ったきりだ。向かい合わせに乗り込むとガタガタと揺れ、とても不安定だった。 
 「久しぶりに来たけど、なかなか楽しかったな」
 「うん」
 「お前はよく来るのか?」
 「うん」
 「何が一番楽しかった?」
 「うん」
 「......」

 やはり何か悩みがありそうで、しかし何も聞けなかった。そういう性分なのだ。
 思ったよりも観覧車の中は肌寒くて、俺は膝にコートを掛けた。
 しばらく無言の空間が続き、そして突然氷室の方から口を開いた。目を合わせないまま。

 「僕さ、好きな人が居るんだ」
 「そう......なんだ」
 「だからさ、ごめん。君の気持ちには応えられないんだけど」
 この間の告白もどきの返事か。
 「あ、ああ。それは別に......」
 良くはないが。でも応えてくれないのはわかっていたから、今更だ。
 「でも僕、君のことなんか好きなんだよね」
 それは俺に向けて言ったというよりは、独り言のようだった。結構残酷なこと言うよなぁ、コイツ。

 「......なんかさ、俺にできることがあれば、するから」
 自分でも脈絡のないセリフだと思った。しかし氷室の方も自分の挙動が不審な自覚はあるらしく、何も聞いてこなかった。
 「......ありがと」
 また、沈黙が落ちた。俺が余計なことを言った所為で気まずい。
 「......もう、やめようか」
 「え」

 何を、とは聞かなくてもわかった。
 「俺は、別に」
 「僕がもう限界なの。せめて、せめて......」
 氷室の声に涙が混ざり始めた。
 「春川君の思い出の中の僕は、きれいなままにさせておいて」
 「は? 何言って......」
 氷室は計算して話していたのか、それとも偶然か、ちょうど観覧車が地面に着く。
 
 「暗くなってきたし、そろそろ帰ろうか」
 「おう......」

 観覧車から降りた氷室は嘘みたいにきれいに笑っていて、何も言えなかった。
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