10 / 17
9
しおりを挟む
そのあと、氷室はやけにテンション高く色々なアトラクションに乗っていき、最後に観覧車へ俺を連れて行った。
「観覧車って、久しぶりに乗るな」
小さいころ家族で乗ったきりだ。向かい合わせに乗り込むとガタガタと揺れ、とても不安定だった。
「久しぶりに来たけど、なかなか楽しかったな」
「うん」
「お前はよく来るのか?」
「うん」
「何が一番楽しかった?」
「うん」
「......」
やはり何か悩みがありそうで、しかし何も聞けなかった。そういう性分なのだ。
思ったよりも観覧車の中は肌寒くて、俺は膝にコートを掛けた。
しばらく無言の空間が続き、そして突然氷室の方から口を開いた。目を合わせないまま。
「僕さ、好きな人が居るんだ」
「そう......なんだ」
「だからさ、ごめん。君の気持ちには応えられないんだけど」
この間の告白もどきの返事か。
「あ、ああ。それは別に......」
良くはないが。でも応えてくれないのはわかっていたから、今更だ。
「でも僕、君のことなんか好きなんだよね」
それは俺に向けて言ったというよりは、独り言のようだった。結構残酷なこと言うよなぁ、コイツ。
「......なんかさ、俺にできることがあれば、するから」
自分でも脈絡のないセリフだと思った。しかし氷室の方も自分の挙動が不審な自覚はあるらしく、何も聞いてこなかった。
「......ありがと」
また、沈黙が落ちた。俺が余計なことを言った所為で気まずい。
「......もう、やめようか」
「え」
何を、とは聞かなくてもわかった。
「俺は、別に」
「僕がもう限界なの。せめて、せめて......」
氷室の声に涙が混ざり始めた。
「春川君の思い出の中の僕は、きれいなままにさせておいて」
「は? 何言って......」
氷室は計算して話していたのか、それとも偶然か、ちょうど観覧車が地面に着く。
「暗くなってきたし、そろそろ帰ろうか」
「おう......」
観覧車から降りた氷室は嘘みたいにきれいに笑っていて、何も言えなかった。
「観覧車って、久しぶりに乗るな」
小さいころ家族で乗ったきりだ。向かい合わせに乗り込むとガタガタと揺れ、とても不安定だった。
「久しぶりに来たけど、なかなか楽しかったな」
「うん」
「お前はよく来るのか?」
「うん」
「何が一番楽しかった?」
「うん」
「......」
やはり何か悩みがありそうで、しかし何も聞けなかった。そういう性分なのだ。
思ったよりも観覧車の中は肌寒くて、俺は膝にコートを掛けた。
しばらく無言の空間が続き、そして突然氷室の方から口を開いた。目を合わせないまま。
「僕さ、好きな人が居るんだ」
「そう......なんだ」
「だからさ、ごめん。君の気持ちには応えられないんだけど」
この間の告白もどきの返事か。
「あ、ああ。それは別に......」
良くはないが。でも応えてくれないのはわかっていたから、今更だ。
「でも僕、君のことなんか好きなんだよね」
それは俺に向けて言ったというよりは、独り言のようだった。結構残酷なこと言うよなぁ、コイツ。
「......なんかさ、俺にできることがあれば、するから」
自分でも脈絡のないセリフだと思った。しかし氷室の方も自分の挙動が不審な自覚はあるらしく、何も聞いてこなかった。
「......ありがと」
また、沈黙が落ちた。俺が余計なことを言った所為で気まずい。
「......もう、やめようか」
「え」
何を、とは聞かなくてもわかった。
「俺は、別に」
「僕がもう限界なの。せめて、せめて......」
氷室の声に涙が混ざり始めた。
「春川君の思い出の中の僕は、きれいなままにさせておいて」
「は? 何言って......」
氷室は計算して話していたのか、それとも偶然か、ちょうど観覧車が地面に着く。
「暗くなってきたし、そろそろ帰ろうか」
「おう......」
観覧車から降りた氷室は嘘みたいにきれいに笑っていて、何も言えなかった。
0
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。
誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。
その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。
胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。
それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。
運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
聞いてた話と何か違う!
きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。
生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!?
聞いてた話と何か違うんですけど!
※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。
他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる