2 / 13
2
しおりを挟む
周辺はどこも混んでいたので、ネットで見つけた少し離れたところにあるおしゃれなバーを二人で訪れた。同窓会の騒がしさから一転、静かで落ち着いた空気に包まれる。
日常に帰って来たような気がするが、向かいには記憶よりずっと大人っぽくなった優輝が座っていて、今がまだ非日常の続きなのだと思い知らされる。あの頃を想起させる優輝の存在と、自分にはまだ不釣り合いに思える大人びたバーが違和感を生んでいる。
背が高くなった。体の線が男らしくなった。声が低くなった。きっと、お互い様だろうけど。
適当なお酒を注文する。優輝の前で失態など犯したくなかったから、弱めのものを選んだ。昔の癖で、優輝がジントニックを頼んだことを記憶に強く刻んでしまう。
優輝が何を飲もうが何を好きだろうが、もう興味などないはずなのに。
「如月、雰囲気変わったね。最初わかんなかったよ」
お互い様ではないだろうか。優輝はパッと見たときの印象はあまり変わらないが、話すと雰囲気が全然違う。
「長谷川くんは今、何やってるの? バスケ続けてる?」
小学生の優輝は地元のクラブチームかなにかに入っていて(俺はスポーツが全然できないのでそういうのはよくわからない)バスケ選手になるのが夢だと話していた。小学生の時の夢をまだ持っている人の方が少ないだろうが、俺は優輝に今でもバスケをしていて欲しかった。陰ながら彼のバスケ選手になりたいという夢を応援していたから。
何の夢も持たない自分の代わりに夢を叶えて欲しいという不純な動機だったが。
「長谷川くん? 優輝でいいよ。昔みたいに」
「あー、うん」
八年ぶりに会ったさして仲良くもなかった相手を下の名前で呼び捨てにするのは大人としてなんとなく抵抗感がある。寧ろなぜ小学生のときはそんなことが出来ていたのだろうか。
「俺も稔って呼ぶからさ」
みのる。中学時代も彼の口から発せられることのなかった音に心臓が跳ねる。当時呼んで欲しかった声とは違うのに。
「で、今何してるかだったよね。大学生だよ。バスケは......脚壊して」
「え」
染み込んでいたほのかな酔いが一気に引いていった。
「ご、ごめん!」
知らなかったとはいえ、恐らく口にしたくはなかったであろうことを言わせてしまった。その証拠に一瞬だけ優輝の表情が歪んだのだ。
「いや、別に。日常生活には支障ないし......。ちなみに今、稔って恋人いるの?」
沈黙が落ちかけて、それを誤魔化すように優輝が口を開いた。その配慮を向こうにさせてしまったことがまた申し訳ない。
明らかに質問がおかしい気がするが。やはり怒っているのだろうか。
「いないよ、もちろん」
「もちろんって何? 稔かっこよくなったじゃん。しかもあの大学でしょ?」
最難関大学、と巷で言われている俺の通う大学の名を優輝は口にした。
一般入試でそこそこ苦労して入った大学だ。でも自分で決めた訳じゃない。やりたいことなんてなかったから、周りに言われるがままに受けて、合格して、通っている大学。
褒められる度なんとなく居たたまれなかった。流されて生きているだけの俺なんて何もすごくないのに、と。
「誰に聞いたの」
「噂になってたよ」
今日誰にも教えていないのに。
そういう情報というのはいつもどこからか漏れる。
ため息を酒と一緒に飲み込む自分はどこか世慣れた大人のようで、同窓会という非日常が少しずつ現実に塗りつぶされてゆく。
日常に帰って来たような気がするが、向かいには記憶よりずっと大人っぽくなった優輝が座っていて、今がまだ非日常の続きなのだと思い知らされる。あの頃を想起させる優輝の存在と、自分にはまだ不釣り合いに思える大人びたバーが違和感を生んでいる。
背が高くなった。体の線が男らしくなった。声が低くなった。きっと、お互い様だろうけど。
適当なお酒を注文する。優輝の前で失態など犯したくなかったから、弱めのものを選んだ。昔の癖で、優輝がジントニックを頼んだことを記憶に強く刻んでしまう。
優輝が何を飲もうが何を好きだろうが、もう興味などないはずなのに。
「如月、雰囲気変わったね。最初わかんなかったよ」
お互い様ではないだろうか。優輝はパッと見たときの印象はあまり変わらないが、話すと雰囲気が全然違う。
「長谷川くんは今、何やってるの? バスケ続けてる?」
小学生の優輝は地元のクラブチームかなにかに入っていて(俺はスポーツが全然できないのでそういうのはよくわからない)バスケ選手になるのが夢だと話していた。小学生の時の夢をまだ持っている人の方が少ないだろうが、俺は優輝に今でもバスケをしていて欲しかった。陰ながら彼のバスケ選手になりたいという夢を応援していたから。
何の夢も持たない自分の代わりに夢を叶えて欲しいという不純な動機だったが。
「長谷川くん? 優輝でいいよ。昔みたいに」
「あー、うん」
八年ぶりに会ったさして仲良くもなかった相手を下の名前で呼び捨てにするのは大人としてなんとなく抵抗感がある。寧ろなぜ小学生のときはそんなことが出来ていたのだろうか。
「俺も稔って呼ぶからさ」
みのる。中学時代も彼の口から発せられることのなかった音に心臓が跳ねる。当時呼んで欲しかった声とは違うのに。
「で、今何してるかだったよね。大学生だよ。バスケは......脚壊して」
「え」
染み込んでいたほのかな酔いが一気に引いていった。
「ご、ごめん!」
知らなかったとはいえ、恐らく口にしたくはなかったであろうことを言わせてしまった。その証拠に一瞬だけ優輝の表情が歪んだのだ。
「いや、別に。日常生活には支障ないし......。ちなみに今、稔って恋人いるの?」
沈黙が落ちかけて、それを誤魔化すように優輝が口を開いた。その配慮を向こうにさせてしまったことがまた申し訳ない。
明らかに質問がおかしい気がするが。やはり怒っているのだろうか。
「いないよ、もちろん」
「もちろんって何? 稔かっこよくなったじゃん。しかもあの大学でしょ?」
最難関大学、と巷で言われている俺の通う大学の名を優輝は口にした。
一般入試でそこそこ苦労して入った大学だ。でも自分で決めた訳じゃない。やりたいことなんてなかったから、周りに言われるがままに受けて、合格して、通っている大学。
褒められる度なんとなく居たたまれなかった。流されて生きているだけの俺なんて何もすごくないのに、と。
「誰に聞いたの」
「噂になってたよ」
今日誰にも教えていないのに。
そういう情報というのはいつもどこからか漏れる。
ため息を酒と一緒に飲み込む自分はどこか世慣れた大人のようで、同窓会という非日常が少しずつ現実に塗りつぶされてゆく。
20
あなたにおすすめの小説
藤崎さんに告白したら藤崎くんに告白してた件
三宅スズ
BL
大学3年生の鈴原純(すずはらじゅん)は、同じ学部内ではアイドル的存在でかつ憧れの藤崎葵(ふじさきあおい)に、酒に酔った勢いに任せてLINEで告白をするが、同じ名字の藤崎遥人(ふじさきはると)に告白のメッセージを誤爆してしまう。
誤爆から始まるBL物語。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
痩せようとか思わねぇの?〜デリカシー0の君は、デブにゾッコン〜
四月一日 真実
BL
ふくよか体型で、自分に自信のない主人公 佐分は、嫌いな陽キャ似鳥と同じクラスになってしまう。
「あんなやつ、誰が好きになるんだよ」と心無い一言を言われたり、「痩せるきねえの?」なんてデリカシーの無い言葉をかけられたり。好きになる要素がない!
__と思っていたが、実は似鳥は、佐分のことが好みどストライクで……
※他サイトにも掲載しています。
人並みに嫉妬くらいします
米奏よぞら
BL
流されやすい攻め×激重受け
高校時代に学校一のモテ男から告白されて付き合ったはいいものの、交際四年目に彼の束縛の強さに我慢の限界がきてしまった主人公のお話です。
薄紅の檻、月下の契り
雪兎
BL
あらすじ
大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。
没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。
しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。
鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。
一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。
冷ややかな契約婚として始まった同居生活。
だが、伊織は次第に知ることになる。
鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。
発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。
伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。
月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。
大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる