何度でも君と

星川過世

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 周辺はどこも混んでいたので、ネットで見つけた少し離れたところにあるおしゃれなバーを二人で訪れた。同窓会の騒がしさから一転、静かで落ち着いた空気に包まれる。
 日常に帰って来たような気がするが、向かいには記憶よりずっと大人っぽくなった優輝が座っていて、今がまだ非日常の続きなのだと思い知らされる。あの頃を想起させる優輝の存在と、自分にはまだ不釣り合いに思える大人びたバーが違和感を生んでいる。
 背が高くなった。体の線が男らしくなった。声が低くなった。きっと、お互い様だろうけど。
 適当なお酒を注文する。優輝の前で失態など犯したくなかったから、弱めのものを選んだ。昔の癖で、優輝がジントニックを頼んだことを記憶に強く刻んでしまう。
 優輝が何を飲もうが何を好きだろうが、もう興味などないはずなのに。
 「如月、雰囲気変わったね。最初わかんなかったよ」
 お互い様ではないだろうか。優輝はパッと見たときの印象はあまり変わらないが、話すと雰囲気が全然違う。
 「長谷川くんは今、何やってるの? バスケ続けてる?」
 小学生の優輝は地元のクラブチームかなにかに入っていて(俺はスポーツが全然できないのでそういうのはよくわからない)バスケ選手になるのが夢だと話していた。小学生の時の夢をまだ持っている人の方が少ないだろうが、俺は優輝に今でもバスケをしていて欲しかった。陰ながら彼のバスケ選手になりたいという夢を応援していたから。
 何の夢も持たない自分の代わりに夢を叶えて欲しいという不純な動機だったが。
 「長谷川くん? 優輝でいいよ。昔みたいに」
 「あー、うん」
 八年ぶりに会ったさして仲良くもなかった相手を下の名前で呼び捨てにするのは大人としてなんとなく抵抗感がある。寧ろなぜ小学生のときはそんなことが出来ていたのだろうか。
 「俺も稔って呼ぶからさ」
 みのる。中学時代も彼の口から発せられることのなかった音に心臓が跳ねる。当時呼んで欲しかった声とは違うのに。
 「で、今何してるかだったよね。大学生だよ。バスケは......脚壊して」
 「え」
 染み込んでいたほのかな酔いが一気に引いていった。
 「ご、ごめん!」
 知らなかったとはいえ、恐らく口にしたくはなかったであろうことを言わせてしまった。その証拠に一瞬だけ優輝の表情が歪んだのだ。
 「いや、別に。日常生活には支障ないし......。ちなみに今、稔って恋人いるの?」
 沈黙が落ちかけて、それを誤魔化すように優輝が口を開いた。その配慮を向こうにさせてしまったことがまた申し訳ない。
 明らかに質問がおかしい気がするが。やはり怒っているのだろうか。
 「いないよ、もちろん」
 「もちろんって何? 稔かっこよくなったじゃん。しかもあの大学でしょ?」
 最難関大学、と巷で言われている俺の通う大学の名を優輝は口にした。
 一般入試でそこそこ苦労して入った大学だ。でも自分で決めた訳じゃない。やりたいことなんてなかったから、周りに言われるがままに受けて、合格して、通っている大学。
 褒められる度なんとなく居たたまれなかった。流されて生きているだけの俺なんて何もすごくないのに、と。
 「誰に聞いたの」
 「噂になってたよ」
 今日誰にも教えていないのに。
 そういう情報というのはいつもどこからか漏れる。
 ため息を酒と一緒に飲み込む自分はどこか世慣れた大人のようで、同窓会という非日常が少しずつ現実に塗りつぶされてゆく。
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