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ため息を飲み込んだ俺に気付くこともなく、優輝は屈託なく続ける。
「地味に遠いよね、今一人暮らし? 」
「うん。アパート借りて一人暮らし」
「えー行ってみたい」
かなり飲んでいるのが顔色でわかった。水を頼もうと思ったところで優輝が口を開く。
「このあと連れて行ってよ」
先ほどとは違い、明らかに社交辞令やその場のノリと言った感じではなかった。
アルコールのせいか、瞳が潤んでいる。テーブルに顎を乗せるようにしてこちらを上目遣いに見つめていた。
優輝はなぜわざわざバーなんて洒落たところで飲もうと思ったのか。きっと大した意味などないのに、勘繰ってしまう。優輝とバー、違和感のあった組み合わせが急に調和した。
「なにしても怒んないから、さ......」
自分の喉がゴクリと音を鳴すのが聞こえる。血の巡りが早くなって、思考がまとまらない。
「酔っているときの同意は同意と見做しません」
まあ俺も少しは酔っているが。昔優輝のことを一方的に好きだった以上、なんとなくフェアでない気がするのだ。
「真面目かよ!」
「そうだよ」
昔からそうだっただろ、と口をつきそうになったが、知らなかったら気まずくなりそうなのでやめた。
俺たちは元々こうやって向かい合って長時間喋るような関係ではなかったのだ。今日は例外みたいなもので。
それでも、動揺を言い訳にして呟くように言った。
「素面の時だったら、いいよ」
言ったあとで、この流れで言うとただアパートに呼ぶだけのつもりだったのにまるで“そういうこと”込みのお誘いをしたように聞こえたのではないかと焦ったが、優輝は無邪気に笑っていた。
「じゃ、連絡先交換しよ!」
「持ってるよ......」
「え、なんで?」
「中学生のときに交換しただろ......」
優輝がまだ持っているかはわからなかったが、しばしスマホを弄った後、「あ、ほんとだ」と返ってきた。面倒で消していなかっただけだとしても少し嬉しい。俺は幾度の連絡先整理で優輝の名前をいつまでも消せなかったから。クラスで唯一私立の中学に進学した俺は中学に入ってすぐにスマホを持つ元クラスメイト全員に連絡先をもらった。当時はスマホを持っている中学生は珍しかったので、大して仲良くなくてもみんなテンションが上がって連絡先を交換したのだ。
「じゃあ、今度絶対にアパート連れて行ってね」
「わかったって」
しばらく下らない話が続いた。中学時代の思い出話に始まり、最近あったおもしろエピソード、バイト先の愚痴、芸能人の好き嫌い。
意外にもすんなりと言葉が出てきた。ここが狭い教室でないからかもしれないし、二人とも大人になったからかもしれない。
店を出た所で、優輝が上目遣いに俺を見た。いつの間にか俺の方が身長が高くなっていたことに今更気が付く。
「ねぇ、稔って今、好きな人居るの」
「え、居ないけど」
「ほんとっ!?」
優輝の手が伸びてきて、俺の手を掴む。心臓が大きな音を立てて鳴った。
「久しぶりに会ったら、本当にかっこよくなってたからさ! 連絡するから、また会ってね! 絶対!」
優輝が笑顔で手を振って駅に消えた。一月なのにやけに暑かった。
どういう意味だろうか。今更。
「地味に遠いよね、今一人暮らし? 」
「うん。アパート借りて一人暮らし」
「えー行ってみたい」
かなり飲んでいるのが顔色でわかった。水を頼もうと思ったところで優輝が口を開く。
「このあと連れて行ってよ」
先ほどとは違い、明らかに社交辞令やその場のノリと言った感じではなかった。
アルコールのせいか、瞳が潤んでいる。テーブルに顎を乗せるようにしてこちらを上目遣いに見つめていた。
優輝はなぜわざわざバーなんて洒落たところで飲もうと思ったのか。きっと大した意味などないのに、勘繰ってしまう。優輝とバー、違和感のあった組み合わせが急に調和した。
「なにしても怒んないから、さ......」
自分の喉がゴクリと音を鳴すのが聞こえる。血の巡りが早くなって、思考がまとまらない。
「酔っているときの同意は同意と見做しません」
まあ俺も少しは酔っているが。昔優輝のことを一方的に好きだった以上、なんとなくフェアでない気がするのだ。
「真面目かよ!」
「そうだよ」
昔からそうだっただろ、と口をつきそうになったが、知らなかったら気まずくなりそうなのでやめた。
俺たちは元々こうやって向かい合って長時間喋るような関係ではなかったのだ。今日は例外みたいなもので。
それでも、動揺を言い訳にして呟くように言った。
「素面の時だったら、いいよ」
言ったあとで、この流れで言うとただアパートに呼ぶだけのつもりだったのにまるで“そういうこと”込みのお誘いをしたように聞こえたのではないかと焦ったが、優輝は無邪気に笑っていた。
「じゃ、連絡先交換しよ!」
「持ってるよ......」
「え、なんで?」
「中学生のときに交換しただろ......」
優輝がまだ持っているかはわからなかったが、しばしスマホを弄った後、「あ、ほんとだ」と返ってきた。面倒で消していなかっただけだとしても少し嬉しい。俺は幾度の連絡先整理で優輝の名前をいつまでも消せなかったから。クラスで唯一私立の中学に進学した俺は中学に入ってすぐにスマホを持つ元クラスメイト全員に連絡先をもらった。当時はスマホを持っている中学生は珍しかったので、大して仲良くなくてもみんなテンションが上がって連絡先を交換したのだ。
「じゃあ、今度絶対にアパート連れて行ってね」
「わかったって」
しばらく下らない話が続いた。中学時代の思い出話に始まり、最近あったおもしろエピソード、バイト先の愚痴、芸能人の好き嫌い。
意外にもすんなりと言葉が出てきた。ここが狭い教室でないからかもしれないし、二人とも大人になったからかもしれない。
店を出た所で、優輝が上目遣いに俺を見た。いつの間にか俺の方が身長が高くなっていたことに今更気が付く。
「ねぇ、稔って今、好きな人居るの」
「え、居ないけど」
「ほんとっ!?」
優輝の手が伸びてきて、俺の手を掴む。心臓が大きな音を立てて鳴った。
「久しぶりに会ったら、本当にかっこよくなってたからさ! 連絡するから、また会ってね! 絶対!」
優輝が笑顔で手を振って駅に消えた。一月なのにやけに暑かった。
どういう意味だろうか。今更。
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