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従姉の紗雪が最近、ホストにハマっているらしい。
ハマっている、とは言っても娯楽の一つとして適度に楽しんでいるようだ。
「それでね、この人が私の担当なんだけど」
「ふんふん」
差し出されたスマホの画面には紗雪と共に、王道イケメンと言って差し支えない男性が映っていた。
「雄飛って言うの」
顔がどことなく以前紗雪が好きだったアイドルに似ている。と言っても彼に似ているからこの雄飛さんとやらを気に入ったわけではなく、もともとこういうルックスが好みなのだろう。紗雪は他の人に重ねるほど誰かに未練を残したりしない。
適切なタイミングで解説を交えながらホストクラブが楽しいと話す紗雪の語り口は聞いていて心地よく、面白かった。紗雪は俺と違って話上手だ。姉弟同然に育ったのに、全然似ていない。
その話の上手さは紗雪からホストクラブと聞いて「なんか怖そう」と咄嗟に思った俺を「なんか楽しそう」と思わせるほどのものだ。営業職に就けばいいのに、と無責任なことを考える。
「興味出てきた? 歩夢も一緒に行く?」
もしかして俺は誘導されたのだろうか。一緒に行く友達などいっぱい居るだろうに。
「うーん、でもなんか怖そうだし」
できるだけ無関心を装って言う。
「適度に遊ぶ分には大丈夫だよ。私も一緒に居るんだし、色々教えてあげるから」
その「適度に」が難しい人間がこの世の大多数だということを理解できないのが紗雪の長所であり短所だ。
「というか、男でも行っていいものなの?」
言ってから、これではまるで行く気があるみたいではないかと思った。いや、実際あるのだけれど。紗雪も気が付いたらしく、にっこりと良い顔で笑う。まるでこの世には日向しかないみたいな笑顔。
「私が一緒に行けば大丈夫」
「へぇ」
紗雪がスマホを触ったかと思うと、俺のスマホがピコン、と鳴った。
「......」
ホストクラブのホームページへのリンクが送られてきている。
夜の繁華街と言うのは、非日常感が凄い。当たり前だが繁華街は毎日ずっとそこに存在し、夜は毎日来る。だから夜の繁華街というものは一日に一回必ず誕生するので非日常でも何でもないはずなのだが。いや、それを言ったら毎日どこかで誰かの結婚式をしているし、某テーマパークは二十四時間三百六十五日存在するのか。
などとくだらないことを考えながらキョロキョロしていると、「キョロキョロしてると客引きに捕まるからまっすぐ歩いて」と紗雪に注意された。
光り輝くネオン、こういうところでしか見かけない服装の人々、酒と煙草と香水のにおい。
紗雪に手首を掴まれ引きずられるように目的地へとたどり着く。店に入ってからもヒールを履いても俺より十センチ近く小さい紗雪の背中に隠れるようにしか動けなかった。
ネットで基本的なことは調べてきたが、俺はいつも知識だけで特に活かせないタイプである。
雄飛さんは写真通りのイケメンだ。親し気に話始めた二人を横目に、俺は次々とやってくるホストの方々の輝きにより消し炭になりそうだった。
自己紹介をされるものの何も頭に入ってこない。もちろん気の利いたセリフどころか相槌ひとつまともに打てやしない。
楽しいと思う余裕もなかった。こうなることは予想できただろうに、どうして来てしまったのだろう。
「はじめまして~、零夜です」
「あ、は、はじめまして」
という声がきちんと言葉になっていたかはわからない。
「さゆちゃんのお友達?」
「従弟、です」
「へぇ、従姉弟同士で仲がいいなんていいね!」
「ど、うも......」
「緊張してる?」
無意識のうちに俯いていたらしい俺の顔を零夜さんがのぞき込んでくる。友達も少ないし恋人が居たのも数年前なので紗雪以外の顔をこんなに間近で見たのは久しぶりだ。
ちょっとドキッとした。結構顔、好みかもしれない。
というかこの人、距離近くない?
離れてほしくて顔を上げた。マイナスな意味ではなく、心臓に負荷がかかりそうだからだ。
かっこいい。某事務所のアイドル系のイケメンだ。髪を青に染めている。
「してます、緊張......」
するっと言葉が出てきた。
「こういうとこって初めてだと緊張するよねぇ。雰囲気も独特だし。俺も初めて来たときビビった」
語尾に(笑)とでも付きそうな話し方だった。こういう軽いタイプは苦手なはずだが、緊張している今はなんだかこの軽さに安心する。
「でもさ、最初は怖く見えるかもしれないけど、段々この雰囲気も悪くないなって思えるようになるんだよね」
この場所が愛おしくて仕方ない、そんな感情の滲む顔をしていた。その表情になんだか惹かれる。
「あ、名前聞いてなかったね」
「アユム、です」
「アユムくん? ......くん?」
「はい」
「男のお客さん珍しいからわくわくするなぁ。もっと話したいから指名してくれると嬉しい」
それだけ言うと次の人と交代した。その笑顔に好感が持てたのか、もうこの人に好感を持ってしまっていたから笑顔まで魅力的に映ったのかはわからない。
ハマっている、とは言っても娯楽の一つとして適度に楽しんでいるようだ。
「それでね、この人が私の担当なんだけど」
「ふんふん」
差し出されたスマホの画面には紗雪と共に、王道イケメンと言って差し支えない男性が映っていた。
「雄飛って言うの」
顔がどことなく以前紗雪が好きだったアイドルに似ている。と言っても彼に似ているからこの雄飛さんとやらを気に入ったわけではなく、もともとこういうルックスが好みなのだろう。紗雪は他の人に重ねるほど誰かに未練を残したりしない。
適切なタイミングで解説を交えながらホストクラブが楽しいと話す紗雪の語り口は聞いていて心地よく、面白かった。紗雪は俺と違って話上手だ。姉弟同然に育ったのに、全然似ていない。
その話の上手さは紗雪からホストクラブと聞いて「なんか怖そう」と咄嗟に思った俺を「なんか楽しそう」と思わせるほどのものだ。営業職に就けばいいのに、と無責任なことを考える。
「興味出てきた? 歩夢も一緒に行く?」
もしかして俺は誘導されたのだろうか。一緒に行く友達などいっぱい居るだろうに。
「うーん、でもなんか怖そうだし」
できるだけ無関心を装って言う。
「適度に遊ぶ分には大丈夫だよ。私も一緒に居るんだし、色々教えてあげるから」
その「適度に」が難しい人間がこの世の大多数だということを理解できないのが紗雪の長所であり短所だ。
「というか、男でも行っていいものなの?」
言ってから、これではまるで行く気があるみたいではないかと思った。いや、実際あるのだけれど。紗雪も気が付いたらしく、にっこりと良い顔で笑う。まるでこの世には日向しかないみたいな笑顔。
「私が一緒に行けば大丈夫」
「へぇ」
紗雪がスマホを触ったかと思うと、俺のスマホがピコン、と鳴った。
「......」
ホストクラブのホームページへのリンクが送られてきている。
夜の繁華街と言うのは、非日常感が凄い。当たり前だが繁華街は毎日ずっとそこに存在し、夜は毎日来る。だから夜の繁華街というものは一日に一回必ず誕生するので非日常でも何でもないはずなのだが。いや、それを言ったら毎日どこかで誰かの結婚式をしているし、某テーマパークは二十四時間三百六十五日存在するのか。
などとくだらないことを考えながらキョロキョロしていると、「キョロキョロしてると客引きに捕まるからまっすぐ歩いて」と紗雪に注意された。
光り輝くネオン、こういうところでしか見かけない服装の人々、酒と煙草と香水のにおい。
紗雪に手首を掴まれ引きずられるように目的地へとたどり着く。店に入ってからもヒールを履いても俺より十センチ近く小さい紗雪の背中に隠れるようにしか動けなかった。
ネットで基本的なことは調べてきたが、俺はいつも知識だけで特に活かせないタイプである。
雄飛さんは写真通りのイケメンだ。親し気に話始めた二人を横目に、俺は次々とやってくるホストの方々の輝きにより消し炭になりそうだった。
自己紹介をされるものの何も頭に入ってこない。もちろん気の利いたセリフどころか相槌ひとつまともに打てやしない。
楽しいと思う余裕もなかった。こうなることは予想できただろうに、どうして来てしまったのだろう。
「はじめまして~、零夜です」
「あ、は、はじめまして」
という声がきちんと言葉になっていたかはわからない。
「さゆちゃんのお友達?」
「従弟、です」
「へぇ、従姉弟同士で仲がいいなんていいね!」
「ど、うも......」
「緊張してる?」
無意識のうちに俯いていたらしい俺の顔を零夜さんがのぞき込んでくる。友達も少ないし恋人が居たのも数年前なので紗雪以外の顔をこんなに間近で見たのは久しぶりだ。
ちょっとドキッとした。結構顔、好みかもしれない。
というかこの人、距離近くない?
離れてほしくて顔を上げた。マイナスな意味ではなく、心臓に負荷がかかりそうだからだ。
かっこいい。某事務所のアイドル系のイケメンだ。髪を青に染めている。
「してます、緊張......」
するっと言葉が出てきた。
「こういうとこって初めてだと緊張するよねぇ。雰囲気も独特だし。俺も初めて来たときビビった」
語尾に(笑)とでも付きそうな話し方だった。こういう軽いタイプは苦手なはずだが、緊張している今はなんだかこの軽さに安心する。
「でもさ、最初は怖く見えるかもしれないけど、段々この雰囲気も悪くないなって思えるようになるんだよね」
この場所が愛おしくて仕方ない、そんな感情の滲む顔をしていた。その表情になんだか惹かれる。
「あ、名前聞いてなかったね」
「アユム、です」
「アユムくん? ......くん?」
「はい」
「男のお客さん珍しいからわくわくするなぁ。もっと話したいから指名してくれると嬉しい」
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