ネオン街で会いましょう

星川過世

文字の大きさ
16 / 16

side零夜 自覚

しおりを挟む
 その時、控室には俺と雄飛しか居なかった。
 「あのさ、お前の客のアユムくんって居るじゃん」
 「うん。居るね」
 「あー、その、あんまこういうこと聞くの良くないかもしれないけど、お前あの客が好きなのか?」
 「はい?」
 予想外の発言にスマホを弄っていた手が止まる。
 「いや、なんかアユムくんにだけ他の客と態度違うなっていうか」
 「男と女で態度同じ人の方が少なくない?」
 「いや、そうなんだけど」
 雄飛はしばらく口の中でもにょもにょ言ったあと、再び口を開いた。
 「俺も一応ホストだからさ、営業については理解してるんだよ。でもだからこそ、零夜のアユムくんへの態度ってちょっと私情が入ってる感じがするというか」
 「な、なにそれ」
 声が震えたのは的外れな発言に傷ついたからではない。自覚があったところを突かれたからだ。
 アユムと居ると、心地良い。仕事なんて関係なく、ずっと一緒に居たいと思う。
 実際計算も駆け引きもなく、仕事の後や休日に予定がなければアユムに会いに行ってしまう。喜んでほしいから、気合を入れて料理なんてしてしまう。
 俺がなりたかったホストはそんなことしない。仕事にも客にも真摯でありたい。だからこんなではいけないのだ。
 でも、なんでそうなってしまうのだろう。
 雄飛の一連の発言が頭の中でパチパチと弾ける。
 「俺、アユムのこと好きなのかな」
 「は? 俺が知るかよ......」
 呆れたような言葉を返されてしまう。そりゃそうだ。そんなもの本人、今回の場合は俺にしかわからない。
 今は俺にもわからない、だが。
 「ま、仕事に支障が出なきゃいいから」
 「うん」
 これは気を引き締めなくてはいけない。元よりこの仕事に向いていない自覚はあるから、その分努力で補わなくてはいけないのだ。
 身支度を整え控室を出る。
 俺、アユムのこと好きなのかな。
 先ほど雄飛に投げつけた問いを今度は自分に向けてみる。考えてもよくわからなかった。
 俺は恋というものをしたことがない。だから男が好きとか女が好きとかもよくわからない。性欲は人並みにあるが、視覚情報で興奮するというのがよくわからなかった。アユムと寝るまでは。

 アユムのパソコンを勝手に見てしまった。悪いことだ。わかっている。
 しかし普段から節約節約と言っておきながらパソコンを付けたまま仕事に行ってしまったアユムにも非はあるではないだろうか? ......ないか。
 ともかく画面には体を売る仕事の求人が並んでいた。
 最近はこういうのがよく広告に出るから、間違えて押してしまったのかもしれない。しかし今日からどこぞの風俗店に体験入店を始めると言っていた客を思い出した。ホストクラブの料金はお世辞にも安くない。その中で一番になろうとしてくれる子の中には体を売っている子が少なくなかった。
 それゆえ、こういう業界には慣れている。自分も場合によってはあまりいい印象を持たれない仕事をしているので親しみを持っているくらいだった。
 しかしアユムがそういう職業に就くところを想像すると、どうしようもない不快感が押し寄せてくる。もちろん職業に対しての嫌悪感ではない。
 ただ、アユムが他の人に触れられ、あんな可愛い姿を見せているところを想像したらどろっとしたものが体の中でうごめく感覚があった。
 あの姿を見るのは俺だけでいい。あの体に触るのも、俺だけで。
 アユムが姉のようだと語るさゆちゃんにさえみっともなく嫉妬してしまうのに、体を売るなんて冗談じゃない。
 そういえば、アユムは俺が誰と会っても誰と寝ても嫌そうな顔はしない。当然か。ホストとはそういうものだと、最初からわかっていたはずだ。
 しかしおもしろくない。アユムも俺みたいに、とまではいかなくともヤキモチくらい焼いてほしい。俺ばかり好きみたいだ。
 ......俺ばかり好き?
 いや、まだ俺がアユムを好きだと決まったわけではない。
 「ああ、もう! わけわかんない!」
 思わず一人の部屋で声に出して叫んだ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません

ユッキー
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。 全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

ナイショな家庭訪問

石月煤子
BL
■美形先生×平凡パパ■ 「いい加減、おわかりになりませんか、進藤さん」 「俺、中卒なんで、キビとかカテとか、わかんないです」 「貴方が好きです」 ■イケメンわんこ先生×ツンデレ美人パパ■ 「前のお宅でもこんな粗相を?」 「まさか。そんなわけありませんって。知永さんだから……です」 ◆我が子の担任×シングルファーザー/すけべmain◆ 表紙イラストは[ジュエルセイバーFREE]様のフリーコンテンツを利用しています http://www.jewel-s.jp/

【BL】SNSで出会ったイケメンに捕まるまで

久遠院 純
BL
タイトル通りの内容です。 自称平凡モブ顔の主人公が、イケメンに捕まるまでのお話。 他サイトでも公開しています。

処理中です...