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ヤクザの娘になりまして
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立派な屋敷の目の前に母と二人並び立つ。屋敷の門には達筆な文字で『佐渡組』と書かれた札が下げられている。
私は隣にいる母を見つめて口を開いた。
「母さん、ここなの?」
私の問いに母はにっこりと笑うと頷いて言った。
「そうよ。ここの組長が貴女の新しいお父さんよ」
あっけらかんと告げられた母の言葉に痛み出した額を押さえて、私は深いため息を吐いた。
私はヤクザの娘になったらしい。
***
かこん、と鹿威しの音が庭に響く。
事前に私達について話は通っていたのか、インターホンを押すと門から顔を出した強面の男に広い部屋へと案内された。
床の間には掛け軸や立派な日本刀が置かれ、いかにもな部屋である。
「しばらくお待ち下さい」
私達を案内してくれた強面の男はそう言うと一礼して部屋を出て行った。新しい父親である組長を呼びに行ったのだろう。
座るように勧められた座布団の柔らかさを堪能しながら、母と二人部屋を見渡す。
「大きな部屋ね、冬華」
「そうだね。それよりもなんで再婚相手学園長ヤクザの組長だって教えてくれなかったの?」
「冬華を驚かせようと思ったのよ。全然驚かなかったけど」
「母さん•••」
私の問いに返ってきた母の言葉にがくりと肩を落とす。こんな重大な事を私を驚かせるなんて軽い気持ちで隠さないでほしい。昔から変わることのない母のお茶目な一面に脱力する。
女手一つでここまで私を育ててくれた母が再婚すると聞いた時は嬉しかった。母が幸せになれるのなら相手がどんな人でも受け入れるとは決めていたが、まさかヤクザの組長とは思わなかった。まぁ、SMクラブのナンバーワン女王様だった母の相手が普通であるはずがないのだけれど。
「組長が参られました」
庭とは反対側の襖から男の声が聞こえた。さっきの強面の男である。姿勢を正し、開かれる襖に目を向ける。現れたのはナイスミドルな男だった。
庶民の私でもわかるくらい上等な深緑の着物を着込み、後ろに流された黒髪は艶やかである。向けられた鋭い眼は金色に輝いていた。
想像していた組長とはかけ離れた男の姿に密かに驚く。組長というので歳をくっていると思っていたのだが、存外若い人である。
私達に対面する位置に敷かれた座布団へと組長はどかりと座る。案内をしてきた男は早々に立ち去ったのか、この部屋には私達母娘と組長の三人だけになった。
「私が佐渡組組長の佐渡四季だ。よろしく頼む」
しん、と静まり返った部屋に組長の低い声が響く。無表情に告げられたその言葉に、ひくりと口の端が引き攣る。歓迎の意思を全然感じないんだけど、と内心呟きながらも挨拶を返そうと私は口を開いた。
「よろしくお願い「ねぇ、四季さん」•••母さん?」
被せられた母の言葉に首を傾げる。どうしたのかと母を見れば、母はにっこりとわらっていた。そう、嗤っていたのだ。
「なぁに、その態度は」
冷え冷えとしたその声色に、母のスイッチが入ってしまったのだと悟る。こうなったらもう私に母は止められない。元凶である組長に母を受け止めてもらおうと、私は傍観態勢をとる。
「雪子さん•••♡」
母の冷たい視線に組長は恍惚とした表情を浮かべて呟いた。瞬間私は察する。彼は母に調教されていたのだと。
「あんなに躾けてあげたのに、もう忘れてしまったのかしら?」
「わ、忘れてない!」
「そう。だったらやり直しなさい」
冷たく言い放つ母を見つめながら組長はうっとりとした表情で頷く。私は何を見せられているんだろうか。勝手に盛り上がっていく二人を冷めた目で見つめる。
「よろしく、お願いします」
「•••こちらこそ、よろしくお願いします」
私に向き直り深く頭を下げた組長に、私はそう返すしかなかった。
頭を上げた組長は母を見つめると、鋭い金色の瞳を甘く揺らめかせる。蜂蜜のような甘さを孕んだ視線は目に毒だ。私は慣れているけど。
「ごめんね、冬華。ちゃんと躾けたのに四季さんがあんな態度をとって」
「いや、気にしてないよ。でも調教した人と再婚するとは思わなかった。母さんいつも調教した人は犬として扱うから恋愛対象にはならないんじゃなかったっけ?」
「そうなんだけどね。四季さんったら執着がすごくて、私が結婚に了承しないと周りに害を与える駄犬だったから首輪を締めとかないと危ないのよ」
母の口から聞かされる再婚の真相に空いた口が塞がらない。ドMでヤンデレなヤクザの組長ってパワーワードすぎる。やっぱりヤバい人しかいないんだな、母さんの客って。
つい、と母から組長へ視線を移す。これが父親になるのかぁ。
「雪子さん•••」
「なぁに?四季さん」
「もしかして冬華ちゃんは•••」
「•••あぁ、冬華は生粋のドSよ。私よりもスゴイんじゃないかしら。四季さん虐めてもらったら?」
「待って、私が嫌なんだけど。それに私はドSじゃない」
組長と母の会話に思わず口を出す。誰が好き好んで父親になる人を虐めるんだ。二人のSMプレイに私を巻き込まないで欲しい。私は普通の女子高生だぞ?
「えっと、四季さんもしっかりとしてもらえます?まだ大事な話の途中ですし、母に躾けてもらいたいなら後にして下さい。私も暇ではないので」
「はぁ•••、最高だ」
「四季さん、冬華の言うことを聞いてた?」
「はい」
母の言葉に座り直す組長。入室した時の威厳ある姿はもう何処にもなかった。これからも母さんにはしっかり手綱を引いといてもらわないといけないな、この様子だと。
なんて思いながら、私は組長に向き直ると姿勢を正して口を開く。
「冬華です。これからよろしくお願いお願い致します」
「改めてよろしくお願いします。四季さん」
母と並んで頭を下げた。どんな相手でも敬意をはらう、これは母から教わったこと。
普段はお茶目な母だけど、礼儀には人一倍厳しかった。怖い、と思ったこともあったけど人として大事な事を教えてくれた母をとても尊敬している。•••女王様だけど。
だから私はその教えを守り続けるんだ。
「顔を上げてくれ、二人共」
組長の言葉に従い、顔を上げる。彼は私達が顔を見つめると小さく笑って口を開いた。
「雪子さんと冬華ちゃんは私が絶対に守るから、安心して家族になってほしい」
そう言った組長は、ヤクザの組長の名に恥じない威厳に満ちた姿をしていた。
私は隣にいる母を見つめて口を開いた。
「母さん、ここなの?」
私の問いに母はにっこりと笑うと頷いて言った。
「そうよ。ここの組長が貴女の新しいお父さんよ」
あっけらかんと告げられた母の言葉に痛み出した額を押さえて、私は深いため息を吐いた。
私はヤクザの娘になったらしい。
***
かこん、と鹿威しの音が庭に響く。
事前に私達について話は通っていたのか、インターホンを押すと門から顔を出した強面の男に広い部屋へと案内された。
床の間には掛け軸や立派な日本刀が置かれ、いかにもな部屋である。
「しばらくお待ち下さい」
私達を案内してくれた強面の男はそう言うと一礼して部屋を出て行った。新しい父親である組長を呼びに行ったのだろう。
座るように勧められた座布団の柔らかさを堪能しながら、母と二人部屋を見渡す。
「大きな部屋ね、冬華」
「そうだね。それよりもなんで再婚相手学園長ヤクザの組長だって教えてくれなかったの?」
「冬華を驚かせようと思ったのよ。全然驚かなかったけど」
「母さん•••」
私の問いに返ってきた母の言葉にがくりと肩を落とす。こんな重大な事を私を驚かせるなんて軽い気持ちで隠さないでほしい。昔から変わることのない母のお茶目な一面に脱力する。
女手一つでここまで私を育ててくれた母が再婚すると聞いた時は嬉しかった。母が幸せになれるのなら相手がどんな人でも受け入れるとは決めていたが、まさかヤクザの組長とは思わなかった。まぁ、SMクラブのナンバーワン女王様だった母の相手が普通であるはずがないのだけれど。
「組長が参られました」
庭とは反対側の襖から男の声が聞こえた。さっきの強面の男である。姿勢を正し、開かれる襖に目を向ける。現れたのはナイスミドルな男だった。
庶民の私でもわかるくらい上等な深緑の着物を着込み、後ろに流された黒髪は艶やかである。向けられた鋭い眼は金色に輝いていた。
想像していた組長とはかけ離れた男の姿に密かに驚く。組長というので歳をくっていると思っていたのだが、存外若い人である。
私達に対面する位置に敷かれた座布団へと組長はどかりと座る。案内をしてきた男は早々に立ち去ったのか、この部屋には私達母娘と組長の三人だけになった。
「私が佐渡組組長の佐渡四季だ。よろしく頼む」
しん、と静まり返った部屋に組長の低い声が響く。無表情に告げられたその言葉に、ひくりと口の端が引き攣る。歓迎の意思を全然感じないんだけど、と内心呟きながらも挨拶を返そうと私は口を開いた。
「よろしくお願い「ねぇ、四季さん」•••母さん?」
被せられた母の言葉に首を傾げる。どうしたのかと母を見れば、母はにっこりとわらっていた。そう、嗤っていたのだ。
「なぁに、その態度は」
冷え冷えとしたその声色に、母のスイッチが入ってしまったのだと悟る。こうなったらもう私に母は止められない。元凶である組長に母を受け止めてもらおうと、私は傍観態勢をとる。
「雪子さん•••♡」
母の冷たい視線に組長は恍惚とした表情を浮かべて呟いた。瞬間私は察する。彼は母に調教されていたのだと。
「あんなに躾けてあげたのに、もう忘れてしまったのかしら?」
「わ、忘れてない!」
「そう。だったらやり直しなさい」
冷たく言い放つ母を見つめながら組長はうっとりとした表情で頷く。私は何を見せられているんだろうか。勝手に盛り上がっていく二人を冷めた目で見つめる。
「よろしく、お願いします」
「•••こちらこそ、よろしくお願いします」
私に向き直り深く頭を下げた組長に、私はそう返すしかなかった。
頭を上げた組長は母を見つめると、鋭い金色の瞳を甘く揺らめかせる。蜂蜜のような甘さを孕んだ視線は目に毒だ。私は慣れているけど。
「ごめんね、冬華。ちゃんと躾けたのに四季さんがあんな態度をとって」
「いや、気にしてないよ。でも調教した人と再婚するとは思わなかった。母さんいつも調教した人は犬として扱うから恋愛対象にはならないんじゃなかったっけ?」
「そうなんだけどね。四季さんったら執着がすごくて、私が結婚に了承しないと周りに害を与える駄犬だったから首輪を締めとかないと危ないのよ」
母の口から聞かされる再婚の真相に空いた口が塞がらない。ドMでヤンデレなヤクザの組長ってパワーワードすぎる。やっぱりヤバい人しかいないんだな、母さんの客って。
つい、と母から組長へ視線を移す。これが父親になるのかぁ。
「雪子さん•••」
「なぁに?四季さん」
「もしかして冬華ちゃんは•••」
「•••あぁ、冬華は生粋のドSよ。私よりもスゴイんじゃないかしら。四季さん虐めてもらったら?」
「待って、私が嫌なんだけど。それに私はドSじゃない」
組長と母の会話に思わず口を出す。誰が好き好んで父親になる人を虐めるんだ。二人のSMプレイに私を巻き込まないで欲しい。私は普通の女子高生だぞ?
「えっと、四季さんもしっかりとしてもらえます?まだ大事な話の途中ですし、母に躾けてもらいたいなら後にして下さい。私も暇ではないので」
「はぁ•••、最高だ」
「四季さん、冬華の言うことを聞いてた?」
「はい」
母の言葉に座り直す組長。入室した時の威厳ある姿はもう何処にもなかった。これからも母さんにはしっかり手綱を引いといてもらわないといけないな、この様子だと。
なんて思いながら、私は組長に向き直ると姿勢を正して口を開く。
「冬華です。これからよろしくお願いお願い致します」
「改めてよろしくお願いします。四季さん」
母と並んで頭を下げた。どんな相手でも敬意をはらう、これは母から教わったこと。
普段はお茶目な母だけど、礼儀には人一倍厳しかった。怖い、と思ったこともあったけど人として大事な事を教えてくれた母をとても尊敬している。•••女王様だけど。
だから私はその教えを守り続けるんだ。
「顔を上げてくれ、二人共」
組長の言葉に従い、顔を上げる。彼は私達が顔を見つめると小さく笑って口を開いた。
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