HEAVENS HEARTS

HI-ROCKS

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SPEED 04 平穏の驚駭

SPEED 04-08

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「お前……そんなことも知らず飛び出そうとしてたのか?」

「なんやっ!その興醒めな面(ツラ)は!」

「そりゃ興も醒めるぜ。全てを知らずあれだけ頭に血を昇らせたってんだからな。奪われた経緯を知れば卒倒すんじゃねぇかお前?」

「人を瞬間湯沸かし器みたいに言いやがって……ええからハナシ続けろや」

「つもりだが話の途中で逆上するなよ。ところで……瞬間湯沸かし器って例えは何だ?今時ダレもわからんぜ」

「俺は骨董品か?お前には通じとるやんけ!ハヨ話せや」

カルナの右の掌(てのひら)がくどいとばかりに翻る。

「それみろ、もう頭にきてんじゃねぇかよ」

「ああもうっジレったいわね!あんた達が絡むと進む話も進まないわ」

途端、二人が月華に視線を置いたまま互いを指差した。人身御供(ひとみごくう)を選ぶように。

「二人ともホンッッッマッ!そういうトコ全然進歩してへんな」

エルナは昔と変わらぬ情景を傍観し、懐かしさと嘲笑を籠(こ)めた。

「エルナの言う通りね。本当オトコって生き物は……カルも早く話を進めたいんならチャント聞きなさいよね」

「今のは俺とちゃ……はい!大人しく……」

カルナは気圧された。弁解を睨む目に。

「御父様が製薬グループで事実上、実権を握ったのが約半年前。刻(とき)同じくしての接触者達は、祖国に蔓延する難病にて苦界に喘ぐ民を是非とも特効薬の製造を以て救って頂きたい……と言ってきたそうよ。国の代理人(エージェント)としてね」

「ん?月華姉ぇ、ソイツ等は前フリなしで直接来たん?フツウはまず国同士で」

エルナに向けられる零士の人差し指。

「ひとつは奴等の国が独裁主義下にあり、国家予算のほぼ全てが軍事力に投入されている事実。それは大方、食料配給制を物語り、そこに生産性はない。つまり、この先も発展の見込みがなく、ある意味世界から見放された棄(す)てられた国だという点。もうひとつはどこの国にでもある話だが、国家間で金・食糧・薬品等の援助を行った場合、権力を握った一部の者達が支援物資を独占し、軍事転用・外貨獲得に励むという点だ。人道に外れた下衆にも劣る輩の存在が、真に困る民衆には行き届かん真実を横たわらせている」

「ナルホド……それで直接(イキナリ)企業に」

「けどや、そんなスカポンタンな指導者が壇上に乗っかとる情勢や、いくら大量の薬品を援助しようがそれこそ特効薬止まりやろ。いずれ内戦が勃発して……いや待てよ、自業自得やねんからアホな指導者が居らんようになって丁度ええか」

カルナは自らの問題提起を自己完結、したり顔を前面に浮かべた。

「それはどうかしら。独裁者を引きずり降ろすことは大切だけど、内戦にまで発展すれば結局……大量の血を流すのは罪もない民衆達よ」

「そうか……にしても大人しい民族やな。よう従ってられるもんや」

「情報操作よ」

「はあ?」

「簡単なカラクリだ、一種の鎖国発動と考えればいい。出入国を禁じ外界との繋がりを完全にシャットアウト、国民の目や耳に入るありとあらゆる情報の質と量を制限し、更には指導者に都合のいいよう歪曲までさせる。自分達の生まれたこの地は世界中のどの国よりも肥沃(ひよく)で裕福な楽園などとのたまったり、人道支援は指導者を崇(あが)める他国からの贖物(あがもの)と偽ったりと、言い出したらキリがない程ヤリたい放題だ。産まれし日よりそんな状況に置かれれば、一片の不満も出よう筈がない。その生活が普通なのだから……例えそれが地獄のような場であろうと」

「やが苦しい生活はリアルなワケや。そんなチャチな方法でホンマ誤魔化せんのかよ」

零士に向かう最高レベルの疑義。

「情報ってのは案外馬鹿にできないんだぜ。虚構(フィクション)の中にある一片(ひとひら)の真実(ノンフィクション)は掻き消されてしまうが、真実に紛れる一片の虚構はリアルに成り得る。お前が今まで生きて得た情報、その全てが百八十度違うものだったら……どうする?俺とツキカがこれまで話した内容の全部、それ等がまるっきりデタラメなら?」

カルナに返る仕返しの意が乗る口角。

「ゼロォォォッ!またチョッカイ出すっ!ヤメてよね先に進まないんだから。とにかく、情報っていうのは扱う者によってどうにでも変化する生き物だってことだけは覚えといて。主体性のないこの国も過去に幾度となく同様のパニックを引き起こしてるから。主体性のあり過ぎるあなた達には縁遠い例かしら?」

「さっすが月華姉ぇやな。二人を止めるタイミングがバツグンや」

男達とは対照的に女が勝ち誇った。
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