HEAVENS HEARTS

SPEED 05 覚醒の光条

SPEED 05-08

「第一歩を刻めば後の解明速度は凄まじく、数多くの分析結果が後世に残された。内ひとつの好例に面白いのがあるから聞いて。チンパンジーの脳に電気信号での刺激を加える生体実験が行われたんだけど、ある部分（ポイント）への刺激は激怒の感情を呼び起こし、又、違う部分（ポイント）では発情を促すとの報告がなされたの」

「そうか……わかったで月華姉ぇ！チップの意味が！有する電気信号が身体能力を制御する大脳新皮質四十六野（リミッター）を解除（カット）するんや」

チップを疑うカルナをよそにエルナ力説。

「優秀、優秀、説明のしがいがあるぜ。ちなみにナノロボットの場合もそうだが、原理としては東洋医学に属するツボに針を刺す治療と何ら変わりはない。より確かな効果を上げる為、脳に直接働きかける助役に西洋医学が座してはいるが。まあ、東洋と西洋の合わせ技と考えてくれ」

「リミッターカットのツボなんかよう見付かったもんやな」

「ツボの件は疎かリミッター消去（カット）の着眼点、延いては身体能力を桁違いに跳ね上げるという発想自体、ツキカ発なんだぜ」

「……マジ？月華が……フーン……月華が」

「アッタマええねんなぁ月華姉ぇ！」

「実現を見たのはあなた達の御父様やゼロ、月影達バックボーンがあったからこそよ」

はにかんだ表情を隠すように、月華がティーカップを口元に運んだ。

「ちょっと待てよ……解放された力はズタズタの筋繊維を呼び、付随する痛みも相当な筈……何でお前等……平然としてられんのや？」

カルナは胸に支えている物を吐き出すよう、ゆっくり呟いた。

「対処法は至って単純だぜ。まず筋繊維切断時の激痛を癒す方法には、脳内麻薬であるβーエンドルフィンという体内物資を用いた」

「零士さん、それって長距離走者（ランナー）がある一定距離を走った時、蓄積された苦痛が快感に反転するランナーズハイの原因物質ちゃうん？」

「OK、この物質はストレスを感じたり死の間際に立つと脳下垂体から血液中に高濃度分泌され、鎮痛・鎮静・幸福感・集中力アップ等の作用をもたらす」

「脳内物質ちゅうことは……分泌を促す役目をもそのチップが担っとんか？」

「ああ、そしてもうひとつ、筋繊維修復の際にもこのチップが機能する」

エルナの瞳が零士から翻って月華へ。

「違うわよ。今ゼロが説明してるカルの二つの疑問を解決したのはあなたの御父様」

「エェェェェッ！ウチの父チャンがァッ！？そんなこともできんねや……」