今日もまた恋をする

なかたかな

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 サナがクラスイチ推しのアオイと旅行に行くことになったのは奇跡としか言いようがなかった。アオイは所謂正統派イケメン。廊下を歩いていると女の子たちが振り返るほどカッコいい。しかしながらそんなことはまるで気にしていないかのようにいつも野郎とつるんでいる。馬鹿騒ぎして女を寄せ付けない雰囲気がまた、女の子たちの乙女心をくすぐるのだった。
 そんなアオイと高校の唯一の同級生だったのが親友のヒカリなのである。大学に入って最初の語学の授業で隣の席になったヒカリとの出会いがまさかこんな幸運をもたらすとは。行きたかった大学に入り、クラスイチのイケメンと旅行に行ける。幸せが続きすぎて少し怖い。

 旅行はサナとヒカリ、アオイとアオイの友だちの4人だった。アオイが気を使ってヒカリのお気に入りを連れてきてくれたので、サナの感覚からするとダブルデートに近かった。
「ねえ、せっかくだから外を散歩しようよ。」
 夕飯を済ませた後、ヒカリが提案した。願ってもない提案。(後々2人になれたらいいな。)サナは心の中でそう願った。
 4人で外に出てしばらくすると、サナはアオイを川の流れる散策道に誘った。浴衣姿の男女がカラカラと下駄の音を響かせながら談笑して歩く姿が風情を誘う。
(私は今シンデレラなんだ。)
 浮き足だった気持ちで主役の女の子を演じようという気持ちがいけなかった。サナは川に向かって垂れている枝垂れ柳の葉に触れようとして手を伸ばした。枝垂れ柳の葉が、蛇が川に向かって飛び込んでいるかのようにふと見えたのだ。
「あっ。」
 足を踏み外し宙に舞う刹那、アオイが手を伸ばしたのが見えた。
「サナちゃん!」
 優しいアオイの声を聞きながら、サナは暗闇の中へ落ちていった。


 目が覚めると、目の前に巨大な蛇の顔があってこちらを覗いている。サナと目が合うと嬉しそうに舌をヒュルヒュル言わせた。蛇が口を開いた。
「質問その一。「推しの人」と「好きな人」は同じですか?別ですか?」
(え、何急に。何で質問とかすんの?)
 サナは焦った。というのも、どうやらこの蛇の胴体がサナの首に巻かれていて、締め付けているようなのだ。
(訳わかんないんだけど。わかるわけないじゃん。)
 サナは適当に答えた。
「えーっと、別です。」
「ブッブー。同じです。どちらも自分の憧れと願いを投影しています。」
(えー、何それ!意味わかんない。)
 首の締め付けがきつくなる。サナは蛇の胴体を剥がそうとしたがびくともしなかった。
「では次にして最後の問題。「恋」と「愛」は同カテでしょうか別カテでしょうか。制限時間5秒。はい。」
(え、何それー!てか「同カテ」って何?同じカテゴリーの略?…なんて考えてる場合じゃなかった。)
「えーっと、同じ。」
「ブッブー。別です。「恋」は自分の気持ちを尊重し、「愛」は相手の気持ちを尊重するからです。」
「えー、何それ。そんなのあんたが勝手に決めた話じゃんかー。」
 サナは文句を言ったが、蛇はお構いなしに首を締め付ける。
「首が…苦しくて息が出来ない。」
 もうダメだ、と思った瞬間だった。もう1匹の蛇が現れて、サナの首に巻きついている蛇に噛み付いた。噛みつかれた蛇は「ギャー」と声をあげ、サナの首から落ちていった。
 意識が朦朧とする中でサナは助けてくれた蛇を見た。
「蛇さんサンキュー。え、キョウヘイ…?なんで蛇になってんの?てか助けてもらうならアオイが良かった…」
 そう呟くとサナも底へと落ちて行った。


「サナ、起きろよ。」
 男の子の声に目が覚める。隣にはキョウヘイがいた。第二外国語のスペイン語の授業中である。
「ちぇ、やっぱキョウヘイかよ。」
 サナは腕に垂れているよだれをさりげなく拭き取りながら目を擦った。
「何だよそれ、失礼なヤツだな。それよりあの計画、この後話そうぜ。」
「何、あの計画って?」
「前に話したじゃん。コウタがヒカリのこと気になってるから4人で旅行行くって話。オッケーしてくれただろ?」
「…そっちの話も夢だったんかーーい!」
 思わず大声を出してしまった。クラスのみんなが振り返る。

 その後、みっちり先生に叱られたことは言うまでもない。
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