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第二章 C級エラリアル杯
第二章 第一幕
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――第二章 C級エラリアル杯
鴻鵠は、お互いの意思疎通の為に、人間には感じ取る事の出来ない、思念波と呼ばれる特殊な音波を送受信している。その音波を受信し、指定された言語へと翻訳する装置。
それが、鴻鵠産業に携わる全ての人間が耳につけている、『鴻鵠思念音波自動受信翻訳装置 ネイバー』である。
半径3メートル以内の鴻鵠の思念波を、無作為にキャッチするが、最大同時に3匹までしか受信出来ず、多数が重なった際には、より近くの思念波を拾う。
レース時の鴻鵠士は半径1メートル以内のヘルメット型ものを使用する。自分の鴻鵠の言葉だけに耳を傾け、レースに集中する為である。
ベ=ディルス大陸のゼイラヌで研究開発され、現在は山全(さんぜん)大陸の治州(ちす)で量産されている。
イヤホンのように耳につけ、受信した思念波はそのまま直接鼓膜と骨を振るわせる。
尚、鴻鵠は人間よりも聴覚が発達している為、鴻鵠士の声を嵐の吹き荒れる轟音の中でも聞き分ける事が出来るとされている。
高い知能を持ち、人間の言語を理解出来ても放つことが出来なかった鴻鵠との意思疎通が、この装置により可能となった。
世界中のあらゆる言語に翻訳可能であり。
***
C級エラリアル杯、レース直前。
選手控え室で、バラクアは嘴を水に少しつけ、一口飲みこんだ後に、軽く嘶いた。その様子をちらりと眺めたルティカは、再び自分の足もとに目線を移し、バラクアへと問いかける。
「ねぇバラクア、もしかして、緊張してるの?」
「まさか、気合を入れ直しただけだ」
「そう、それならいいんだけど」
ピリピリとした緊張感の漂う中、そんな張り詰めた空気を読まずに、華瑠が明るく声を出した。
「ルーちゃん、バラクア。今日ノ、レースのおさらいデス。今日ハ、シャン=ルーゼンのレース、出場鴻鵠は十三頭、一周12キロで、周回数は五周、リングの数は18個デス」
「そう、18個なのよね。あー、行って、こう行って、5番リング付近の送風装置で、確実に風に乗って、13番リングの辺りの逆風、このあたりがポイントなのよね……」
ルティカが壁に向かって一人でブツブツと、今日のレースのイメージトレーニングを繰り返している時、華瑠はバラクアの羽を撫でていた。零れそうな羽を優しく抜き取り、より羽の方向を綺麗に揃えていく。鴻鵠の羽の流れを綺麗に揃える事は、レース前の必須事項だ。羽が乱れていると、羽の隙間から風が逃げたり、空気抵抗を多く受けたりする事もある。それは即ち、レースの勝敗に直結するのだ。だからこそ華瑠は毎レース前には、調教士として丁寧に慎重に、バラクアの羽を整えている。
「バラクア、今日も頑張ってネ」
「ああ、ありがとう」
「華瑠~、私には~? 私にも頑張ってって言ってよ~」
イメージトレーニングの世界から戻って来たルティカが不満気に口を尖らせる。
「モチロン、ルーちゃんも頑張っテネ!」
そう笑顔を見せる華瑠に、ルティカは親指を立てて答える。
「おいお前ら! 準備は出来てるだろうな!」
ジラザが大声で控え室に入ってくる。自信の表れか、ルティカは不遜な笑みでジラザの大声に答えた。
「ばっちりよ! イメージは完璧。見てなさい、13番リング潜った後からごぼう抜きよ!」
「ほほぅ、頼もしいじゃねぇか! よし、行ってこい!」
ルティカとバラクアがスタートへ向かうのを見送りながら、華瑠はジラザに尋ねた。
「シショー。今日のレース、勝てますかネ?」
期待に満ちたその声を、ジラザは大声で笑い飛ばしてから、自信たっぷりに言った。
「いや、今日はまだ無理だろうな」
鴻鵠は、お互いの意思疎通の為に、人間には感じ取る事の出来ない、思念波と呼ばれる特殊な音波を送受信している。その音波を受信し、指定された言語へと翻訳する装置。
それが、鴻鵠産業に携わる全ての人間が耳につけている、『鴻鵠思念音波自動受信翻訳装置 ネイバー』である。
半径3メートル以内の鴻鵠の思念波を、無作為にキャッチするが、最大同時に3匹までしか受信出来ず、多数が重なった際には、より近くの思念波を拾う。
レース時の鴻鵠士は半径1メートル以内のヘルメット型ものを使用する。自分の鴻鵠の言葉だけに耳を傾け、レースに集中する為である。
ベ=ディルス大陸のゼイラヌで研究開発され、現在は山全(さんぜん)大陸の治州(ちす)で量産されている。
イヤホンのように耳につけ、受信した思念波はそのまま直接鼓膜と骨を振るわせる。
尚、鴻鵠は人間よりも聴覚が発達している為、鴻鵠士の声を嵐の吹き荒れる轟音の中でも聞き分ける事が出来るとされている。
高い知能を持ち、人間の言語を理解出来ても放つことが出来なかった鴻鵠との意思疎通が、この装置により可能となった。
世界中のあらゆる言語に翻訳可能であり。
***
C級エラリアル杯、レース直前。
選手控え室で、バラクアは嘴を水に少しつけ、一口飲みこんだ後に、軽く嘶いた。その様子をちらりと眺めたルティカは、再び自分の足もとに目線を移し、バラクアへと問いかける。
「ねぇバラクア、もしかして、緊張してるの?」
「まさか、気合を入れ直しただけだ」
「そう、それならいいんだけど」
ピリピリとした緊張感の漂う中、そんな張り詰めた空気を読まずに、華瑠が明るく声を出した。
「ルーちゃん、バラクア。今日ノ、レースのおさらいデス。今日ハ、シャン=ルーゼンのレース、出場鴻鵠は十三頭、一周12キロで、周回数は五周、リングの数は18個デス」
「そう、18個なのよね。あー、行って、こう行って、5番リング付近の送風装置で、確実に風に乗って、13番リングの辺りの逆風、このあたりがポイントなのよね……」
ルティカが壁に向かって一人でブツブツと、今日のレースのイメージトレーニングを繰り返している時、華瑠はバラクアの羽を撫でていた。零れそうな羽を優しく抜き取り、より羽の方向を綺麗に揃えていく。鴻鵠の羽の流れを綺麗に揃える事は、レース前の必須事項だ。羽が乱れていると、羽の隙間から風が逃げたり、空気抵抗を多く受けたりする事もある。それは即ち、レースの勝敗に直結するのだ。だからこそ華瑠は毎レース前には、調教士として丁寧に慎重に、バラクアの羽を整えている。
「バラクア、今日も頑張ってネ」
「ああ、ありがとう」
「華瑠~、私には~? 私にも頑張ってって言ってよ~」
イメージトレーニングの世界から戻って来たルティカが不満気に口を尖らせる。
「モチロン、ルーちゃんも頑張っテネ!」
そう笑顔を見せる華瑠に、ルティカは親指を立てて答える。
「おいお前ら! 準備は出来てるだろうな!」
ジラザが大声で控え室に入ってくる。自信の表れか、ルティカは不遜な笑みでジラザの大声に答えた。
「ばっちりよ! イメージは完璧。見てなさい、13番リング潜った後からごぼう抜きよ!」
「ほほぅ、頼もしいじゃねぇか! よし、行ってこい!」
ルティカとバラクアがスタートへ向かうのを見送りながら、華瑠はジラザに尋ねた。
「シショー。今日のレース、勝てますかネ?」
期待に満ちたその声を、ジラザは大声で笑い飛ばしてから、自信たっぷりに言った。
「いや、今日はまだ無理だろうな」
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