異世界では巨大な鳥の首に跨りレースをするようです

泣村健汰

文字の大きさ
17 / 70
第二章 C級エラリアル杯

第二章 第七幕

しおりを挟む
 その夜、セオクク厩舎のドアがノックされた。

「ハイハ~イ、誰ですカ?」

 能天気な華瑠の声に対し、ドアの向こうから落ち着いた声が返って来る。

「夜分にすいません、アレツです。ジラザさんいらっしゃいますか?」
「アレツさん!」

 華瑠を押しのけてルティカがドアを開けると、一人の青年と一頭の鴻鵠が立っていた。青年が手にしている袋の中からは、ジラザの好物であるウイスキーの瓶が顔を覗かせる。

「アレツさん、お久しぶりです!」

 アレツと呼ばれた青年は、ルティカに穏やかな笑みを向ける。

「ルティカちゃん、久しぶり。ジラザさん、いるかな?」
「勿論です。どうぞどうぞ」

 快活な声を出すルティカの横から、

「ルーちゃん……、華瑠、とっても、痛いヨ~」

 と、くぐもった華瑠の恨み言が聞こえてきた。ルティカが声の方向に振り向くと、勢い良く突き飛ばされた華瑠が、入口の横に積んであった藁の中に頭を突っ込んでいた。

「ああ、ごめんね華瑠」

 ルティカに引っ張り出された後も、華瑠は身体中に付いた藁を払いながら唸っている。

「う~、酷いヨー。ルーちゃん酷いヨー」

 そこへジラザが、厩舎の奥から顔を出した。

「おう、アレツ。元気にしてたか」
「ジラザさん、お世話になっております」
「相変わらずおめぇは固ぇな。まぁあがれ。おう、華瑠、茶淹れろ」
「ああ、いいわよ華瑠、私が淹れるから、休んでて。アレツさん、お荷物持ちますね」

 ルティカは高らかにそう宣言すると、さっさと華瑠を置いてアレツと共に行ってしまった。
 一人残された華瑠の所に、ゆったりとした様子でバラクアが歩いて来る。

「華瑠、大丈夫か?」
「う~、バラクア~、みんな酷いのヨ~」
「まぁ、ルティカの酷さは今に始まった事じゃない、許してやってくれ」
「う~、分かってるヨ~。分かってるけどヨ~」

 バラクアは涙目の華瑠を横目に、入口の外に佇んでいる鴻鵠に向かって声を掛けた。

「お久しぶりです、ミリビネさん」
「ああ、バラクア。久しいな。調子はどうだ?」
「相変わらず、厳しさと不甲斐なさを感じる毎日です。ところで、ミリビネさんは中へ入らないのですか?」

 ミリビネと呼ばれた、黒と茶色の斑模様の羽根を蓄えた鴻鵠は、バラクアにその赤い瞳を向け、問いかけに素っ気なく答えた。

「いや、私はここでいい」
「そうですか、では」
「ああ」

 バラクアもまた素っ気なく返し、その場を去って行った。
 再び一人残された華瑠は、ミリビネを暫し呆然と見つめた後、

「ドア、閉めていいノ?」

 とミリビネに尋ねた。

「えぇ、どうぞ」

 これまた素っ気なく返って来た返事を聞き、華瑠は申し訳無さそうに、厩舎のドアを閉めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...