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第三章 シャン=ナーゼル世界戦
第三章 第五幕
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2番リングを潜った直後、突如強い自然風がレース場に吹き抜けた。
若干反応の遅れた前方の10番選手を抜き去り、アレツは四位へと浮上。
アレツVS全選手の構図を観客も理解したのだろう。屈せずに戦うアレツに向け、客席から歓声が届く。
3番リング、4番リングの位置する場所は、観戦しているルティカ達の目の前にある。
アレツ達が4番リングを潜り抜けて行った時、ルティカの目に刹那、アレツがミリビネの耳元で何かを囁いているの姿が見えた気がした。
そしてその唇の形は、何やら不敵な笑みを浮かべているようだった……。
彼らが通り過ぎた後の強い風に対しても、ルティカは目を瞑る事無く、アレツの姿を凝視し続けた。
5番リングを通り抜け、いよいよ6番リング。
アレツ達がリングを潜り抜けた直後、また先程と同じように、アレツ達の前方を飛んでいた4番選手がパストを彼らに向けて放った。
その時だった。4番選手のパスと同時に、乱れた気流の中で、ミリビネも後方にパストを放ったのだ。
二つのパストが重なると言う異例の事態に、アレツ達の後ろの気流は激しく乱れた。6番リングを潜ろうとしていた、アレツ達の後方に居た3頭の鴻鵠達が、皆錐もみ状態となって下降していく。アレツはすぐに体制を立て直し、7番リングとは逆向きである上方へミリビネを操り、4番選手の起こしたパストの気流を読み切ると、そのパストの気流さえも乗りこなし、更には6番リング直後に設置された人口風に急滑空で飛び乗り、斜め下へと猛烈に加速して見せた。
状況を掴みきれなかった4番選手はあっさりと抜かれ、観客からは一層の歓声が響く。
会場の雰囲気は既に、単独で頑張り続けるアレツを応援する空気に流れつつあった。
パストで起きた気流に引っかかり失速してしまうのは、簡単に言えば進行方向とは別方向に乱れた強風が来る為に、船で例える所の舵が効かなくなるのである。つまり、乱れた気流も支離滅裂に流れている訳では無く、その気流の方向さえ分ってしまえば、パストですらも利用し加速する事が可能なのである。が、それはあくまで理論の上での話だ。突然目の前で起こされた気流に対して、一瞬の判断でその気流の方向を理解するなど、通常時では無理だろう。だが、この状況を予め予測し、ライバル選手の起こすパストの気流の癖までも、研究しつくしていたに違い無い。
――アレツさん、凄い……。
ルティカは、アレツの取った行動の凄さに感心しつつも、この状況だからこそなし得た技である事も理解していた。
すなわち、相手の技の研究が既に済んでいるのであれば、後は確実にパストが起こる場所さえ分かれば、それ程難しい理屈では無い。
勿論これは、あくまで机上の空論の上での話である。それを実現出来るアレツとミリビネのライバルへの研究と、土壇場でそれを成功させる度胸に、頭が下がる他無い。
その時に、ルティカはふと思い出した。
まだルティカが幼かった時、テレアの腕の中で見た、ガイゼルのシャン=ルーゼン世界戦。
あの時のガイゼルも、圧倒的なプレッシャーの中、二頭の鴻鵠が同時に起こした気流の方向を一瞬で読み切り、勝利を勝ち取ったのだ。
レース終了後、ルティカはガイゼルに尋ねた。どうして、あの乱れた気流の中で風に乗る事が出来たのか、と。
父から帰って来た答えは、信じられない程簡単なものだった。
『父さんはな、あの時、風が見えたんだよ』
突如舞い降りて来たフラッシュバック。
だけどあの時の、ガイゼルがシャン=ルーゼンで世界一になった時の姿が、突如ルティカの目に映ったのには、何か意味があるはずだ。
ルティカはそう信じ、そしてその朧気な自信はすぐに確信へと変わった。レースが四周目へと差し掛かる直前、9番リングの手前でアレツが前方の6番選手を抜き去り、二位へと浮上した時、あの時のガイゼルとアルバスの姿が、不意にアレツとミリビネに重なって見えたのだ。
――今日、アレツさん、勝つ……。
根拠も何も無い、唯の願い事。だが、ルティカは自分の予想に確かな自信があった。
四周目。
ミリビネの瞳の先には、先頭の14番選手の尻尾があった。
その差は約10メートル。鴻鵠3頭分程の距離は、徐々に詰まっていく。
もう抜き去るのは時間の問題だろう。
会場中の誰もがそう思った。
刹那の静寂。
観客が固唾を飲んで見守る中、それでも14番選手は必死で先頭を守り続けた。
問題の6番リング後は、他の選手の様にパストを放つ事も無く、一寸の躊躇も無く人口風に乗り加速した。
先程までのレース展開から、小手先の技術は通用しないと判断したのだろう。真っ向勝負を選択した14番選手に、ルティカは心の奥底で拍手を打ち鳴らした。
――うん、そうだよ、やっぱりそうこなくっちゃ。それでこそ、鴻鵠レースだもんね。
だが、アレツも負けてはいない。
14番選手がどれだけ最短距離でリングを潜っても、その真後ろにピッタリとくっついて全く離れない。そうこうしている間に、二頭は連なりながら10番リングを通り抜けた。
ラスト一周。
若干反応の遅れた前方の10番選手を抜き去り、アレツは四位へと浮上。
アレツVS全選手の構図を観客も理解したのだろう。屈せずに戦うアレツに向け、客席から歓声が届く。
3番リング、4番リングの位置する場所は、観戦しているルティカ達の目の前にある。
アレツ達が4番リングを潜り抜けて行った時、ルティカの目に刹那、アレツがミリビネの耳元で何かを囁いているの姿が見えた気がした。
そしてその唇の形は、何やら不敵な笑みを浮かべているようだった……。
彼らが通り過ぎた後の強い風に対しても、ルティカは目を瞑る事無く、アレツの姿を凝視し続けた。
5番リングを通り抜け、いよいよ6番リング。
アレツ達がリングを潜り抜けた直後、また先程と同じように、アレツ達の前方を飛んでいた4番選手がパストを彼らに向けて放った。
その時だった。4番選手のパスと同時に、乱れた気流の中で、ミリビネも後方にパストを放ったのだ。
二つのパストが重なると言う異例の事態に、アレツ達の後ろの気流は激しく乱れた。6番リングを潜ろうとしていた、アレツ達の後方に居た3頭の鴻鵠達が、皆錐もみ状態となって下降していく。アレツはすぐに体制を立て直し、7番リングとは逆向きである上方へミリビネを操り、4番選手の起こしたパストの気流を読み切ると、そのパストの気流さえも乗りこなし、更には6番リング直後に設置された人口風に急滑空で飛び乗り、斜め下へと猛烈に加速して見せた。
状況を掴みきれなかった4番選手はあっさりと抜かれ、観客からは一層の歓声が響く。
会場の雰囲気は既に、単独で頑張り続けるアレツを応援する空気に流れつつあった。
パストで起きた気流に引っかかり失速してしまうのは、簡単に言えば進行方向とは別方向に乱れた強風が来る為に、船で例える所の舵が効かなくなるのである。つまり、乱れた気流も支離滅裂に流れている訳では無く、その気流の方向さえ分ってしまえば、パストですらも利用し加速する事が可能なのである。が、それはあくまで理論の上での話だ。突然目の前で起こされた気流に対して、一瞬の判断でその気流の方向を理解するなど、通常時では無理だろう。だが、この状況を予め予測し、ライバル選手の起こすパストの気流の癖までも、研究しつくしていたに違い無い。
――アレツさん、凄い……。
ルティカは、アレツの取った行動の凄さに感心しつつも、この状況だからこそなし得た技である事も理解していた。
すなわち、相手の技の研究が既に済んでいるのであれば、後は確実にパストが起こる場所さえ分かれば、それ程難しい理屈では無い。
勿論これは、あくまで机上の空論の上での話である。それを実現出来るアレツとミリビネのライバルへの研究と、土壇場でそれを成功させる度胸に、頭が下がる他無い。
その時に、ルティカはふと思い出した。
まだルティカが幼かった時、テレアの腕の中で見た、ガイゼルのシャン=ルーゼン世界戦。
あの時のガイゼルも、圧倒的なプレッシャーの中、二頭の鴻鵠が同時に起こした気流の方向を一瞬で読み切り、勝利を勝ち取ったのだ。
レース終了後、ルティカはガイゼルに尋ねた。どうして、あの乱れた気流の中で風に乗る事が出来たのか、と。
父から帰って来た答えは、信じられない程簡単なものだった。
『父さんはな、あの時、風が見えたんだよ』
突如舞い降りて来たフラッシュバック。
だけどあの時の、ガイゼルがシャン=ルーゼンで世界一になった時の姿が、突如ルティカの目に映ったのには、何か意味があるはずだ。
ルティカはそう信じ、そしてその朧気な自信はすぐに確信へと変わった。レースが四周目へと差し掛かる直前、9番リングの手前でアレツが前方の6番選手を抜き去り、二位へと浮上した時、あの時のガイゼルとアルバスの姿が、不意にアレツとミリビネに重なって見えたのだ。
――今日、アレツさん、勝つ……。
根拠も何も無い、唯の願い事。だが、ルティカは自分の予想に確かな自信があった。
四周目。
ミリビネの瞳の先には、先頭の14番選手の尻尾があった。
その差は約10メートル。鴻鵠3頭分程の距離は、徐々に詰まっていく。
もう抜き去るのは時間の問題だろう。
会場中の誰もがそう思った。
刹那の静寂。
観客が固唾を飲んで見守る中、それでも14番選手は必死で先頭を守り続けた。
問題の6番リング後は、他の選手の様にパストを放つ事も無く、一寸の躊躇も無く人口風に乗り加速した。
先程までのレース展開から、小手先の技術は通用しないと判断したのだろう。真っ向勝負を選択した14番選手に、ルティカは心の奥底で拍手を打ち鳴らした。
――うん、そうだよ、やっぱりそうこなくっちゃ。それでこそ、鴻鵠レースだもんね。
だが、アレツも負けてはいない。
14番選手がどれだけ最短距離でリングを潜っても、その真後ろにピッタリとくっついて全く離れない。そうこうしている間に、二頭は連なりながら10番リングを通り抜けた。
ラスト一周。
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