異世界では巨大な鳥の首に跨りレースをするようです

泣村健汰

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第五章 特訓開始

第五章 第六幕

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 急な問いかけにキョトンとした顔をした華瑠は、いつもの朗らかな笑い方とは違う、柔和な笑みを浮かべた。

「何ネ~、バラクアったら、私の事に興味あるのカ? フフフ、嬉しいネ」

 華瑠は汗を拭いていたタオルを首にかけると、バラクアの八方を囲んでいる風力装置の内側に入り込み、チョコンと座った。バラクアも足を畳み、彼女に目線を合わせる。

「知ってると思うケド、私ネ、ベ=ディルスじゃなく、風全大陸の、涯門って言う国で生まれテ、育っタ。ここからだト、ず~っと北東の方にあるから、ルーテジドよりもとっても寒い国ネ。風全大陸には四つの国があるヨ。四つの国はみんな、自分の国の治安維持トカの為ニ、超格好いい鴻鵠ヲ、国の上に飛ばしてるノヨ。ダカラネ、風全の子達は、レースよりももっと身近に、小さい頃から鴻鵠と触れあう事が出来るノ。ダカラネ、風全の人はみんな、鴻鵠が大好き。モチロン私も大好きヨ! だから本当はネ、私、調教士じゃなく、鴻鵠士になりたくて、ベ=ディルスに来たノヨ」
「そうだったのか。それが、どうして調教士に?」
「ハハハ、恥ずかしいんだけド、実は私ネ……」

 バラクアが見つめた彼女の瞳に、不意に切ない色が浮かぶ。

「私ネ、高い所が怖くて怖くて、全然ダメだったノヨ。初めて練習で鴻鵠に乗った時にネ、空の上でパニックになっちゃったのよ。あの時は、トテモトテモ恥ずかしかったネ。しかもヨ、しかもネ、私はそれを、ベ=ディルスに来るまで、全く気づかなかったと言うトンデモナイ間抜け者ネ。デモしょうがないノヨ。ベ=ディルスには船で来たシ、涯門にハ、そんなに高い建物も無かったノヨ。だけど、悲しかったヨ。トテモ、ショックだったネ」

 恥ずかしそうに、でもどこか悲しげな笑みを浮かべる華瑠に掛ける言葉が、バラクアには見つからなかった。

「それでもネ、やっぱり鴻鵠は大好きヨ。でも、高い所は怖いネ。それで涯門に帰るべきナノカ、怖くても無理矢理頑張るべきナノカ、メチャクチャ悩んでたネ。そんな時ネ! シショーと知り合ッテ言われたのヨ。

『ぶぁっかヤロウ! つまんねぇ事気にしてんジャネェヨ! そんなら俺んとこにコイ! 鴻鵠士になんなくてもイイ、おめぇは調教士にナレ! そしたら鴻鵠の仕事出来るゾ! 鴻鵠、好きなんだロ! 簡単に諦めんじゃネェ!』

ッテ言ってもらったノ。まぁ、シショーも大分酔っ払ってたから、次の日私の事、何にも覚えて無かったネ」

 華瑠の行ったジラザの物真似は、中々に堂に入っていた。
 華瑠は、その時の感情を思い出したのだろうか? 首元のタオルで、目元をゴシゴシと擦った。

「だけどシショーの言葉、トテモトテモ嬉しかったネ。シショーは、いっつもはあんな感じだけど、本当はトッテモあったかいから大好きヨ。結局こうやって、私の事雇ってくれてるしネ。ダカラ私、働きながらちゃんと勉強しテ、一人前の調教士になるノヨ! いつか、シショーを助けられるようになるって決めたノヨ!」

 そう言い放った華瑠は、いつものように朗らかに笑った。
 その笑顔は、バラクアの胸の内に、沢山の複雑な思いを去来させた。そしてその思い達は皆、彼の心の内側を優しく熱く駆け巡ったのだ。
 いつも明るく、悩み事などまるで無いように感じていた華瑠。そんな彼女も、目指していた夢を曲げる程の挫折を経験し、だけれどもそれに負ける事無く、今も新たな目標に向かい頑張っている。そしてそれは、自分に新たな夢を与えてくれたジラザを助ける為だと、胸を張って言うのだ。
 胸の内を見透かされた訳では無いだろう。だがバラクアは、先程まで自分が抱いていた消極的な物の捉え方を、後ろ暗く感じていた。華瑠の姿を眩しく見せたのは、そんな己の、中途半端で不誠実な、不覚悟の現れだったのだろうと理解していた。

「なぁ華瑠。お前って、実は凄いんだな」

 何の衒いも無く、思わずバラクアはそんな言葉を漏らした。
 それを聞いた華瑠は大仰に手を振って、

「凄くナイ、全然凄くナイヨ」

 と照れ笑いを浮かべた。その笑みの奥底には謙虚の他に、何処か満更でも無い様子も見受けられる。その他意の無いあざとさも又、彼女をここまで導いてくれた要因の一つでもあるのだろう。
 話のついでにバラクアは、以前から疑問に思っていた事を聞いてみる事にした。
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