異世界では巨大な鳥の首に跨りレースをするようです

泣村健汰

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第七章 C級フレイク杯

第七章 第五幕

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「いいからしっかり掴まってろ!」

 言うが早いか、2番リング前の強烈な人口風を背中に、バラクアはその大きな翼を一度目一杯広げ、羽ばたいた。
 猛スピードで次々とリングを潜っていくバラクアの首元で、ルティカは自身の鞍をしっかと握りしめて叫ぶ。

「バラクア! 5番リング後の真下の風弱いわ! 2くらいしかない」
「了解!」

 バラクアは短く返事をすると、減速するように5番リング手前で大きく羽ばたいた。
 すぐ前を飛んでいた10番選手はその速度のまま飛び出し、想像よりもずっと弱かった5番直後の人口風を、勢い余って通り抜けてしまった。必死で減速して戻ってくるが、既に6番リングからは大きく離れてしまっている。
 間隙を突くように、バラクアは慎重に減速し、10番選手より先に6番リングを潜りぬけた。

 これで、六位。

 グングン上がっていく順位を鑑み、ルティカの口角は自然と上がり始めた。だけれどそれも、再び前方の先頭集団に目を移した瞬間に収まりを見せる。
 ベートが遂に、スタートからトップを守っていた1番選手を抜き去ったのだ。華麗に羽ばたくレベの翼が、太陽を反射しキラリと輝く。

 ――まだ喜ぶには、全然早いわね……。

 自分の早計さを戒めつつ、改めてもう一度辺りを見回した。
 現在自分の後ろにいるのは、近い方から順に、10番選手、4番選手、6番選手だ。
 9番選手の姿が見えないのは、リングへの激突の衝撃の為、残念ながらリタイアしてしまったからかもしれない。凄まじいスピードで行われるレース中の事故は、決して少なくは無い。

『ルティカ、鴻鵠士の世界は、危ない事も多いんだぞ』

 不意に、幼い時の父の言葉が蘇ってくる。

 ――うん、解ってるよ、父さん……。

 自分だけ大丈夫、などと言う楽観的な思考をする程バカではない。

 ――危険な事が一杯なのは百も承知。接触事故もあるし、父さんみたいになっちゃう事も、あるかもしれない……。

 残された者の哀しみは、嫌という程骨身に沁みて分かっているルティカである。だが、それでも……。

 ――……それでも、やっぱり私は、エレリド=ガイゼルの娘なんだよな……。

 ルティカはそう思い至り、唇の端を僅かに上げた。
 目線を前方へと移す。
 現在ルティカ達は、6番リングから7番リングへ急滑空の最中だ。
 バラクアの嘴の先すれすれの距離には、2番選手がいる。その2番選手の嘴の先に、5番選手。中盤の鈴なりから少し先、11番リングを潜った直後に、先頭集団の最高尾の8番選手。その8番選手から少し離れ、12番リング手前に1番選手。
 そして、その1番選手の前には、7番を背負った、緋色の羽……。

 ――届くか微妙。だけど、確かに近づいてる。やってやるわよ!

 そこでルティカは、肺の奥まで深く息を吸い込み、全身にグッと力を入れた。

「うっしゃあ! 気合い入れ直しよ!! 待ってなさいよベート!!!」

 猛スピードのバラクアの上から、ルティカが猛り、咆哮した。
 瞬時に風に掻き消され、誰にも届かない筈のその響きは、自身の相棒の鼓膜と心を、確かに奮わせたのだった。
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