異世界では巨大な鳥の首に跨りレースをするようです

泣村健汰

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第七章 C級フレイク杯

第七章 第七幕

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 残り三周。

「2番リング前の風は、5ってとこね。そこまで強くは無いわ」

 そう呟いたルティカだったが、彼女の目線はリングよりも、すぐ隣を飛ぶ5番選手に向けられていた。
 単純な鴻鵠同士の飛行能力で言えば、恐らくバラクアの方が勝っているだろう。だが、リングをギリギリの所で駆け抜けたり、抜こうにも抜ききれない間合いの取り方でレースを進めていたりと言う5番選手のレース運びに、ルティカの胸の内は段々と焦れていた。
 ギリギリで詰め切れないレース運びが出来ると言うのは、即ち鴻鵠士としての腕が立つと言う証拠でもある。風を読む以外の全てをバラクアに丸投げしている今のルティカでは、到底太刀打ち出来ない、鴻鵠士としての実力差が如実に現れた。
 その事実が、ルティカの心に次第に、小さく風穴を開けつつあった。
 バラクアの地力は、現段階で5番の鴻鵠よりも勝っている。ルティカにはその確信があった。なのに、自分が無力であるが故に、抜き去る事が出来ないのだ。
 二周目の13番リング過ぎから、二頭はずっと抜きつ抜かれつの鍔迫り合いを続けている。

 リングの無い場所で並ぶのに、潜り抜けた時には少し引き離されている。
 リングを潜った直後の、翼の切り返し方。
 人口風に乗るタイミング、抜け出すタイミング。
 それらは、本来鴻鵠士が思案し、憂慮すべき問題なのだ。

 バラクアのレース運びは、ルティカの目からしてみれば申し分の無いものだ。ルティカが指示した時よりもずっと、素晴らしいレースを行っているし、この作戦で行こうと二人で決めたのだ。
 分かっている、これが自分達の作戦なんだと、分かっているつもりだ。
 だが、自身の鴻鵠士としての未熟さから、この作戦しか選べなかったと言うのもまた事実である。そんな焦りによって微かに開いたルティカの心の隙間へ、悔しさと言う寒風がするりと滑り込み、ルティカの気を漫ろなものにしていた。

 ――クソッ、私、何やってんだろ……。

 2番から5番のリングを潜っている最中、ルティカが並走する5番選手を見つめながら、そんな自分へ歯噛みをしていたその時、

「ルティカ! 5番リング後の風の強さは!」

 突如響いたバラクアの声に、はっと前を向く。
 すぐに5番リング直後の風力を伝えようとするが、時既に遅し、もう5番リングは目の前である。更にもっと最悪な事には、ルティカの目に飛び込んできた人口風は、かなりの強風であった事だ。
 5番選手はルティカ達のほぼ真横に並んでいたが、風の強さを事前に察知していたのか、翼を大きく開いてブレーキをかけていた。

 ――くそっ!

 ルティカの指示が間に合わないと判断したバラクアは、咄嗟に5番選手と同じ行動を取った。
 この状況では、恐らく最良の選択だろう。だがそれにより、強風の中に飛び込み、吹き飛ばされる事は無かったものの、風の隙間を慎重に潜り抜けていった5番選手に、再び溝を開けられてしまった。

「おいルティカ! ボケっとするな!」

 バラクアの怒号がネイバーから伝わってくる。

「ごめん、バラクア」
「集中しろ!」

 バラクアの声からも、焦りの色が滲み出ていた。
 5番選手と同様の路を辿りつつ、下降しながら6番リングを潜り抜ける。だがその時には、5番選手にリング一つ分まで差を開けられてしまっていた。

「ごめんね、私のせいで……」

 ルティカから、不意に弱音が零れ落ちた。思わず出てしまった卑屈さを、

「違う、ごめん、何でもない」

 と訂正するルティカだったが、直後バラクアから冷静な言葉が返ってくる。

「ふん、今更何が『私のせい』だ。今まで散々負けてきたレースは、ほとんどお前のせいだろう。やっと自覚が出てくれたようで助かる」

 バラクアの物言いに、思わずルティカはカチンと来た。

「はぁ? 何よそれ、ほとんど私のせいってのは言い過ぎじゃない? 私達の弱点は、チームワークの悪さだって結論になったでしょ! だったら、半分はバラクアの責任じゃない!」
「まぁそうだな。それでお前が納得するなら、そう言う事にしといてやろう」

 バラクアは涼しい口調を返しながら、事も無げに7番リングを潜り抜けていく。
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