異世界では巨大な鳥の首に跨りレースをするようです

泣村健汰

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第八章 決着

第八章 第九幕

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 バラクアが翼を広げて減速を開始した正にその刹那、猛烈な強風が、会場の地面の底を攫い上げ、ルティカ達を下から上へと吹き飛ばさんと襲い掛かってきたのだ。
 そう、それは四周目に、バラクア達を遥か上空へと吹き飛ばし、レベ達のレース復帰の一助を担った、あの風だった。海風とビル街の風が交じり合う故に起こりうる、フィオーナのレース場独特の上昇気流が、再びレースに波乱を巻き起こしに出現したのだった。
 活火山のマグマの如く、激しく地面から噴き出たかのようなその強風は、地面へと叩きつけられる寸前であったバラクアの身体から、遥か上空へと強引に、その猛烈なスピードを根こそぎ吹き飛ばした。
 ルティカは、瞬間的に上を見上げた。
 我慢比べに負けたベート達が、気流に飛ばされていく光景が視界の端に映る。
 スピードの呪縛から解き放たれたバラクアは、そのまま地面に軟着陸でもするかのように、レベル1に位置する14番リングの前で、軽やかに浮かび上がった。

「バラクア!!」
「おう!」

 ルティカの力強い咆哮に、バラクアが呼応する、
 忽ちの内に翼を翻し、激しい勢いのまま14番以降のリングを連続で潜り抜けていった。

 15番リング。
 現在、トップ。
 16番リング。
 ルティカ達の前には、もう誰も居ない。
 17番リング。
 勝利は、もう目前だ。
 18番リング。

 ――勝った!

 ルティカが思わず拳を握り締めた、その時だった。

「まだです!」

 ルティカのネイバーに、ぞっとする程の力強い声が聞こえてきた。
 ふと気がつけば、彼らのすぐ横、狭い範囲の音波しか受信しない筈の、レース用のネイバーに音波が届く程の近距離に、その声の主は、緋色の翼を貫禄たっぷりに広げて飛んでいた。
 ルティカの奥歯が強く噛まれる。
 当然の事ながら、レースはまだ終わってはいないのだ。
 太陽の羽と闇色の羽が再び並ぶ。
 二頭の鴻鵠は、ほぼ同時に18番リングを潜り抜け上昇した。
 19番リングへと向かう間際、ほんの僅かだが、レベがリングの内側を通り抜け、それによって再びバラクアはレベに先を行かれてしまう。
 鴻鵠士としての技術は、ベートの方が上……。
 それがこの土壇場で、微かな、だが確かな距離となって出てしまったのだ。
 バラクアは、心の中で強く強く願った。

 ――風よ! 頼む! 今、もう一度だけ!! 俺達の為に吹いてくれ!!!

 だが、バラクアの懇願も虚しく、19番リングを通り抜けた時には、バラクアは再度、レベの尾羽を拝む事になってしまった。
 最後の20番リングへと、二頭が連なり飛んでいく。
 バラクアがレベの尾羽を睨みつけた、その瞬間、そのギリギリの瞬間に、レベが颯爽と羽ばたき方を変えた。
 その瞬間にバラクが理解出来たのは、レベが自分達に対し、パストを放ったのだろうと言う、ぼんやりとした事実だけだった。

 駄目押しの一手。
 正に万事休す。

 このスピードで、この距離で、このパストを回避する術は無いだろう。
 完璧主義の坊っちゃんらしく、ベートは最後の最後まで気を抜かずに、攻めの姿勢を貫いて来た。
 断言出来る。
 今回のフレイク杯は、今までのレースの中で、最高のレースが出来た。持てる限りの全力を出す事が出来た。だが、それでも、一歩及ばなかったと言う事なのだろう。

 ――ルティカ、すまん……。

 心の中で、バラクアは思わずそう呟いていた。
 しかし次の瞬間、そんなバラクアの耳に、

「バラクア!」

 唐突に、ルティカの声が飛び込んできた。

「一度だけ、思いっ切り羽ばたいて!!」

 自信に満ち満ちたその声に、バラクアの身体は自然に反応した。無我夢中のまま、自らの翼が一度だけ大きく羽ばたくその光景を、まるで他人事の様に眺めていた。
 前方から後方へと、闇色の翼が流れていく。
 羽ばたきの最中、バラクアの身体はレベが起こしたパストの気流に突入していった。乱れた気流の為か身体が傾き、バラクア自身、バランスを崩したと思っ至った刹那、コバルトブルーの巨体は、くるくると猛スピードで回転を始めた。
 まるで拳銃から撃ち放たれた弾丸の様に、バラクアの身体は回転したまま直進し、パストで減速したレベを鮮やかに抜き去って、トップで20番リングを潜り抜けていった。
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