江戸の味、極めし者

にゃんころ魔人

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第14話:平蔵との対決、偽装の終焉

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本所の川沿い、冬の気配が漂う夜。佐久間宗太郎は、うなぎ屋「柳川」の裏口に立っていた。享保年間の江戸で、宗太郎の評は深川の焼き鳥、神田の蕎麦、佃の佃煮を名物に押し上げ、庶民の誇りを高めた。だが、松葉屋の藤兵衛と川柳の平蔵による偽装うなぎの策略、弥蔵の襲撃が、彼の命を脅かしていた。佃の浜田屋で弟子を志願した太郎、深川の源蔵、柳川の辰蔵、湊豆腐の菊乃の支えが、宗太郎の心を支えていた。腕と肩のかすり傷は癒えつつあったが、藤兵衛の陰謀が頂点に達する予感が、彼の舌を研ぎ澄ませていた。

柳川は、隅田川の支流近くに佇む小さな店だ。炭火の煙とタレの甘い香りが漂い、提灯の明かりが揺れる。店主の辰蔵は、宗太郎の評で名を上げた男だ。50歳を過ぎた彼の目は、職人の誇りと、宗太郎への信頼に満ちている。宗太郎は、辰蔵から届いた手紙を握りしめていた。そこには、「川柳が柳川の名で粗悪なうなぎを提供している」と書かれていた。宗太郎は、偽装の策略を暴き、平蔵との対決に臨む決意を固めていた。

「辰蔵殿、蒲焼を一串。白焼きも一品頼む。今日は、柳川の真の味を確かめる。」

辰蔵は頷き、炭火にうなぎを並べた。宗太郎は、煙の香りに鼻を動かし、辰蔵の手元を観察した。客は船頭や職人たちで、笑い声が響く。だが、宗太郎の心には、藤兵衛と平蔵の影がちらつく。偽装うなぎの策略は、宗太郎の評を貶め、柳川の名を汚す企てだ。彼は、舌と筆で真実を暴く覚悟だった。

やがて、蒲焼と白焼きが運ばれてきた。蒲焼はタレの光沢が琥珀のように輝き、白焼きは塩と炭火の香りが際立つ。宗太郎はまず蒲焼を手に取り、香りを嗅いだ。醤油と味醂の甘みが、炭火の苦みと混じる。彼は一口噛み、目を閉じた。

舌が喜んだ。うなぎの脂の旨味が、タレの甘辛さと調和し、舌の上で溶ける。炭火の香りが、味を締める。宗太郎は、辰蔵の技を確信し、つぶやく。

「この蒲焼、柳川の魂だ。脂とタレが、江戸の夏を呼び戻す。」

辰蔵は微笑み、客たちの視線が集まる。宗太郎は次に白焼きを味わった。塩のキレが、うなぎの甘みを引き立て、炭火の苦みが調和する。だが、宗太郎は、微かな違和感を捉えた。白焼きの一串に、脂の少ない古いうなぎが混じっている。宗太郎は目を細め、辰蔵に囁いた。

「辰蔵殿、この白焼き、一串だけが異なる。脂が薄く、身が硬い。柳川のうなぎじゃねえ。」

辰蔵は顔を強張らせ、厨房を確かめた。すると、仕入れのうなぎの中に、川柳から送られた粗悪なものが混じっていた。宗太郎は、平蔵の偽装を確信した。彼は、辰蔵に偽装の証拠を調べるよう頼み、川柳への潜入を決意した。



その夜、宗太郎は太郎を連れ、川柳の裏口に忍び込んだ。太郎は、17歳の漁師の息子らしい敏捷さで、宗太郎を支えた。川柳は、柳川に似た外観だが、店内には雑然とした空気が漂う。店主の平蔵は、40歳ほどの狡猾な男で、藤兵衛と手を組み、宗太郎を陥れようとしていた。宗太郎は、客を装い、川柳のうなぎを注文した。

「平蔵殿、蒲焼を一串。柳川の名を借りてる噂だが、真の味はどうだ?」

平蔵は目を細め、笑みを浮かべた。運ばれてきた蒲焼は、見た目は柳川に似ているが、香りに乏しい。宗太郎は一口噛み、舌で看破した。うなぎは古く、脂が抜け、タレは味醂の代わりに安い砂糖を使っている。宗太郎は、平蔵を睨み、静かに言った。

「平蔵殿、このうなぎ、柳川の名を汚す偽物だ。古い身に、砂糖の甘ったるさが滲む。真の職人は、こんな味を許さねえ。」

平蔵は顔を青ざめさせ、言い訳を始めた。だが、宗太郎は筆を取り、偽装を暴く評を書き始めた。


本所川柳の蒲焼、柳川の名を騙る偽物なり。古きうなぎは脂を失い、砂糖の甘さは真を隠す。柳川の魂は、辰蔵の炭火に宿る。偽りは、江戸の食を貶める。


客たちがざわつき、平蔵は焦りを隠せない。宗太郎は、太郎に証拠のうなぎを版元に届けるよう指示し、川柳を後にした。だが、路地に出た瞬間、弥蔵と平蔵の手下が刀を手に襲いかかってきた。宗太郎は身をかわし、太郎が網で手下を絡め取った。辰蔵と源蔵が駆けつけ、刺客を追い払った。

「佐久間殿、危ねえとこだった! 平蔵の奴、藤兵衛と組んでやがったな。」

源蔵の言葉に、宗太郎は頷いた。辰蔵は、偽装のうなぎの証拠を版元に提出し、宗太郎の評とともに広めた。翌日、川柳の偽装が江戸中に知れ渡り、平蔵の店は客足が遠のいた。柳川は、宗太郎の評で再び名を上げ、辰蔵は感謝の言葉を並べた。

「佐久間殿、お前の舌と筆が、柳川を救った。どう礼を言えばいいか。」

「辰蔵殿、礼なら次のうなぎだ。試作の骨揚げ、楽しみにしとくぜ。」

宗太郎は笑い、辰蔵と握手を交わした。だが、平蔵の敗北は、藤兵衛の怒りをさらに煽った。藤兵衛は、弥蔵に新たな刺客を雇うよう命じ、宗太郎の命を奪う計画を立てた。



その夜、宗太郎は宿に戻り、筆を走らせた。彼は、柳川のうなぎに感じた「江戸の魂」を記録し、辰蔵の技と太郎の勇気を称賛した。だが、路地の闇で、弥蔵と新たな刺客が動いていた。藤兵衛の最終計画が、宗太郎の命を狙う。
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