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第48話:徳島の恵み、新たな命の知らせ
しおりを挟む宗太郎と鮎子は徳島で新たな一日を始め、四国四県の旅を終盤に迎えていた。広島への帰還を胸に、愛媛でみかん料理を提案し、香川のオリーブ畑で七之助と出会い、高知でかつおのたたき、鍋焼きラーメン、ゆず釜飯を味わい、徳島では阿波踊りと吉野川の美しさに触れた二人は、旅の道すがら愛を深めていた。鮎子のお腹には気づかぬ新しい命が宿っており、その小さな変化が彼女の体に微かな影響を与え始めていた。
宗太郎と鮎子は徳島の宿で朝を迎えた。窓から差し込む朝日が部屋を優しく照らし、吉野川のせせらぎが遠くに聞こえていた。宗太郎はベッドから起き上がり、隣で眠る鮎子を見つめた。彼女の顔は少し青白く、旅の疲れが色濃く出ていた。彼はそっと彼女の髪を撫で、気遣いの念を抱いた。
「鮎子、そなたの顔色が思わしくないな。徳島での日々をそなたと楽しみたいが、体を労わってほしい。吉野川の朝がそなたを癒してくれるといいのだが…。」
鮎子は目を覚まし、宗太郎の声に弱々しく微笑んだ。彼女の体には気づかぬ命が宿り、微かな吐き気と疲労感が彼女を襲っていた。
「あなた…おはよう。少し気持ちが悪いけど、大丈夫だよ。あなたと一緒なら、徳島も素敵な思い出になるね。少し休めば元気になるから、気にしないで。」
二人は宿を後にし、徳島の街を散策し始めた。朝の市場は活気づき、地元の農家が新鮮な食材を並べていた。宗太郎は鮎子の肩に手を置き、彼女をそばに引き寄せたが、彼女の足取りが少し重いのに気づいた。風が二人の髪をなびかせ、旅の終盤を彩るような雰囲気が漂った。
「鮎子、そなたのそばにいると徳島の風も特別だ。体調が優れないなら無理せず、そなたの笑顔が俺の旅を支えるよ。今日は軽く街を歩いて、美味しいものを見つけよう。」
鮎子は宗太郎の胸に軽く寄り、照れながら囁いた。彼女の声には旅への愛着と弱さが混じっていた。
「あなた…ありがとう。少し気持ち悪いけど、あなたと一緒なら頑張れるよ。子供の話もしたけど、徳島でまた新しい夢を見たい。あなたの温もりが私の支えだ。」
宗太郎は鮎子の頬に手を添え、優しく微笑んだ。市場の喧騒の中でも、二人の世界は静かで親密だった。旅の終盤に差し掛かった今、彼らの愛はより深まりを見せ、鮎子の体調を気遣う気持ちが強まっていた。
「そなたの健康が俺の最優先だ。徳島での日々をそなたと楽しみつつ、そなたの体に気をつけたい。そなたの肌に触れるたび、俺の愛が深まるよ。」
二人は市場を抜け、小さな料理屋「すだち庵」へ足を運んだ。店は木造で、窓から見える庭にすだちの木が並んでいた。店主の源太郎、40歳の男性がにこやかに二人を迎えた。店内はすでに地元客で賑わい、繁盛の兆しが見えていた。
「ようこそ! 旅人か? 徳島のすだちを使った料理、いかがだ? 今日の特製、すだちうどん はどうだ? さっぱりして旅の疲れとそなたの奥さんの体を癒すぞ。」
宗太郎は源太郎に微笑み、注文を決めた。鮎子の体調を考慮し、軽いものを選んだ。
「源太郎殿、すだちうどんを頼む。旅の疲れを癒す味を求め、そなたの料理に期待しているよ。特にそなたの店が賑わっているのが心強い。」
源太郎は頷き、厨房で準備を始めた。すだちの爽やかな香りが店内に広がり、旅人の心を和ませた。程なくして、二人前に分かれた丼が運ばれてきた。
すだちうどん は、つるつるのうどんにすだちの果汁を絞った出汁が絡み、ネギと刻み海苔がトッピングされていた。すだちの酸味と出汁の旨味が口に広がり、夏の暑さを和らげた。
宗太郎は箸でうどんをすくい、香りを嗅いだ。すだちの爽やかさと麺の滑らかさが調和し、旅の疲れを癒す。鮎子もスプーンで味わおうとしたが、吐き気に襲われ、箸を置いてしまった。宗太郎は心配そうに彼女を見た。
「鮎子、そなたの顔色がさらに悪そうだ。このすだちうどん、美味しいが…無理はするな。宿に戻って休もうか?」
鮎子は弱々しく微笑み、首を振った。
「あなた…ありがとう。少し気持ち悪いけど、大丈夫だよ。このうどん、美味しそう…少しだけ味わいたい。」
宗太郎は頷き、うどんを味わいながら心の中で評を紡いだ。旅の思い出と徳島の風土を思い出し、筆を取り始めた。
すだちうどん、徳島の清涼が一碗に宿る。すだちの酸味がうどんと調和し、旅の疲れを爽やかに癒す。鮎子と共に見た味は、俺の旅路に新たな息吹をもたらす。
評を書き終え、宗太郎は鮎子に見せた。鮎子は目を細め、宗太郎の肩に頭を寄せたが、すぐに体調不良で顔をしかめた。
「あなた、素敵な評だね…すみません、気持ち悪い…。広島に戻ったら、父さんにも教えてあげたいけど、今は少し休みたいよ。」
宗太郎は鮎子の髪を優しく撫で、彼女の言葉に心を動かされた。源太郎は二人の様子に気づき、気遣いの言葉をかけた。
「若い夫婦だな。すだちうどんは徳島の誇りだ。体調が優れないなら、無理せず休んでけ。うちはこれからも繁盛するから、また来てくれ。」
宗太郎は源太郎に感謝し、鮎子を支えて店を後にした。すだち庵は地元客や旅人でにぎわい続け、評判が広がり繁盛の道を歩み始めた。
午後、鮎子の体調がさらに悪化し、宗太郎は宿の近くの診療所へ彼女を連れて行った。診療所は古びた木造の建物で、穏やかな医者・弥平、50歳の男性が二人を迎えた。診察後、弥平は穏やかに告げた。
「宗太郎殿、鮎子さんはおめでただ。新しい命が宿って約1か月ほど。旅の疲れと妊娠の初期症状が重なっているようだ。広島へ帰る前に、ゆっくり休むのが良いぞ。」
宗太郎は驚きと喜びで言葉を失い、鮎子を見つめた。鮎子は目を丸くし、信じられない表情を浮かべた。
「あなた…おめでた? 本当に? 子供が…私のお腹に?」
宗太郎は鮎子の手を握り、涙ぐみながら頷いた。
「a鮎子、そなたの体に新しい命が宿っている…。旅の疲れを越え、俺たちの愛が実を結んだのだ。広島で辰五郎殿にこの喜びを伝えよう。そなたを大切に守るよ。」
鮎子は涙を浮かべ、宗太郎の胸に寄り添った。彼女の声は震え、幸福と不安が混じっていた。
「あなた…嬉しいよ。でも、怖い…。あなたと一緒なら、子供を育てられるよね? 広島で、父さんに会って、家族になれるね。」
宗太郎は鮎子の背中を撫で、穏やかに答えた。
「はい、鮎子、そなたとの愛は俺の人生だ。徳島でのこの知らせを胸に、広島へ帰還しよう。辰五郎殿に子と旅の思い出を伝え、そなたと家族を築くよ。そなたのそばにいられることが、俺の幸せだ。」
二人は診療所を後にし、宿へ戻る道を進んだ。すだちうどんの香りがまだ心に残り、阿波踊りのリズムと吉野川の流れが二人の未来を優しく包んだ。鮎子のお腹に宿る命が明らかになり、宗太郎と鮎子の愛は新たな章へと進む確信に満ちていた。
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