桜の残響

にゃんころ魔人

文字の大きさ
3 / 5

第3話 運命の歯車

しおりを挟む
佐藤悠斗は、夜の庭で視界が暗転した後、なんとか正気を取り戻していた。さくらが心配そうに駆け寄り、彼の肩を支えた。  
「悠斗殿、またあの様子じゃ。無理しておるのでは?」  

「…ごめん、さくら。大丈夫だよ。ちょっと疲れただけ。」  
悠斗は笑顔を装ったが、心の中は嵐のようだった。

タイムループの兆候が日に日に強くなり、現代への引き戻しが近づいている気がした。さくらの温かい手を感じながら、悠斗は決意を新たにした。この時代に留まり、さくらと生きる。それが自分の選択だと。



翌朝、悠斗は奉行所の書庫で、さくらと共に神社の記録をさらに調べ始めた。昨夜の巻物に記されていた「時を繋ぐ灯籠」の記述が頭から離れなかった。

さくらは悠斗の真剣な表情に気づき、助け舟を出した。  
「悠斗殿、そなたが神社のことを知りたいなら、町の古老に聞いてみるのも一案じゃ。わたくしの知り合いに、昔の話をよくするお婆さんがおる。」  

「それ、いいね。会ってみよう。」  
さくらの提案に、悠斗は希望を見出した。古い伝承の中に、タイムループを止める手がかりがあるかもしれない。



その日の夕方、さくらは悠斗を町外れの小さな家に連れて行った。そこに住むお婆さん・お滝は、90歳を超えるというのに眼光が鋭く、記憶力も健在だった。さくらが挨拶を済ませ、悠斗を紹介すると、お滝は彼をじっと見つめた。  
「こりゃ、妙な者じゃな。着物が似合わん風体だ。どこから来た?」  

「えっと…遠くの町から旅してきて…。」  
悠斗は誤魔化したが、お滝はニヤリと笑った。  
「旅人? ふん、時を越えた者かもしれんな。灯籠の呪いに掛かったか?」  
悠斗は驚いて目を丸くした。

さくらが「何を?」と尋ねると、お滝は古い話を始めた。  
「昔、この町の神社に『時を繋ぐ灯籠』があった。触れると、過去や未来へ飛ばされると言われた。だが、戻る者は記憶を失うか、姿を消すかのどちらかじゃ。そなた、その呪いに掛かったのか?」  

「…呪い、ですか。戻る方法はあるんですか?」  

「あるにはある。灯籠を再び触り、元の時代に戻るしかなかろう。だが、心の準備はしておけ。時を越える代償は大きいぞ。」  
お滝の言葉に、悠斗の胸は締め付けられた。さくらと別れる覚悟を迫られているようだった。



帰り道、さくらは黙り込んでいた。悠斗が「どうした?」と尋ねると、彼女は小さく首を振った。  
「…悠斗殿、そなた、ほんとにこの時代の人ではないのじゃな。お滝の言葉を聞いて、わたくし、確信した。そなた、どこか遠くへ行ってしまうのか?」   

「さくら…。俺、確かに普通の旅人じゃない。でも、ここにいたい。そばにいたい。」  
悠斗は勇気を振り絞り、さくらの手を握った。

彼女は驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。  
「わたくしも、そなたがいてほしいと思う。…父上に相談してみよう。そなたを正式に家に迎え、わたくしと…。」  
言葉を途切らせたさくらの顔が赤くなった。
悠斗は心臓が跳ね上がるのを感じた。結婚の話だ。さくらと一緒に生きる道が開かれようとしていた。



数日後、庄左衛門が悠斗を呼び出した。書庫の仕事が認められ、正式に奉行所の書記として雇用されることが決まった。さらに、庄左衛門は意外な提案をした。  
「悠斗、そなたは働き者じゃ。娘のさくらもそなたを気に入っておるようだ。もし二人が意気投合するなら、婿入りも考えてもよい。」  

「え…それは…ありがとうございます!」  
悠斗は頭を下げた。庄左衛門は厳しい表情のまま頷き、部屋を出た。さくらが隣で微笑んでいた。  

「悠斗殿、父上が認めてくれたのじゃ。わたくし、嬉しい…。」  

「俺も…。さくら、ありがとう。」  
二人は庭で手を握り合い、桜の木の下で未来を誓った。悠斗は、この瞬間が永遠に続けばいいと願った。

だが、その夜、再び視界が揺れた。今度は前回よりも激しく、地面が波打つように感じられた。
悠斗は庭に倒れ込み、さくらが慌てて駆け寄った。  
「悠斗殿! 何とか言え!」  

「…さくら、俺…大丈夫だ。ちょっと…。」  
言葉を続ける前に、視界が白く染まり、耳鳴りが響いた。さくらの声が遠ざかり、悠斗の意識が薄れていった。次の瞬間、彼は再び現実に引き戻された。

目を開けると、そこは現代の東京だった。路地裏の神社。苔むした石灯籠。スーツのポケットには、残業の通知が鳴るスマートフォン。
悠斗は呆然と立ち尽くした。江戸の記憶が、霧のように薄れていく。さくらの笑顔、桜の木の下での約束、すべてが消えていく感覚に、彼は膝をついた。  
「…誰だっけ…?」  
胸にぽっかりと穴が開いたような痛みだけが残った。



だが、数分後、悠斗の頭に断片的な記憶が蘇った。薄桃色の着物。桜の花びら。誰かの温かい手。名前は思い出せないが、どこか遠くで「悠斗殿」と呼ぶ声が聞こえた。悠斗は立ち上がり、石灯籠に再び手を伸ばした。だが、反応はない。タイムループは一度だけなのか、それとも…。



その夜、悠斗は夢を見た。江戸の街。桜の木の下で、さくらが涙を浮かべて彼を見つめていた。  
「悠斗殿、そなたが幸せなら、わたくしも幸せじゃ。どうか、生きておくれ。」  
目覚めた悠斗は、枕に涙を残していた。記憶は曖昧だが、さくらへの想いが心に残っている気がした。



翌日、悠斗は奉行所の仕事を続けていた。江戸での時間は一瞬だったのか、数年だったのか、定かではない。さくらはそばにいなかったが、彼女の存在が彼を支えているようだった。ある日、書庫で新しい仕事が舞い込んだ。庄左衛門からの命令で、町の税制改革を進めるプロジェクトだった。悠斗は、さくらの父の意志を感じ、頑張ろうと決めた。

だが、夜になると、視界の端で桜の花びらが舞う幻覚を見た。タイムループの力はまだ終わっていないのかもしれない。悠斗は、再び江戸に戻る方法を探し始めた。さくらとの約束を守るためだ。


to be continued……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【時代小説】 黄昏夫婦

蔵屋
歴史・時代
 江戸時代、東北地方の秋田藩は貧かった。  そんな中、真面目なひとりの武士がいた。同僚からは馬鹿にされていたが真面目な男であった。俸禄は低く貧しい。娘二人と実母との4人暮らし。  秋田藩での仕事は勘定方である。  仕事が終わると真っ直ぐ帰宅する。 ただひたすら日中は城中では勘定方の仕事をまじめにして、帰宅すれば論語を読んで知識を習得する。   そんな毎日であった。彼の名前は立花清左衛門。年齢は35歳。  娘は二人いて、一人はとめ15歳。もう一人は梅、8歳。  さて|黄昏《たそがれ》は、一日のうち日没直後、雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯のことを言う。「|黄昏時《たそがれどき)」。 「黄昏れる《たそがれる》」という動詞形もある。    「たそがれ」は、江戸時代になるまでは「たそかれ」といい、「たそかれどき」の略でよく知られていた。夕暮れの人の顔の識別がつかない暗さになると誰かれとなく、「そこにいるのは誰ですか」「誰そ彼(誰ですかあなたは)」とたずねる頃合いという意味で日常会話でよく使われた。  今回の私の小説のテーマはこの黄昏である。  この風習は広く日本で行われている。  「おはようさんです」「これからですか」「お晩でございます。いまお帰りですか」と尋ねられれば相手も答えざるを得ず、互いに誰であるかチェックすることでヨソ者を排除する意図があったとされている。  「たそかれ」という言葉は『万葉集』に 誰そ彼と われをな問ひそ 九月の 露に濡れつつ 君待つわれそ」 — 『万葉集』第10巻2240番 と登場するが、これは文字通り「誰ですかあなたは」という意味である。  「平安時代には『うつほ物語』に「たそかれどき」の用例が現れ、さらに『源氏物語』に 「寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 夕顔の花」 — 『源氏物語』「夕顔」光源氏 と、現在のように「たそかれ」で時間帯を表す用例が現れる。  なおこの歌は、帖と登場人物の名「夕顔」の由来になった夕顔の歌への返歌である。  またこの言葉の比喩として、「最盛期は過ぎたが、多少は余力があり、滅亡するにはまだ早い状態」をという語句の用い方をする。 漢語「|黄昏《コウコン》」は日没後のまだ完全に暗くなっていない時刻を指す。「初昏」とも呼んでいた。十二時辰では「戌時」(午後7時から9時)に相当する。  「たそがれ」の動詞化の用法。日暮れの薄暗くなり始めるころを指して「空が黄昏れる」や、人生の盛りを過ぎ衰えるさまを表現して「黄昏た人」などのように使用されることがある。  この物語はフィクションです。登場人物、団体等実際に同じであっても一切関係ありません。  それでは、小説「黄昏夫婦」をお楽しみ下さい。  読者の皆様の何かにお役に立てれば幸いです。  作家 蔵屋日唱    

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...