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其の拾
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「……殿下」
「顔色が良くなっている。薬を飲ませておいたから、そのまま休むといい」
「ここは、何処ですか? なぜ、僕は……」
「言っただろう? また夜に迎えに行くと。側近と共に其方の部屋に行ったところ、意識を失い倒れているのを発見したのだ」
飛龍は青蝶の頬を撫でながら、その時の様子を話してくれた。しかし良く考えると、青蝶はヒートで自慰をしながら意識を失ったのだ。要するに飛龍が発見した時、青蝶は全裸に近い状態だったということになる。
青蝶は顔から火が出るほど恥ずかしくなった。背中の華を見られるのとは訳が違う。本来なら、人に晒すべきではないところまで見られたのだ。
助けてもらったとはいえ、今すぐ逃げ出したいほどの羞恥心に苛まれた。
せっかく飛龍と会えたというのに、顔すらまともに見られない。いや、見たところで今の青蝶にはハッキリと識別できるほどの視力を持ち合わせていない。それを目の当たりにするのは怖かった。それで余計に飛龍を見られないでいた。
「ここは睡蓮殿。今日からここが其方の住まいだ」
飛龍が突然切り出した。
睡蓮殿は聞いたことがある。確か側室が住む殿舎ではなかっただろうか。そんな所になぜ自分が住むことになったのか。疑問は次々と出てくるが驚きすぎて何から確認すればいいのか分からない。
戸惑う青蝶にお構いなく飛龍は話を続けた。
「其方の病気だが、今日色々と調べてみたのだ」
「百花瘴気のことでしょうか?」
「そうだ。残念ながら、薬で治すことは不可能だと分かった」
「それは……先生からも言われています」
病気が発症した時、暁明も初めての病状で必死に調べてくれたのを覚えている。そして、病気自体は薬で治せないが、発情期の症状を抑えることで少しでも病気の進行を遅らせられるのではないか……と、青蝶の症状を診ながら薬を調合してくれているのだ。
今まで何度も試行を繰り返してきたが、それでも背中の華は範囲を広げ、顔の皮膚は枯れていった。そして遂には視力さえも奪われ始めている。
これだけ暁明が研究を重ねても、自分の病気が治ることはない。ヒートが抑えられて、仕事が出来るだけ幸いだと思う他ない状況だ。
そう自分に言い聞かせて今に至る。
そんな青蝶に、飛龍は朗報があると言ったのだ。
「もしかすると、私には其方の病気が治せるかもしれない」
其の一言に、青蝶は目を見開いた。
「なぜ……ですか?」
「まだ信憑性は疑われるが、とある記述を見つけたのだ。『百花瘴気は、運命の番の体液を吸収することで回復する』というものだ」
飛龍は自信満々に言い切ったが、それでなぜ青蝶の病気が治ると言えるのか。
まず運命の番など、出会う人の方が少ない。いや、出会えるなんて奇跡に近い。その上その人の体液を吸収するなど、更に困難だと言える。
飛龍とは裏腹に、青蝶は顔色を失った。やはり、自分の未来は決まったと腹を括った。
番なんて生涯見つかる訳がない。ましてや運命の番など……。
落胆した青蝶の気持ちを読み取ったように、飛龍は青蝶の手を握った。
「其方は私を見ても何も感じないのか?」
「殿下を見て……?」
「私は青蝶が運命の番だと、初めて見た時から分かっていたのだが」
「ぼっ、僕が!? 殿下の運命の番?? そんなわけありません。僕は……もう身寄りもない、ただのΩです。殿下には釣り合いません」
「そう言うと思っていたよ。しかしね、私は確証を持っている。其方は間違いなく私の運命の番だ」
そっと手の甲に唇を落とす。まだ発情期の明けていない青蝶は、少しの刺激でも薬の効き目が切れてしまいそうでハラハラしてしまう。
視力の落ちた青蝶は、今、飛龍がどんな表情をしているのかも読み取れないが、こちらをじっと見ているのだけは雰囲気で分かった。しかし、視力についてまで話すべきか悩んでしまう。
自分の余命を感じ始めたところだ。それを話してしまうと、飛龍の期待を裏切ってしまうのではないか。余計な心配をかけるのではないか。万が一、番になったとして、自分は直ぐに息絶えるかもしれない。そんな人を側室にするなど、飛龍が許しても皇や皇后が許さないだろう。
返事に困っていると、飛龍は直ぐに返事をしなくても良いと言ってくれた。
「昨晩は寝かせてやれなかった。今日はたっぷりと眠るがいい」
「でも……部屋に仕事を置いてきています。明日、一度自室へと帰らせていただけませんか?」
「あんな危険な場所に帰りたいと言うのか?」
飛龍は信じられないと言った。いくら後宮が広大な土地とはいえ、あんな辺鄙な場所の、今にも崩れそうな古い殿舎に、何故青蝶が閉じ込められるように住んでいるのか。それに関しても、青蝶には秘密で側近に調査を言い渡している。
しかし仕事道具なら、明日一式こちらに運ばせると言っても青蝶は了承しなかった。今までとあまりにも格の違う部屋で落ち着かないと言うのだ。
飛龍は自分の将来の番があんな部屋で過ごすのは、とても見過ごせないと思ったが、一旦青蝶の望みを聞こうと思い直し、承諾したのだった。
「顔色が良くなっている。薬を飲ませておいたから、そのまま休むといい」
「ここは、何処ですか? なぜ、僕は……」
「言っただろう? また夜に迎えに行くと。側近と共に其方の部屋に行ったところ、意識を失い倒れているのを発見したのだ」
飛龍は青蝶の頬を撫でながら、その時の様子を話してくれた。しかし良く考えると、青蝶はヒートで自慰をしながら意識を失ったのだ。要するに飛龍が発見した時、青蝶は全裸に近い状態だったということになる。
青蝶は顔から火が出るほど恥ずかしくなった。背中の華を見られるのとは訳が違う。本来なら、人に晒すべきではないところまで見られたのだ。
助けてもらったとはいえ、今すぐ逃げ出したいほどの羞恥心に苛まれた。
せっかく飛龍と会えたというのに、顔すらまともに見られない。いや、見たところで今の青蝶にはハッキリと識別できるほどの視力を持ち合わせていない。それを目の当たりにするのは怖かった。それで余計に飛龍を見られないでいた。
「ここは睡蓮殿。今日からここが其方の住まいだ」
飛龍が突然切り出した。
睡蓮殿は聞いたことがある。確か側室が住む殿舎ではなかっただろうか。そんな所になぜ自分が住むことになったのか。疑問は次々と出てくるが驚きすぎて何から確認すればいいのか分からない。
戸惑う青蝶にお構いなく飛龍は話を続けた。
「其方の病気だが、今日色々と調べてみたのだ」
「百花瘴気のことでしょうか?」
「そうだ。残念ながら、薬で治すことは不可能だと分かった」
「それは……先生からも言われています」
病気が発症した時、暁明も初めての病状で必死に調べてくれたのを覚えている。そして、病気自体は薬で治せないが、発情期の症状を抑えることで少しでも病気の進行を遅らせられるのではないか……と、青蝶の症状を診ながら薬を調合してくれているのだ。
今まで何度も試行を繰り返してきたが、それでも背中の華は範囲を広げ、顔の皮膚は枯れていった。そして遂には視力さえも奪われ始めている。
これだけ暁明が研究を重ねても、自分の病気が治ることはない。ヒートが抑えられて、仕事が出来るだけ幸いだと思う他ない状況だ。
そう自分に言い聞かせて今に至る。
そんな青蝶に、飛龍は朗報があると言ったのだ。
「もしかすると、私には其方の病気が治せるかもしれない」
其の一言に、青蝶は目を見開いた。
「なぜ……ですか?」
「まだ信憑性は疑われるが、とある記述を見つけたのだ。『百花瘴気は、運命の番の体液を吸収することで回復する』というものだ」
飛龍は自信満々に言い切ったが、それでなぜ青蝶の病気が治ると言えるのか。
まず運命の番など、出会う人の方が少ない。いや、出会えるなんて奇跡に近い。その上その人の体液を吸収するなど、更に困難だと言える。
飛龍とは裏腹に、青蝶は顔色を失った。やはり、自分の未来は決まったと腹を括った。
番なんて生涯見つかる訳がない。ましてや運命の番など……。
落胆した青蝶の気持ちを読み取ったように、飛龍は青蝶の手を握った。
「其方は私を見ても何も感じないのか?」
「殿下を見て……?」
「私は青蝶が運命の番だと、初めて見た時から分かっていたのだが」
「ぼっ、僕が!? 殿下の運命の番?? そんなわけありません。僕は……もう身寄りもない、ただのΩです。殿下には釣り合いません」
「そう言うと思っていたよ。しかしね、私は確証を持っている。其方は間違いなく私の運命の番だ」
そっと手の甲に唇を落とす。まだ発情期の明けていない青蝶は、少しの刺激でも薬の効き目が切れてしまいそうでハラハラしてしまう。
視力の落ちた青蝶は、今、飛龍がどんな表情をしているのかも読み取れないが、こちらをじっと見ているのだけは雰囲気で分かった。しかし、視力についてまで話すべきか悩んでしまう。
自分の余命を感じ始めたところだ。それを話してしまうと、飛龍の期待を裏切ってしまうのではないか。余計な心配をかけるのではないか。万が一、番になったとして、自分は直ぐに息絶えるかもしれない。そんな人を側室にするなど、飛龍が許しても皇や皇后が許さないだろう。
返事に困っていると、飛龍は直ぐに返事をしなくても良いと言ってくれた。
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飛龍は信じられないと言った。いくら後宮が広大な土地とはいえ、あんな辺鄙な場所の、今にも崩れそうな古い殿舎に、何故青蝶が閉じ込められるように住んでいるのか。それに関しても、青蝶には秘密で側近に調査を言い渡している。
しかし仕事道具なら、明日一式こちらに運ばせると言っても青蝶は了承しなかった。今までとあまりにも格の違う部屋で落ち着かないと言うのだ。
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