【完結】後宮に舞うオメガは華より甘い蜜で誘う

亜沙美多郎

文字の大きさ
10 / 36

其の拾

しおりを挟む
「……殿下」
「顔色が良くなっている。薬を飲ませておいたから、そのまま休むといい」
「ここは、何処ですか? なぜ、僕は……」
「言っただろう? また夜に迎えに行くと。側近と共に其方の部屋に行ったところ、意識を失い倒れているのを発見したのだ」

 飛龍は青蝶の頬を撫でながら、その時の様子を話してくれた。しかし良く考えると、青蝶はヒートで自慰をしながら意識を失ったのだ。要するに飛龍が発見した時、青蝶は全裸に近い状態だったということになる。

 青蝶は顔から火が出るほど恥ずかしくなった。背中の華を見られるのとは訳が違う。本来なら、人に晒すべきではないところまで見られたのだ。
 助けてもらったとはいえ、今すぐ逃げ出したいほどの羞恥心に苛まれた。
 せっかく飛龍と会えたというのに、顔すらまともに見られない。いや、見たところで今の青蝶にはハッキリと識別できるほどの視力を持ち合わせていない。それを目の当たりにするのは怖かった。それで余計に飛龍を見られないでいた。

「ここは睡蓮殿。今日からここが其方の住まいだ」

 飛龍が突然切り出した。
 睡蓮殿は聞いたことがある。確か側室が住む殿舎ではなかっただろうか。そんな所になぜ自分が住むことになったのか。疑問は次々と出てくるが驚きすぎて何から確認すればいいのか分からない。

 戸惑う青蝶にお構いなく飛龍は話を続けた。

「其方の病気だが、今日色々と調べてみたのだ」
「百花瘴気のことでしょうか?」
「そうだ。残念ながら、薬で治すことは不可能だと分かった」
「それは……先生からも言われています」

 病気が発症した時、暁明も初めての病状で必死に調べてくれたのを覚えている。そして、病気自体は薬で治せないが、発情期の症状を抑えることで少しでも病気の進行を遅らせられるのではないか……と、青蝶の症状を診ながら薬を調合してくれているのだ。
 今まで何度も試行を繰り返してきたが、それでも背中の華は範囲を広げ、顔の皮膚は枯れていった。そして遂には視力さえも奪われ始めている。

 これだけ暁明が研究を重ねても、自分の病気が治ることはない。ヒートが抑えられて、仕事が出来るだけ幸いだと思う他ない状況だ。
 そう自分に言い聞かせて今に至る。
 
 そんな青蝶に、飛龍は朗報があると言ったのだ。
「もしかすると、私には其方の病気が治せるかもしれない」
 其の一言に、青蝶は目を見開いた。
「なぜ……ですか?」
「まだ信憑性は疑われるが、とある記述を見つけたのだ。『百花瘴気は、運命の番の体液を吸収することで回復する』というものだ」
 飛龍は自信満々に言い切ったが、それでなぜ青蝶の病気が治ると言えるのか。
 まず運命の番など、出会う人の方が少ない。いや、出会えるなんて奇跡に近い。その上その人の体液を吸収するなど、更に困難だと言える。
 
 飛龍とは裏腹に、青蝶は顔色を失った。やはり、自分の未来は決まったと腹を括った。
 番なんて生涯見つかる訳がない。ましてや運命の番など……。
 落胆した青蝶の気持ちを読み取ったように、飛龍は青蝶の手を握った。

「其方は私を見ても何も感じないのか?」
「殿下を見て……?」
「私は青蝶が運命の番だと、初めて見た時から分かっていたのだが」
「ぼっ、僕が!? 殿下の運命の番?? そんなわけありません。僕は……もう身寄りもない、ただのΩです。殿下には釣り合いません」
「そう言うと思っていたよ。しかしね、私は確証を持っている。其方は間違いなく私の運命の番だ」

 そっと手の甲に唇を落とす。まだ発情期の明けていない青蝶は、少しの刺激でも薬の効き目が切れてしまいそうでハラハラしてしまう。
 視力の落ちた青蝶は、今、飛龍がどんな表情をしているのかも読み取れないが、こちらをじっと見ているのだけは雰囲気で分かった。しかし、視力についてまで話すべきか悩んでしまう。
 自分の余命を感じ始めたところだ。それを話してしまうと、飛龍の期待を裏切ってしまうのではないか。余計な心配をかけるのではないか。万が一、番になったとして、自分は直ぐに息絶えるかもしれない。そんな人を側室にするなど、飛龍が許しても皇や皇后が許さないだろう。

 返事に困っていると、飛龍は直ぐに返事をしなくても良いと言ってくれた。

「昨晩は寝かせてやれなかった。今日はたっぷりと眠るがいい」
「でも……部屋に仕事を置いてきています。明日、一度自室へと帰らせていただけませんか?」
「あんな危険な場所に帰りたいと言うのか?」

 飛龍は信じられないと言った。いくら後宮が広大な土地とはいえ、あんな辺鄙な場所の、今にも崩れそうな古い殿舎に、何故青蝶が閉じ込められるように住んでいるのか。それに関しても、青蝶には秘密で側近に調査を言い渡している。

 しかし仕事道具なら、明日一式こちらに運ばせると言っても青蝶は了承しなかった。今までとあまりにも格の違う部屋で落ち着かないと言うのだ。
 飛龍は自分の将来の番があんな部屋で過ごすのは、とても見過ごせないと思ったが、一旦青蝶の望みを聞こうと思い直し、承諾したのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

冷遇されたΩは運命の竜に守られ花嫁となる

花里しろ
BL
*誤字報告ありがとうございます! 稀少なオメガとして王都に招かれたリュカは、夜会で酷い辱めを受ける。 悲しみに暮れるリュカはテラスに出ると、夜空を見上げて幼い頃に出会った初恋の相手を思いその名を呼んだ。 リュカ・アレオンは男爵家の末っ子次男だ。病弱なリュカは両親と兄・姉、そして領民達に見守られすくすくと育つ。ある時リュカは、森で不思議な青年クラウスと出会う。彼に求婚され頷くも、事情がありすぐには迎えられないと告げられるリュカ。クラウスは「国を平定したら迎えに来る」と約束し、リュカに指輪を渡すと去って行く。 時は流れ王太子の番として選ばれたリュカは、一人王都へ連れて来られた。思い人がいるからと、リュカを見向きもしない王太子。田舎者だと馬鹿にする貴族達。 辛い日々を耐えていたリュカだが、夜会で向けられた悪意に心が折れてしまう。 テラスから身を投げようとしたその時、夜空に竜が現れリュカの元に降り立つ。 「クラウス……なの?」 「ああ」 愛しい相手との再会し、リュカの運命が動き出す。 ファンタジーオメガバースです。 エブリスタにも掲載しています。

僕の事を嫌いな騎士の一途すぎる最愛は…

BL
記憶喪失の中目覚めると、知らない騎士の家で寝ていた。だけど騎士は受けを酷く嫌っているらしい。 騎士×???

的中率100%の占い師ですが、運命の相手を追い返そうとしたら不器用な軍人がやってきました

水凪しおん
BL
煌都の裏路地でひっそりと恋愛相談専門の占い所を営む青年・紫苑。 彼は的中率百パーセントの腕を持つが、実はオメガであり、運命や本能に縛られる人生を深く憎んでいた。 ある日、自らの運命の相手が訪れるという予言を見た紫苑は店を閉めようとするが、間一髪で軍の青年将校・李翔が訪れてしまう。 李翔は幼い頃に出会った「忘れられない人」を探していた。 運命から逃れるために冷たく突き放す紫苑。 だが、李翔の誠実さと不器用な優しさに触れるうち、紫苑の頑なだった心は少しずつ溶かされていく。 過去の記憶が交差する中、紫苑は李翔の命の危機を救うため、自ら忌み嫌っていた運命に立ち向かう決意をする。 東洋の情緒漂う架空の巨大都市を舞台に、運命に抗いながらも惹かれ合う二人を描く中華風オメガバース・ファンタジー。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!

白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。 現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、 ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。 クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。 正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。 そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。 どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??  BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です) 《完結しました》

オメガパンダの獣人は麒麟皇帝の運命の番

兎騎かなで
BL
 パンダ族の白露は成人を迎え、生まれ育った里を出た。白露は里で唯一のオメガだ。将来は父や母のように、のんびりとした生活を営めるアルファと結ばれたいと思っていたのに、実は白露は皇帝の番だったらしい。  美味しい笹の葉を分けあって二人で食べるような、鳥を見つけて一緒に眺めて楽しむような、そんな穏やかな時を、激務に追われる皇帝と共に過ごすことはできるのか?   さらに白露には、発情期が来たことがないという悩みもあって……理想の番関係に向かって奮闘する物語。

明日はきっと

ノガケ雛
BL
本編完結 11月5日から番外編更新 番に捨てられたΩが、幸せを掴んでいくお話です。 ツイノベで公開していた分です。 タイトル変更しました

処理中です...