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三章〜クレール・ベルクール編〜
21 落ち着いたその後……
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翌日の昼までぐっすりと眠っていたようだ。
研究室にはエリアスお父様が使いを出してくれたそうだ。
「二日休みをもらっておいたから、ゆっくり休みなさい」
「すみません。お父様の仕事まで変更させてしまいました」
「私のことなど、気にしなくていい。クレールの体調が何より大切だ」
何か食べられそうか? と聞いてくれたけれど、今はまだ何も食べたくありませんと、答えておいた。
一度起こした上肢を再びシーツに沈める。
気分は回復していた。熱もスッカリと引き、昨夜の急変が嘘のように平穏そのものだ。
マルティネス王子とヴィクトール様は夜のうちに帰ってしまっていた。僕に会わないよう、気を遣ってくれたのだろう。また、ヒートを起こせば大変だから。
あの感覚はアシルの中にいた時以来だ。
クレールとしてオメガ性を発症してから、こんなにも酷いヒートは起こしたことがない。
新薬を飲んでいた。ヴィクトール様にだけ効かなかった。
これが何を意味するのか……抗えない欲情。あの、真っ直ぐに僕を捉える琥珀色の眸。あれだけのヒートで酩酊しているような状態であったにも関わらず、目に焼き付けられたヴィクトール様の姿だけは鮮明に思い出せる。
結局、夕方まで寝たり起きたりを繰り返しながら過ごした。
抑制剤のおかげでヒートは治ったものの、なんとなく体に力が入らない。きっと昨日限界を超えて力んでいたと考えられる。腕に筋肉痛に似た痛みを感じる。
あれだけの事件を起こしてしまい、ヴィクトール様に失礼なことをしてしまった。
彼は大丈夫だっただろうか。
「もう、会えないかもしれないな」
少し残念に思いながらも、またあの酷いヒートを起こすのは怖い。次もみんながいるとは限らない。一人では、どうすることも出来なかった。ヴィクトール様から放たれる鎖にグルグル巻きにされたように、捕えられた獲物のような気分は、思い出しただけでも震えてしまう。
「クレール、入ってもいい?」
突然ノックと共に話かけてきたのは、アシルお母様だ。
「え? なんで……」
気のせいかと思ったが、入室したのは紛れもないアシルお母様だった。
「侍女が馬車で迎えに来てくれたんだ。怖かったね」
「……うん」
「今は、体調どう?」
「もうすっかり良くなってますが、食欲はありません」
「そっか、注射の後はそうなるよ」
アシルお母様は、何度も抑制剤の注射を打ったことがあるそうだ。
僕は一回くらいで気が滅入って恥ずかしくなる。
「オメガなら、誰でもあり得ることだから、そこは気にしなくていい」
「はい。でも、ヴィクトール様が怒っていないか気になってしまって」
「オメガのフェロモンで誘ったんじゃないかって、そう思ってる?」
確信を突かれ、頷くしか出来ない。
でもアシルお母様はそうではないと言う。フェロモンを抑える努力をしても、抗えない時もあるんだと続けた。
「ヴィクトール様を夜のうちに帰したのは、彼がまだ十六歳で学生だから。今、子供なんてできると大変じゃない? 番になるくらいならまだしも。子供の頃に仲が良かったとはいえ、十年以上ぶりの再会で、お互いこれまでの生活も何も知らないでしょ? 万が一二人が番になるとしても、それは早すぎる。本当はまた少しずつ時間が取れたらいいなって思っていたけれど、ヴィクトール様のアルファ性がもっと安定するまでは、会わせない方がいいねって話し合って帰ったみたいだよ」
「そう、なんですね……」
「それと、ヴィクトトール様がクレールに御免なさいと謝って欲しいって」
「ヴィクトール様が?」
「うん、自分のせいで怖がらせちゃったからって」
「そんなの、ヴィクトール様だけの責任じゃないのに」
せっかく再会を果たした僕たちだが、今度は強制的に会えなくなってしまった。
ノアとノランにもここには近づいてはいけないと言って、近づきもさせなかったようだ。
二人はいきなりラット状態になったヴィクトール様を目の当たりにし、相当ショックを受けていた。怪我こそなかったものの、突き飛ばされた後は身動きが取れなかった。
そりゃ、あの子達もアルファだ。あの獣に取り憑かれたように、自分もなるのかと思えば誰だって怖いだろう。
いつもなら、クレールに近づいてはいけないと言っても納得しないノランが、今回ばかりは二つ返事で了承したらしい。
後でフォローを入れたいと思ったが、二人も学校があるからと、もうこの屋敷を出た後だった。
「ぼくは三日ほどはここにいるからね」
「良かったです。アシルお母様がいてくれると、安心です。でもまだこっちに来たばかりで、もう迷惑をかけてしまいました」
「まだ学校を卒業したばかりじゃない。甘えてくれると嬉しいんだよ」
「はい」
夜までのんびりとアシルお母様と話をして過ごし、夜にはノアにノラン、そしてヴィクトール様にも手紙を書いた。
いつかまた、会えますように……。
研究室にはエリアスお父様が使いを出してくれたそうだ。
「二日休みをもらっておいたから、ゆっくり休みなさい」
「すみません。お父様の仕事まで変更させてしまいました」
「私のことなど、気にしなくていい。クレールの体調が何より大切だ」
何か食べられそうか? と聞いてくれたけれど、今はまだ何も食べたくありませんと、答えておいた。
一度起こした上肢を再びシーツに沈める。
気分は回復していた。熱もスッカリと引き、昨夜の急変が嘘のように平穏そのものだ。
マルティネス王子とヴィクトール様は夜のうちに帰ってしまっていた。僕に会わないよう、気を遣ってくれたのだろう。また、ヒートを起こせば大変だから。
あの感覚はアシルの中にいた時以来だ。
クレールとしてオメガ性を発症してから、こんなにも酷いヒートは起こしたことがない。
新薬を飲んでいた。ヴィクトール様にだけ効かなかった。
これが何を意味するのか……抗えない欲情。あの、真っ直ぐに僕を捉える琥珀色の眸。あれだけのヒートで酩酊しているような状態であったにも関わらず、目に焼き付けられたヴィクトール様の姿だけは鮮明に思い出せる。
結局、夕方まで寝たり起きたりを繰り返しながら過ごした。
抑制剤のおかげでヒートは治ったものの、なんとなく体に力が入らない。きっと昨日限界を超えて力んでいたと考えられる。腕に筋肉痛に似た痛みを感じる。
あれだけの事件を起こしてしまい、ヴィクトール様に失礼なことをしてしまった。
彼は大丈夫だっただろうか。
「もう、会えないかもしれないな」
少し残念に思いながらも、またあの酷いヒートを起こすのは怖い。次もみんながいるとは限らない。一人では、どうすることも出来なかった。ヴィクトール様から放たれる鎖にグルグル巻きにされたように、捕えられた獲物のような気分は、思い出しただけでも震えてしまう。
「クレール、入ってもいい?」
突然ノックと共に話かけてきたのは、アシルお母様だ。
「え? なんで……」
気のせいかと思ったが、入室したのは紛れもないアシルお母様だった。
「侍女が馬車で迎えに来てくれたんだ。怖かったね」
「……うん」
「今は、体調どう?」
「もうすっかり良くなってますが、食欲はありません」
「そっか、注射の後はそうなるよ」
アシルお母様は、何度も抑制剤の注射を打ったことがあるそうだ。
僕は一回くらいで気が滅入って恥ずかしくなる。
「オメガなら、誰でもあり得ることだから、そこは気にしなくていい」
「はい。でも、ヴィクトール様が怒っていないか気になってしまって」
「オメガのフェロモンで誘ったんじゃないかって、そう思ってる?」
確信を突かれ、頷くしか出来ない。
でもアシルお母様はそうではないと言う。フェロモンを抑える努力をしても、抗えない時もあるんだと続けた。
「ヴィクトール様を夜のうちに帰したのは、彼がまだ十六歳で学生だから。今、子供なんてできると大変じゃない? 番になるくらいならまだしも。子供の頃に仲が良かったとはいえ、十年以上ぶりの再会で、お互いこれまでの生活も何も知らないでしょ? 万が一二人が番になるとしても、それは早すぎる。本当はまた少しずつ時間が取れたらいいなって思っていたけれど、ヴィクトール様のアルファ性がもっと安定するまでは、会わせない方がいいねって話し合って帰ったみたいだよ」
「そう、なんですね……」
「それと、ヴィクトトール様がクレールに御免なさいと謝って欲しいって」
「ヴィクトール様が?」
「うん、自分のせいで怖がらせちゃったからって」
「そんなの、ヴィクトール様だけの責任じゃないのに」
せっかく再会を果たした僕たちだが、今度は強制的に会えなくなってしまった。
ノアとノランにもここには近づいてはいけないと言って、近づきもさせなかったようだ。
二人はいきなりラット状態になったヴィクトール様を目の当たりにし、相当ショックを受けていた。怪我こそなかったものの、突き飛ばされた後は身動きが取れなかった。
そりゃ、あの子達もアルファだ。あの獣に取り憑かれたように、自分もなるのかと思えば誰だって怖いだろう。
いつもなら、クレールに近づいてはいけないと言っても納得しないノランが、今回ばかりは二つ返事で了承したらしい。
後でフォローを入れたいと思ったが、二人も学校があるからと、もうこの屋敷を出た後だった。
「ぼくは三日ほどはここにいるからね」
「良かったです。アシルお母様がいてくれると、安心です。でもまだこっちに来たばかりで、もう迷惑をかけてしまいました」
「まだ学校を卒業したばかりじゃない。甘えてくれると嬉しいんだよ」
「はい」
夜までのんびりとアシルお母様と話をして過ごし、夜にはノアにノラン、そしてヴィクトール様にも手紙を書いた。
いつかまた、会えますように……。
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