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第三章
再会④
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移動する馬車の中でエルネスト王子殿下は『今朝のエクラがいかに可愛らしかったか』を語り続けた。
そりゃ、違和感と共に目覚めてみれば、私がペニスを舐めているのだ。エルネスト王子殿下の興奮も分からなくはない。もしも逆の立場なら、私は言葉にせずともやはり喜んだだろう。
肌が触れ合う時間が増えるほど、二人の距離も縮まってると感じる。
昨日より今日の方が、今日より、きっと明日の方がエルネスト王子殿下を近くに感じていると思うのだ。
それにしても聞いている方が恥ずかしくなってしまう。
私も突発的に恥ずかしい行動をとってしまったと、冷静になってから反省した。けれどエルネスト王子殿下は「反省などする必要は一ミリもない」と豪語する。
「毎日でも構わない。やはり一刻も早く結婚に向けて話を進めなくてはならない」
「でもエノ様はお忙しいですし」
「ドミナクスの調査もひと段落し、今は落ち着きを取り戻しつつある。あとは正式な発表や騎士団の采配などはあるが、それは私でなくとも任せられる。つまり……今まさに結婚せよと神に導かれているに違いない」
私の肩を寄せ、頬擦りをする。
草原の丘で過ごしていた時と変わらない愛情表現だ。これがアルファが驚愕するほどのマーキングであるのも含め……。
窓からは馬に乗るフィリオンの後ろ姿が見える。背筋を伸ばし、しなやかに馬を操る。
騎士としての彼はとても精悍で勇ましいだろう。
鍛錬する姿しか見たことがないが、きっと新騎士団発表の際は新しい騎士としての姿を拝めると期待している。
私はエルネスト王子殿下の話を聞きながらも、時折フィリオンに視線を向ける。
クロマやチップも家族のような存在だけれど、本当に血の繋がった兄と過ごす未来を、あの頃は想像もしていなかった。
隣には愛する人がいて、目の前には大切な家族がいる。そして大切な友人に会いに行く。
「こんな幸せな日々もあるんですね」
しみじみと噛み締める。
「こんな幸せが、当たり前になる人生にしてみせるよ。ほら、あの病院だ」
セリオは少し前に治療を受けていた病院で、今は経過観察や最低限の勉強も受けているそうだ。
奴隷としての姿しか知らない。
早く会いたい。心が逸る。
そんな私を見て、エルネスト王子殿下はクスクスと笑っていた。
王都の病院は店が並ぶ街並みから少し離れた自然豊かな丘にあった。
ドミナクス辺境地とは全く違う。空気すら美味しいと感じる。ここなら、セリオも元気になるはずだと思った。
馬車が病院の前で停まると、フィリオンが扉を開けてくれた。
「ありがとうございます。フィリオンお兄様」
「今は、エクラ様の方が身分は上ですよ」
「そんなふうに言わないでください。お兄様はずっと私のお兄様ですから」
フィリオンの手を貸してもらい、馬車から降りる。
続いてエルネスト王子殿下が降りると、待ち合わせをしているという敷地内の公園へと向かう。
フィリオンも何度か仕事で来たことがあると言うが、敷地内全てを知っているわけではないと言う。
「せいぜい、団員や自分の怪我の治療に来ていたくらいなので、こんなにもゆったりと散策をするのは初めてです」
子供なら走り回りそうなだだっ広い緑が広がっている。
所々にベンチも設置されていて、面会に来た人との団欒の場所にもなっているようだ。
その一つに座っている若い男性の姿が目に止まる。
濃いブラウンの髪、私と同じくらい華奢な体のライン、大きな眸。その人と目が合うと、同時に息を呑んだ。
「セリオ」
「エクラ……」
呟いて走り出す。
「会いたかった」
抱きしめあい、再会の喜びに二人して声をあげて泣いた。
「私だけ、逃げてごめんなさい。セリオは、ドミナクス辺境伯に捕まって聞いて……」
「でも結果的に逃げないでいたからアッシュヴェイル王子殿下に見つけてもらえた。それにこんな立派な病院で治療を受けさせてもらえている。自分の選択肢で間違えていなかったって、あの瞬間……牢屋の扉が開いてアッシュヴェイル王子殿下から話しかけてもらえた時、確信した。それに、エクラが無事だと聞いて嬉しかったんだ」
「セリオは辛い思いをしていたのに」
「僕はこれまでの生活が長引いただけだから。でも、監察官に密告書を送ってくれたんでしょ?」
これはきっとエルネスト王子殿下から聞いたのだろう。
私は頷き、これまでの経緯を話し始めた。
元気になったとはいえ、立ち話では話しきれない。
私たちはその場に腰を下ろし、話に没頭した。
セリオとの時間に集中するあまり、フィリオンの異変に気付いていなかった。
エルネスト王子殿下が瞬時に反応したが、フィリオンはもう走り出していた。
「……運命の、番……」
セリオに迫り、腕を掴んだ。
そりゃ、違和感と共に目覚めてみれば、私がペニスを舐めているのだ。エルネスト王子殿下の興奮も分からなくはない。もしも逆の立場なら、私は言葉にせずともやはり喜んだだろう。
肌が触れ合う時間が増えるほど、二人の距離も縮まってると感じる。
昨日より今日の方が、今日より、きっと明日の方がエルネスト王子殿下を近くに感じていると思うのだ。
それにしても聞いている方が恥ずかしくなってしまう。
私も突発的に恥ずかしい行動をとってしまったと、冷静になってから反省した。けれどエルネスト王子殿下は「反省などする必要は一ミリもない」と豪語する。
「毎日でも構わない。やはり一刻も早く結婚に向けて話を進めなくてはならない」
「でもエノ様はお忙しいですし」
「ドミナクスの調査もひと段落し、今は落ち着きを取り戻しつつある。あとは正式な発表や騎士団の采配などはあるが、それは私でなくとも任せられる。つまり……今まさに結婚せよと神に導かれているに違いない」
私の肩を寄せ、頬擦りをする。
草原の丘で過ごしていた時と変わらない愛情表現だ。これがアルファが驚愕するほどのマーキングであるのも含め……。
窓からは馬に乗るフィリオンの後ろ姿が見える。背筋を伸ばし、しなやかに馬を操る。
騎士としての彼はとても精悍で勇ましいだろう。
鍛錬する姿しか見たことがないが、きっと新騎士団発表の際は新しい騎士としての姿を拝めると期待している。
私はエルネスト王子殿下の話を聞きながらも、時折フィリオンに視線を向ける。
クロマやチップも家族のような存在だけれど、本当に血の繋がった兄と過ごす未来を、あの頃は想像もしていなかった。
隣には愛する人がいて、目の前には大切な家族がいる。そして大切な友人に会いに行く。
「こんな幸せな日々もあるんですね」
しみじみと噛み締める。
「こんな幸せが、当たり前になる人生にしてみせるよ。ほら、あの病院だ」
セリオは少し前に治療を受けていた病院で、今は経過観察や最低限の勉強も受けているそうだ。
奴隷としての姿しか知らない。
早く会いたい。心が逸る。
そんな私を見て、エルネスト王子殿下はクスクスと笑っていた。
王都の病院は店が並ぶ街並みから少し離れた自然豊かな丘にあった。
ドミナクス辺境地とは全く違う。空気すら美味しいと感じる。ここなら、セリオも元気になるはずだと思った。
馬車が病院の前で停まると、フィリオンが扉を開けてくれた。
「ありがとうございます。フィリオンお兄様」
「今は、エクラ様の方が身分は上ですよ」
「そんなふうに言わないでください。お兄様はずっと私のお兄様ですから」
フィリオンの手を貸してもらい、馬車から降りる。
続いてエルネスト王子殿下が降りると、待ち合わせをしているという敷地内の公園へと向かう。
フィリオンも何度か仕事で来たことがあると言うが、敷地内全てを知っているわけではないと言う。
「せいぜい、団員や自分の怪我の治療に来ていたくらいなので、こんなにもゆったりと散策をするのは初めてです」
子供なら走り回りそうなだだっ広い緑が広がっている。
所々にベンチも設置されていて、面会に来た人との団欒の場所にもなっているようだ。
その一つに座っている若い男性の姿が目に止まる。
濃いブラウンの髪、私と同じくらい華奢な体のライン、大きな眸。その人と目が合うと、同時に息を呑んだ。
「セリオ」
「エクラ……」
呟いて走り出す。
「会いたかった」
抱きしめあい、再会の喜びに二人して声をあげて泣いた。
「私だけ、逃げてごめんなさい。セリオは、ドミナクス辺境伯に捕まって聞いて……」
「でも結果的に逃げないでいたからアッシュヴェイル王子殿下に見つけてもらえた。それにこんな立派な病院で治療を受けさせてもらえている。自分の選択肢で間違えていなかったって、あの瞬間……牢屋の扉が開いてアッシュヴェイル王子殿下から話しかけてもらえた時、確信した。それに、エクラが無事だと聞いて嬉しかったんだ」
「セリオは辛い思いをしていたのに」
「僕はこれまでの生活が長引いただけだから。でも、監察官に密告書を送ってくれたんでしょ?」
これはきっとエルネスト王子殿下から聞いたのだろう。
私は頷き、これまでの経緯を話し始めた。
元気になったとはいえ、立ち話では話しきれない。
私たちはその場に腰を下ろし、話に没頭した。
セリオとの時間に集中するあまり、フィリオンの異変に気付いていなかった。
エルネスト王子殿下が瞬時に反応したが、フィリオンはもう走り出していた。
「……運命の、番……」
セリオに迫り、腕を掴んだ。
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